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薔薇と鏡の王国《rewrite》—— “モブ”が書き換える、愛と死と回帰の物語。  作者: 舞見ぽこ
第5章 聖光の顕現、揺らぐ運命の座標

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第86話 白き羽と、燃ゆる誓い

 夕暮れ時。


 騒がしかった現場が少し落ち着いたころ、ハルカはスフレを連れて、森の縁へと足を伸ばしていた。


 草木の香りが心をほぐす。柔らかな風に乗って、小さな羽音が聞こえた。


 (……ん?)


 ふと足元の草むらに目をやると、そこに一羽の小鳥がうずくまっていた。


 淡い光沢を帯びた白銀の羽。

 どこか幻想的な──まるで絵本から抜け出してきたような美しさを持っていた。


 「……大丈夫? 怪我、してるの?」


 ハルカはゆっくりとしゃがみ込み、優しく手を伸ばす。


 小鳥は一度だけ羽をばたつかせたが、逃げようとはせず、そのまま彼女の手に身を預けた。


 「……怖かったんだね」

 

 スフレが「フスーッ」と小さく鳴いた。

 ハルカは笑って、彼の頭をぽんと撫でる。


 「大丈夫。仲良くしてあげて。しばらくこの子の面倒、見てあげたいんだ」


 スフレが首をかしげるようにして、小鳥を見つめる。

 けれど、ふと我に返ったように、ハルカは自分の腕の中を見下ろした。

 

 「……どうしよう、この子……」


 か細く鳴いて震える小鳥を胸に抱えながら、ハルカは途方に暮れていた。


 翼はうっすらと光を帯びるように白く、美しい文様がうっすらと浮かんでいる。

 どこか現実離れした気配を纏い、ただの野鳥とは思えなかった。


 人の出入りの多い場所では落ち着かないだろうし、動物の匂いが強い部屋に連れて行くのも心配だ。


 「静かな場所……どこか、ないかな」


 その時、背後から聞こえた足音に振り返る。


 そこにいたのは、レオニスだった。

 手には、簡素な木の鍵が一つ。


 「……ここ、使え。隣の部屋、片付けといた」


 「え……?」


 「物置だったけど、布団も入れといた。……鳥、静かな方がいいだろ」


 差し出された鍵と、その声の柔らかさに、思わず言葉を失う。


 「……本音を言えば、ほんとは一緒の部屋のままがよかったけどな。……まあ、しゃーないか」


 その言葉に、ハルカは一瞬だけ目を見開き——それから、ふっと笑った。


 「……ありがと」


 小さく呟いて、そっと鳥を胸に抱き直す。


 ──やがて、数日が過ぎ。


 手当てと静かな環境の中で、小鳥はゆっくりと力を取り戻していった。


 羽を震わせ、か細く鳴いていたその姿はもうない。


 そしてある朝、部屋の窓を開け放つと、鳥はふいに羽ばたいた。


 光の中をまっすぐに翔ける、神秘的な白い軌跡。

 その姿に、ハルカはただ、息を呑んで見上げた。


 「……元気でね」


 空の彼方に消える小さな影に、そっと手を振る。


 ──まだ知らなかった。


 その鳥が、ただの迷い鳥ではなかったことを——。


 

 * * * * * *


 

 鳥が空へと飛び立っていったその頃、隠れ里ではまた一つ、大きな変化が起きていた。


 ──人が暮らす場が、本格的に形を成し始めていたのだ。


 素材は、この地に自生する木材と、周辺から採取した石材のみ。


 だが、ガロスはそれを宝の山と呼び、地形を読み、風を読み、最短かつ堅牢な構造で住環境を整えていった。

 

 「この地に眠ってるモンで、いくらでも砦は建てられる」


 親方のその言葉に、弟子たちはもちろん、新たに加わった作業班の面々も勢いづく。


 仮設ながらも堅固な住居が、里の一角に次々と立ち並び始めた。


 避難民として受け入れられた者たちは、気がつけば道具を手にしていた。


 土を掘り、木を運び、壁を塗り、床を敷く。


 最初は戸惑っていた者たちも、次第に笑みを浮かべながら、互いに声を掛け合い、手を貸し合うようになっていた。


 ──今、この隠れ里には、およそ二百名が暮らしている。


 王都で暮らしていた平民たち。

 そして、地方の町や村から流れ着いた者たち。


 王妃派の圧政に反発し、密かにレオニスの呼びかけに応じて集まってきた人々だった。


 かつては家族と静かに暮らしていた者。

 商いを営んでいた者。

 魔術や学問に携わっていた者もいる。


 王都から逃れてきた者もいれば、

 重い税や徴発に苦しむ地方から、命からがら辿り着いた者もいた。


 皆、それぞれの理由で故郷を離れ、ここへ辿り着いた。


 「……ここが、第二の人生になるかもしれませんね」


 ふと、誰かが漏らしたその言葉に、誰も否定の声を上げなかった。


 それは、かつての王都では口に出せなかった願いだった。


 ──そしてその夜、仮面の梟が、皆を一カ所に集める。

 静かに語られたその言葉が、民の胸に灯をともした。

 それは、運命を動かす革命の音なき前兆だった。


 

 * * * * * *

 


 「──この国は、今や王妃の私欲によって蝕まれている。

 民は虐げられ、正義は踏みにじられた。

 我々は、ただの避難者ではない。ここに集ったのは、かつての家族を、仲間を、居場所を、理不尽に奪われた者たちだ」


 レオニスの演説が、夜の広場に響いていた。


 「……ならば、我らの手で取り戻そう。奪われた暮らしを、信じた未来を。

 ここに集うすべての者が、立ち上がる意思を持つならば──我らは革命軍だ」


 その言葉に、篝火がゆらめく。

 誰かが拳を握りしめ、誰かが唇を噛み締めた。

 だが、それぞれの心に、確かなものが灯るのを感じていた。


 新たに加わった五十人近い若者たちはもちろん、ガロスや弟子たちでさえも──この瞬間、心を揺さぶられていた。


 「……やるしかねぇな」


 ガロスがぽつりと呟く。


 それに、弟子たちがうんうんと頷いた。


 この日、里の人々はただ逃げてきた者たちから、立ち上がる者たちへと変わっていった。


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