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第3話 幼年学校①

 魔力検査が行われてから、季節は巡り、再び春がやってきた。


 やわらかな陽射しが花壇を照らし、咲きそろった花々が、どこか誇らしげに揺れていた。


 入学式の朝、門の前には緊張した面持ちの親子たちが列をなしていた。

 新しい制服に身を包んだ子どもたちは、不安と期待の入り混じった顔で、これから始まる生活を想像している。


 百人ほどの子どもたち。

 カレスティナ市に住む者は親も同伴していたが、近隣の農村出身の子どもは、たいてい一人で立っている。

 通学できない者は、七歳にして寮生活となるのだ。


 親たちは口々に声をかけていた。


「しっかり勉強するんだよ」

「魔術師になれたら、お城にも呼ばれるかもしれないからね」

「お友だち、たくさんできるといいね」


 そんな中に、赤髪の少年——カイル・クロウフェルの姿もあった。


 母の手を煩わせることもなく、淡々と列に並び、何ひとつ表情を変えない。

 特に緊張もしていなければ、興奮もしていない。


 小さくあくびを一つ。ようやく噛み殺した時に、塀の上を歩いていた黒猫と目が合う。カイルはニヤリと猫に笑いかけた。黒猫はぷいと顔を向けて立ち去っていく。


 この少年はこの場が人生の節目であることすら、どうでもよさそうな様子だった。


 形式ばった入学式が終わると、新入生たちは三つの教室に分けられた。


 カイルはB組の教室に案内された。


 教室に入ると、整然と並ぶ机の上に、ひとつずつ銀色の小さな器が置かれていた。

 中には茶色い“何か”が乗っている。


「はい、皆さん。席順通りに着席してください」


 中年の女性教師が声を張り上げた。

 子どもたちは緊張しながら、自分の席に腰を下ろしていく。


「これから“種”を食べてもらいます」


 その一言に、教室内がざわついた。


「これは自らの中に魔力を産み出すためのものです。食べなければ、魔力が生まれることも、魔術を使うこともできません。

 味は普通のナッツのようなものですし、体にも害はありませんから、安心してくださいね」


 教師の言葉に、子どもたちはおそるおそる手を伸ばした。

 カリッ、という噛む音が次々と響く。

 「おいしー!」という無邪気な声もあちこちから聞こえた。


 カイルも手を伸ばし、茶色い種を指先でつまみあげる。

 しばらくじっと見つめていたが、小さくぼやいた。


「不味そうにしか見えないけどなぁ……嫌な予感がする」


 そのまま口に放り込んだ瞬間。


 これは、——毒だ。

 全身の神経がそう伝えてきた。

 もしかすると、前世の記憶かもしれない。


 思わず顔をしかめ、机の陰でこっそり吐き出す。

 バレないように、口だけはもぐもぐと動かしておく。


 幸い、誰にも気づかれなかったようだった。


「みんなよくこんなもんが食えるな……」


 吐き出したことに、特段の罪悪感も後悔もない。

 教師の言葉も、心の中で鼻で笑う。


 ——食べなければ魔力が芽生えず、魔術も使えない?

 

 ふぅん。

 そういうことになっているのか。




 翌日。


「皆さん。どうですか? 魔力は感じられましたか?」


 女性教師が教室の子どもたちを見渡した。


「はい! 何かが体の中に流れてる気がします!」

「僕も僕も!」「私も!」


 そんな声が次々に上がり、教室が一気に明るくなる。


 それまで何も感じたことのなかった彼らの体内に、確かに“魔力”が芽生えたらしい。


 教師もまた満足げに頷いていた。


「ええ、皆さん。その感覚こそが魔力です。今後はそれを鍛え、蓄積し、扱い方を学んでいくのです。努力次第で、あなたたちは立派な魔術師になれますよ」


 わぁ! と教室が沸いた。


 そんな中、カイルは頬杖をついて、窓の外をぼんやり眺めていた。

 木の枝の黄色い花が、風に揺られることもなく、咲いていた。


 カイルが眉をピクリと動かした。


 ——花びらがひとかけら、ふわりと舞い、ホロリと落ちた。

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