第12話 決闘の予感
見学席にいたルカは、ずっと試合を見続けていた。
だが、退屈さを感じなかったかと問われれば、そうでもない。
ほとんどの試合は、似たような展開だった。
騎士科の生徒が勢いよく突っ込み、魔術科の生徒が放つ魔術に吹き飛ばされるか、転倒するかして終わる。
騎士科の多くは、魔術というものを間近で見るのが初めてだった。
魔術科の生徒からの嘲笑に反発し、「見返してやる」と意気込んで試合に臨む者もいたが——結局、魔術の威力を思い知るだけの結果に終わる。
中には魔術を避けようと試みた者もいた。だが距離を詰めきれず、次の魔術を喰らって敗れる。
大体、そのどちらかだった。
ルカが興味を示した試合は、まずはレイナードのものだった。
相手は騎士科の中でもひときわ体格のいい生徒。だがその大きな体に似合わぬ速さで木剣を振るったのに対し、レイナードは冷ややかな目でその軌道を見切り、寸前で身を逸らすと、巨体が前のめりに崩れる瞬間を見逃さず、風の魔術を叩き込んだ。
彼の詠唱は短い。入学式の時にも見たが、レイナードは“二節詠唱”で魔術を発動させる。
ルカが学んだ魔術理論では通常、魔力を形にして放ち、呪文を唱え、具現化する。
だからこそ、詠唱は重要であり、複雑だ。
一般的には、五節詠唱から始まり、一ヶ月で四節、早い者で三節になる。
魔術を行使できない者——ルカだけだが——と、五節詠唱のままの者は、合同訓練での試合には出られず、見学扱いとなる。
——五節では魔術師とは呼べん。ガレンの口癖だった。
三節から二節への短縮は特に難しく、通常は早くても二年生の終わり頃に達する。
それを入学の時点で成し遂げているレイナード。彼がどれほどの才能を持ち、それ以上の努力をしたか、ルカにも想像はついた。
そしてもちろん、カイルの試合だ。
カイルの相手は、細身ながらも鍛え上げられた肉体を持つ騎士科の生徒だった。だが、いくらその男が木剣を振るっても——縦に、横に、容赦なく——カイルに一度たりとも当たらない。
観戦していた生徒たちからは、「真面目にやれ!」とヤジが飛んだ。
相手はムキになって振り下ろし、薙ぎ払うが、カイルはそれらを軽やかに、ステップを踏むような動きで避け続ける。まるで遊んでいるかのようだった。
だが、ルカには見えた。
カイルのまとう魔力が、わずかに揺らぎ、流れていたのを。
まるで、それが剣の動きを先読みし、わずかに身を引かせているかのようだった。
剣が振るわれるたびに、その動きに呼応するように魔力の流れが変わり、カイルの身体は自然と剣の軌道を外れていた。
明確な意思を持って、魔力がカイルの身体を導いているのだ。
ついに疲れ果てた相手が膝をつきかけた瞬間、カイルはすっと踏み込み、右手の手刀を相手の首筋にコツンと当てた。
そして、たった今行われたセリス・アストレイアの試合。
盾も兜も身に付けず、動きやすい軽装の防具に身を包んだ騎士科の女子生徒。艶やかな黒の後ろ髪は、この時は高く結い上げられている。
ルカは気づくのが遅れた——入学式で見た、あの後ろ姿の生徒であることに。
その剣を見た瞬間、ルカは心を奪われた。
二人との試合は、どちらも一瞬だった。一切の迷いなく、最小限の動き。
ただ速いだけではない。すべての動きが洗練され、無駄がまるでない。何より、彼女は正確に読んでいた。魔術がどこから、どう来るのか。魔術が発現される前にもう動き出していた。
——これが、彼女の剣か……!
あの二人が戦ったら、何が起こるのか。ルカには、想像もつかなかった。
◇
セリスは手にした木剣をじっと見つめていた。
やがて目を閉じ、静かに、深く息を吐く。
目を開けると、まっすぐに前を見据えた。
試合場の向こうから、赤い髪の少年が姿を現す。
首を軽く回しながら歩くその姿には、余裕と自信がにじんでいた。
——カイル・クロウフェル。
入学試験、序列一位。魔力計の針は振り切り、計測不能だったという。
入学式の日。あの騒ぎは、セリスの耳にも届いていた。
レイナード。魔術師を数多く輩出してきた名門シリウス家門。その中でも「魔術狂い」と呼ばれるヴァルティス伯爵家の三男。
幼年学校とは別に、幼少期から魔術を叩き込まれた生粋の英才。
それを、あっさり叩き伏せたのが、カイル・クロウフェルだったという。それも、無詠唱という規格外の魔術で。
——どれほどのものか、試してみたい。




