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(22)2日目、お父様

王 お父様とのお話です。

 2日目は、とんでもないところから始まりを告げられる。


 「やあ、ルピナス!お父様とお忍びデートしよう!」


 「……は、い?」


 事の始まりは、そんな早朝のことだった。

 まだぼけまなこのメニールの部屋に押し掛けて来た王は、シルクハットに背広せびろという、下町のどこかで見掛けるような目立たない格好をしており、先程のセリフはどうやら本気のようだ。


 「楽しいぞ!お忍び!」

 「……宰相様の許可は…?」

 「無理矢理もぎ取った!」


 腰に手を当ててふんぞり返る王を尻目に、宰相の疲労が残りながらも儚げに笑う姿を思い出しながら、長く重い溜め息が出たのは、仕方がなかった_。


 ーーーーーーーーーーーー


 その後、メニールも薄い紫と桃色のワンピース型のドレスという、下町に馴染むような格好をして、王と馬車に乗り込んだ。


 「どうせなら、ルピナスの行きたい場所に行かないかい?」

 「…お父様となら、何処でも楽しみです。」


 恥じらいながらも本心を口にするメニールに、王はやんわりと微笑んだ。


 「そうか…嬉しいなぁ。」


 しみじみと呟いた王を見て、メニールの頭の中は嬉しい気持ちと悔しい気持ちでいっぱいになる。

 もしもあの事件がなかったならば、王もこんな顔はしなかっただろう。

 しかし、あの事件があったからこそ、ベリーやフリームと出会えた。そして翡翠とも_。


 そんなことを話しているうちに、馬車がある所で停まった。


 「ルピナス、着いたようだよ。」


 「あ、ありがとうございます。」


 扉を開けて先に馬車から出た王は、メニールに手を差し出してエスコートする。


 「娘をエスコートできるなんて、今でも夢じゃないかと、ひやひやしているよ。夢だとしても、覚めないで欲しいな。」

 「私もです。でも夢じゃないって朝、目が覚めると実感するんです。」


 しみじみと今、この時に感謝しながら王とメニールはとある劇場に入った。


 「今人気の劇だそうだ。恋愛モノらしい。」


 座った席は、一番高いだろう二階の見晴らしの良い個室じみたボックス席だ。

 劇が始まると、ざわついていた室内はしん…と静まり、役者の声が劇場内に響き渡った。




 __とある、昔のお話しです。


 幼い頃から継母にいじめられていたお姫様は、ある時運命の人に出会ったのです。


 「あなたの瞳は純度の高い水晶のように美しい。自身を醜いなどと言わないでください。」


 「けれど、私は醜いですわ!何もかも全てが…っ。」


 お姫様は泣き崩れます。


 「あなたを他の人にあげたくない、独占欲でいっぱいなのです。あなたは沢山の人に必要とされる存在ですのに…!」


 「それのなにがいけないんです?私だって君を誰にも見せずに閉じ込めたい。けれど君は一国の王女。それは出来ない。」


 決して交わることのない、二人の運命。


 それは、不幸な形で交わることとなった。


 「もっと…君、と生き、たか……った。ごめ……っ」


 「いや、いや…っいやぁぁ!!」


 男は亡くなり、お姫様は悲しみに暮らします。


 それからしばらく時がたったある日、お姫様が成人になったお祝いのパーティーで奇跡は起きました。


 「_初めまして。そして、お久しぶりです。逢いたかった。」


 「っ……本当に、あなた、なの…?」


 「はい。隣国で生まれ変わって、君を迎えに来ました。」


 お姫様の運命の人は、隣国の王子様に生まれ変わり結婚して、お姫様を一生大切にしたそうです。


 しかし、王子様が本当に生まれ変わりなのか、それとも違うのか、それは誰も知りません__。




 幕が閉じ、劇は終わった。しかし、メニールの心のざわつきは治まらない。


 「……(シオン様と私、みたい…?)。」


 「…ルピナス?お前も違和感を感じるか。」


 「っ…はい。」


 王も違和感を感じたのだろう。厳しい表情で幕の下がった舞台を睨んでいる。


 「_シオンの死は公式に発表はされていた。それに、クリスタル家のことも発表された。あの悲劇をこのように解釈するとは面白いな。」


 何も、怒っているわけではない。メニールも王も、こんな形で民に知れ渡る噂を見るなんて驚いただけだった。


 「あの事件は、王家にだけ語り継がれれば良い。」

 「そうです、ね。」


 劇場を出ると、馬車は使わずに歩いて次の目的地へと向かうようだった。


 ーーーーーーーーーーーー


 王が教えてないので、メニールはこれからどこに行くのか知らない。


 「市場…ですか?」

 「そうだよ。あそこは、面白い物が沢山並んでいるからね。」


 段々近づいているからだろう。人が増えてきた。すると、メニールの右手が温かい手に握られた。


 「迷子にならないように、ね。」


 王はメニールの手を引きながら人ごみを分けて、するする歩いて行く。その動きは、慣れているようだった。


 「皆には内緒だが、たまの息抜きによく来ているんだ。」

 「なら、これからは二人の秘密ですね。」

 「っあぁ、そうだな。」


 王は照れたように頬を掻くと、目的の店を見つけたのか道の両端にずらりと並んだ露店に近づいた。


 「久しぶりだな、店主。」

 「ん…?おぉ!久しぶりすぎますよ、旦那!お連れの方はどちら様で?」


 どうやら知り合いの店のようで、王も親しげに話している。メニールは話をいきなり向けられたせいで、少し驚いていた。


 「やっと見つかった娘だよ。ルピナス、こいつはいつも世話になっている店主だ。」

 「は、初めまして…。」

 「おう!見つかって良かったですな。えらい綺麗な娘さんだ。瞳の色も旦那とそっくりで。」


 今、メニールと王の瞳は魔法によって紫色になっていた。色彩の抜けたような瞳は、この国の王だけが持つものなので瞳をさらせば、ばれてしまう。逆に言うなら隠してしまえば、ばれない。


 「ありがとうございます。娘のルピナス、です。」

 「おうよ。いつもお前さんの父上に世話になっている、しがない店主だよ。」


 にかっと笑った店主は手を差し出し、メニールもそれに応えて握手をした。温かい、男性のごつごつした手のひら。

 少し前まで、キースのことを思い出すからと遠ざけていたもの。

 しかし、今は違う。男嫌いだったメニールはもういないし、キースを思い出して涙を流すこともない。


 「そうだ、良い品が入ったんだ。どうだい?娘さんに買ってやるのは。」

 「見てみようか。」

 「え、あ、でも…」


 「遠慮しちゃダメだよ。」


 そう言って店の奥から出て来た少し大きめの箱の中には、柔らかい布に包まれた装飾品が並んでいる。


 「っ…わぁ…っ。」


 メニールが一番に目に入ったのは、白銀のチェーンに3つの宝石が付いたネックレスだった。小ぶりのダイヤモンドと水晶の真ん中にそれより少し大きな緑色の宝石。


 「その緑色の宝石は、翡翠だよ。気に入ったかい?」

 「これが、翡翠…?」


 手に取ると、宝石特有の重みを感じる。翡翠がつくるだろう宝石を手にしたメニールの口元には、自然と頬笑みが浮かんでいた。

 それを見た王は、急に懐を探りだしたと思ったら、ごとりと重い音のする皮袋を店主の目の前に置いた。


 「……買う。」


 「毎度あり。…心を強く持てよ。」


 肩をぽんっと店主が叩くと、王は買ったばかりのネックレスをメニールに着けた。


 「と、お父様っ。私、自分で買えますよっ。」

 「気に入ったんだろう?…父親面させてくれ。」


 そう言われると、何も言えない。「ありがとうございます。」と、頬を赤くしながらメニールは小さな声でお礼を言った。


 その後、店主と別れたメニール達は、持ち込みが許可されているカフェに来ていた。


 「ラナンに、ルピナスの弁当は凄かったと聞いてな。楽しみだったんだよ。」

 「…期待すると損しますよ?」


 笑いながらスクランブルエッグを口にした王は、メニールにも分からないくらい一瞬固まったかと思うと、にこりと笑った。


 「うん。特徴のある味だね。」


 「…褒めているんですか?」


 こういう会話をラナンともしたな、と思いながら昼食の時間は過ぎていく_。


 ーーーーーーーーーーーー


 王家の棟に帰る途中のこと。



 __事件は起こった。



 「ルピナス、少しここで待っていてくれ。」

 「はい。」


 王がメニールと離れた瞬間だった。


 「っ…?!」


 突然、細い路地裏から出て来た男に後ろから羽交い締めにされたメニールは、パニックになって大暴れする。しかし、メニールは動いているつもりでも、男に押さえつけられた身体はほとんど動いていない。


 「ちらりと見た時にこれだと思ったんだが、なかなかの美人だな。高く売れそうだ。」


 「っ…。」


 メニールは驚きに目を見張る。男はメニールを売ろうとしているのだ。どうしようかと、働かない頭を必死に動かしていた時だ。


 「上玉だ。隣の野郎が邪魔だったが、離れてくれて助か…っぐはっ!!?」


 「__娘をその汚い手から離せ。下種げすが…。」


 声のする方向を振り向いたメニールが見たのは、怒りのあまり憤怒の表情のまま男を睨み付けている王だった。


 「……二度目はない。」


 「す、すみませんでしたーーっ!!」


 一目散に逃げて行った男を横目に、王はメニールの傍に駆け寄り、覗き込む形で膝をついた。


 「ルピナスっ…ごめんよ。大丈夫だったかい?何もされなかったかい?」

 「…お父様っ。私は、大丈夫です。何もありませんでした。」


 メニールの返事を聞くと、王は明らかにほっとしたような表情を見せ、胸を撫で下ろした。そして、溜め息をひとつ吐いた。


 「娘を幸せにしたいと願っても、そうは上手くいかないな。」


 「…お父様?」


 メニールに視線を向けられた王は、眉をすっと下げると、「何でもない。帰ろう。」と言って歩き出した。


 こうして、2日目はどこか影を潜めながら終わったのだった_。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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