第10話 合同訓練
演習場は広大なグラウンドの一角にあり、四つの試合場が独立して配置されていた。それぞれが木製の柵と魔術結界で厳重に仕切られている。
この魔術結界は、内部の魔力や衝撃を外に漏らさないよう設計されたものだ。安全のためとはいえ、訓練で使うにはやや過剰とも思える強度である。
この日行われるのは、魔術科と騎士科による初の合同訓練。
参加するのは魔術科AクラスとCクラス、それに騎士科AクラスとBクラス。
魔術科は二クラス合わせて七十一人、騎士科は四十八人。参加人数だけで百人を超える規模だ。
ただし、魔術科の生徒は入学からわずか一ヶ月の現在、まだ習得途中の者もいた。実戦形式の訓練には、魔術行使の基準に達していない者は参加できず、授業の点数も与えられない。
見学となった生徒は十六人。
その中に、青髪の少年の姿もあった。
魔術科の生徒は、殺傷力の低い魔術を使用すること。
騎士科の生徒は、訓練用の木剣か長棒を使うこと。
この二つが、本訓練における主なルールだった。非殺傷の鏃の弓矢も許可されていたが矢を放つ隙が大きく、使う者は稀だった。
各試合場には担当教師がつき、試合の進行と安全の確保を監督していた。
出場する生徒たちは、自分に割り当てられた試合場へとそれぞれ移動していく。
セリス・アストレイアは、南西の第四試合場にいた。
「次、魔術科Cクラス、シルヴィア・ルーンブライト! 騎士科Bクラス、ディラン・クレイ!」
監督教師のガレン・ストームウィンドが声を張る。
呼ばれた二人の生徒が、直径二十メートルほどの試合場へと足を踏み入れた。
礼をするでもなく、ガレンの「始め!」の声で試合が始まった。
騎士科のディランは地面を蹴り、盾を前に突き出しながら一気に間合いを詰める。木剣は腰の高さに構えられ、その足取りには迷いがない。
対する魔術科のシルヴィアは、一歩も動かずその場に立ち尽くしていた。表情には焦りも警戒も見えない。
土埃が舞い上がる。ディランの突進は力強く、距離を詰める速度は際立っていた。
その動きから、日頃の鍛錬を積んできたことがうかがえる。
観客席のあちこちから、小さな驚きの声が漏れた。
その瞬間、試合場の空気がわずかに揺らいだ。
『Veyu, Runa, Zephyr——〈風よ、吹け、強く〉!』
澄んだ声が響いた瞬間、ディランの視界がぐにゃりと歪む。
突風が突如として巻き起こった。空間が裂けるかのような風圧が足元に渦を巻き、彼の体勢を揺さぶる。
よろけながらも咄嗟に盾を構え、正面からの圧力に耐えようとするが、そのわずかな乱れが命取りだった。
「うわっ——!」
ディランの身体は風にさらわれ、背中から地面に叩きつけられる。木剣が手から離れ、カラカラと乾いた音を立てて転がった。
「それまで!」
教師の声が試合場に無情に響いた。
「……ははっ!」
誰かが吹き出し、それが合図のように魔術科の生徒たちから笑いが広がった。
「何だよ、またすぐ終わったよ」
「突っ込むだけなら、誰にでもできるな」
「やっぱり“用無し”だよ、騎士なんて」
シルヴィアは肩をすくめ、ため息を漏らすと、転がるディランを見下ろしながら一歩踏み出す。
「正面から突っ込んでくるとか……対処しやすくて助かるわね」
その言葉が、剣よりも鋭くディランの胸を突いた。
地面に倒れたまま、彼は拳を握りしめ、悔しげに歯を食いしばる。
屈辱と痛みが入り混じったその顔に、泥がこびりついていた。
「次、魔術科Aクラス、マティアス・ヴォルト! 騎士科Aクラス、セリス・アストレイア!」
名前を呼ばれた瞬間、セリスは静かに立ち上がった。
椅子を引く音も控えめに、無駄のない動作で木剣を手に取る。顔には特別な感情の色は見えず、そのまま試合場へと向かった。
腰の近くまで伸びる艶やかな黒髪は結われており、馬の尻尾のように歩くたびにわずかに揺れた。
その眼差しは——鋭かった。




