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(21)1日目、ラナン兄

 スピネル・ラナンキュラス 第二王子とのお話しです。少々長めです。

 翡翠の提案の元、全員の予定も考えて、1日目は次男のラナンとなった。


 「と、言うわけで。騎士団の見学ついでに、俺の部下達を紹介しようと思うんだが、良いか?」

 「はい。」


 今、二人は馬小屋で馬に乗る準備をしていた。

 ラナンは騎士団に所属しているらしく、副団長だそうだ。


 「無理はしなくて良いからな。他に行きたい場所があったら言ってくれ。」


 ラナンの弱気な態度に、メニールは首を横に振って「楽しみです」と答えた。ラナンも安心したのか表情が柔らかくなる。


 「よしっ!なら、行きながら話すぞ。」


 ひらりと馬に跨がったラナンを見てメニールは、はっと気が付いた。


 「……(馬に…ちゃんと乗れるかしら…)。」


 目の前の馬を見上げてみる。…メニールの背丈を軽く越えている馬に、どうやって乗れというのだろうか。


 「ラナン兄……」

 「ん?あ、そうか。騎士団直属の馬の背は高過ぎたな。気付かず、すまないな。ほらよっ。」

 「っわ…っ。」


 ふわっとした浮遊感の後、メニールは気が付くとラナンに背を預けるようにして、馬に乗っていた。

 ラナンが乗せてくれたようだ。


 「行くぞ。しっかり掴まっていろよ。」

 「っはい。」


 こうしてメニールの、家族一人一人と過ごす1日目が始まった。


 ーーーーーーーーーーーー


 馬を走らせてから乗馬に少し慣れてきた頃、ラナンが今日の大まかな予定について説明し始めた。


 「父上様から、騎士団の内々ならば妹として紹介して良いと許可された。だから今日はちょっとした御披露目だ。…っとは言ったが、騎士団の皆は俺の第二の家族だから、肩の力は抜いて良いぞ。」


 「…失礼を承知で申し上げるのですが、外部に漏れる可能性は…?」


 メニールの質問に、ラナンは苦笑した。


 「そうだなぁ…『絶対にない!』とは言い切れるが、会ったこともない相手を信用できないだろ?まぁ会えば分かるがな。」


 「?はい…。」


 首を傾げながらも、ラナンの言うことに頷いたメニールは、しばらくは着かないと言われて、思考を色々なところに巡らせた時にふと考えた。


 「…(私の男嫌いの理由って、何だったかしら…)。」


 キースがきっかけなのは分かっている。けれど詳しい理由が思い出せない。何故、嫌いなのか__。


 「……い。おぃ…。ルピ…ス?…。」


 「……。」


 「ルピナスっ!!」


 「……あ、はい。」


 瞑想から戻ったメニールは、何事もなかったかのようにラナンに返事をした。

 その行動にラナンが溜め息をついた。


 「お前…まだルピナスという名前に馴れないのか?」

 「…?」

 「メニール、だったけか。俺もそう呼んだ方が良いか?」


 「いえ…。ルピナスが兄様達の妹なのですから、メニールという名前で呼ばれたら違和感しかないです。」


 それもそうだな、とラナンは馬の手綱を引いた。どうやら騎士団の屋敷に着いたようだ。


 「ほらっ…よっと。」

 「っありがとうございます…。」


 メニールが飛び降りようとする前に、ラナンはメニールをお姫様抱っこしてひょいと降りてしまった。


 「馬を繋いで来るから、ここで待っていてくれ。」

 「はい。」


 そう言って馬を連れて行くラナンの背を見送り、メニールは辺りを見回した。

 裏門から入ったのだろう。ここは訓練場なのか沢山の足跡が地面の土を踏み固めている。周りは開けていて、視界が広い。


 するとラナンが去って行った逆方向から人影が走ってこちらに来るではないか。

 人影はだんだんとメニールに近づき__


 「っ誰の了見でここにいる。空き巣か?男目当てか?…とりあえず尋問室まで来てもらおうか…。」

 「…。」


 剣を突き立てられたメニールは、何も言わずに騎士団の者だろう男に黙って着いて行った。


 「…(暴れたり、ここでラナン兄のことを話しても、信じて貰える可能性は低いわね)。」


 剣を片手に男は騎士団の屋敷へ入って行く。メニールもそれに付いていくと、脱走しないようにするための鉄格子が窓についた部屋に着いた。中には対談をするための椅子と机がある。


 「座れ。」


 黙ってメニールが座ると、男は机を挟んだ向こうに座った。


 「…とりあえず、名前を聞こうか?」


 「…クリスタル_」


 そこで、はっと気が付く。

 メニールはルピナスの本名を知らない。


 「……。」


 「?おい、名前も言えないのか?見たところ良家のお嬢様だろう。家出か?」


 「…いえ……。」


 メニールの名前はダメだ。王家への反逆の罪で捕らえられた家の者がここにいるなんて、怪しまない方がおかしい。


 「…(私の名前ってなんだろう)。」


 「それとも…捨てられたのか?」


 「っ…?」




  捨 て ら れ た ?


 誰に。


  両 親 に ?


 どちらの。


  見 捨 て ら れ た も 同 然 ?


 探せなかったんだよ。


  言 い 訳 な ん て 聞 た く な い よ ね ?


 仕方ないの。


  私 は 苦 し ん で あ の 人 達 は 笑っ て い て い い の ?


 知らなかったのよ。


  知 ら な か っ た か ら い い の ?


 …寂しい。


  そ う だ よ ね 辛 い よ ね ?


 …でも、




 「っ!ルピナス!!」


 「副団長っ!?」


 音をたてて入って来たのは、慌てて来たのか服装の乱れたラナンだった。


 「っそいつは俺の妹のルピナスだ!


  『アメジスト・ルミナリエ・クォーツ・ルピナス』。


  消えた王家の末姫だ!」


 それを聞いて、男は顔を青くした。


 「も、申し訳ございませんでした…っ!」


 「ルピナスっ!」


 「っ…あ…。」


 ルピナスは安堵からかそれとも他の理由からか、一筋の涙を流し、震えている。はっと気が付けば、ラナンが心配そうにルピナスを覗き込んでいた。


 「ルピナス…ごめん、な。来て早々にこんな…」


 「っいえ。それより、私の名前、アメジスト・ルミナリエ・クォーツ・ルピナス、なんですね。」


 「…ん?あ、そうか。まだ知らなかったか…。」

 「はい。」


 メニールが頷くと、ラナンは再度「ごめんな」と言い、苦笑した。


 「ルミナリエは王家しか使えない名なんだ。お前も王家…俺達家族の一員だからな。」


 「っ…はいっ。」


 『家族の一員』。その言葉にメニールに笑顔になる。




  捨 て ら れ た ?


 捨てらていなかったわ。


  今 更 で し ょ う ?


 そうかも。


  寂 し い 時 、 誰 も 助 け て く れ な か っ た よ ね ?


 その分、今があるの。


  き っ と ま た 捨 て ら れ る か も よ ?


 今度は絶対に諦めないわ。


  ど う し て ?


 だって__今の家族が大好きだから。


  そ う か。


  良 か っ た 。




 「皆、大好きです。」


 「っルピナス…!!」


 ーーーーーーーーーーーー


 その後、男がメニールが来ることを知らなかった理由が判明した。

 男は今日から騎士団見習いになったらしく、連絡が回っておらず、ふと目の端に映ったメニールを不審者だと認識して、ここまでに至ったらしい。


 「誠に、申し訳ありません…っ!!どうか処分の方を…!」


 「…ならば、騎士団で人一倍努力してください。そして努力に見合う地位を取って、国のため、自分のために使ってください。」


 メニールの言葉に、床に額を擦り付けていた男は、涙のにじんだ瞳で見上げた。信じられない、と思いながら。


 「あなたのその、強い正義感。良い方向に向ければ、救われる人が沢山いるでしょう。…私もその中の一人です。あなたのおかげで、色々なことを知りました。」


 「…ルピナス。」


 ラナンは思い当たることがあったのだろう。顔を俯かせている。


 「!しかし、それではっ…!」


 「納得しませんか?なら…」


 メニールの言葉の続きに息を呑む音が響く。


 「名前を教えてください。」


 「「……は…??」」


 これにはラナンも驚きを隠せなかったらしい。二人共、目を丸くしてメニールを凝視している。それはどういうことか、と。


 「あなたが大出世した時、あなたがあなただと分かるように、名前が知りたいんです。」


 「…れ、レモンと申します……。」


 頬を赤くして答えたのは、自信の名前が女の子らしくて恥ずかしいからだろう。

 しかし、メニールは嘲笑の笑みではなく、どこか羨ましそうな笑みだ。


 「恥じることなんてない、良い名前ですね。」

 「で、ですが…女子おなごのようでしょう?」


 「レモンにも花言葉があるんですよ。_名は体を表す…今のあなたみたいです。」


 「…え。」


 目をぱちくりとしたレモンに薄く笑いながら、ラナンを連れてメニールはその場を去った。

 「レモン、覚えておきますね。」と、言い残して__。


 ーーーーーーーーーーーー


 「なぁ、良かったのか?」


 ラナンは少し不満なのだろう。眉を少しひそめてメニールに聞いてきた。


 「あれじゃあ、処分とは言えないだろ。」

 「未来に期待できる者は残しておくべきです。先程の処分でこの先、更に期待できるでしょう。」


 メニールの考えにラナンは目を見開き、そして肩をすくめた。


 「我が妹ながら、末恐ろしいな。さすがだ。」


 「お褒めの言葉、感謝いたしますわ。」


 作法通りの美しい礼に、ラナンも溜め息で流すしかなかった。


 気を取り直してラナンは騎士団の屋敷を歩きながらメニールに色々なところを紹介し始める。


 そして最終的に着いたのは…


 「ここは騎士団の団長室だ。…紹介しよう。」


 ラナンがノックをすると、「どうぞ。」と中から返事がきた。


 「ラナンキュラスです。失礼します。」


 ガチャリ


 と、ラナンが扉を開けて中に入って行くのを、メニールも続いて入った。


 「あぁ、ラナン。そちらがお前の妹君かい?」


 「そうだ。ルピナスという。ルピナス、こいつが団長のランスロットだ。」


 ビシッと親指で指したのは、焦げ茶色の髪と瞳のとてもガタイの良い大男だった。


 「おいおい…仮にも上司だぞ、俺…。_騎士団団長のランスロットと申します。どうぞランス、とお呼びください。この度は来て早々に、申し訳なかった…。」


 「いいえ、大丈夫です。これからどうぞ、よろしくお願いいたします。」


 ルピナスの低い姿勢に苦笑を漏らしながら、ランスはソファーを二人に薦めた。


 「この度は……えーっと……、」

 「よし、ルピナス。挨拶も済んだし、中庭に行こうか。騎士団の訓練はすごいぞ?仲間も紹介したいしな。こんなどもったオッサン放って行こうぜ。」


 「え、えっと…。」


 メニールの視界には涙目のランスの顔。

 それを放っているラナン。何だか楽しそうだ。


 「行くぞっ(面白いから)!」

 「は、はいっ。」


 「ラナンーーっ!!」


 メニールにはラナンの副音声が聞こえた気がした_。


 ーーーーーーーーーーーー


 「 集合っ! 」


 ラナンの威厳ある声で、訓練していた全員が凄い勢いで整列した。


 「_知らせた通り、今日は俺の末の妹を紹介する。まだ未発表なんだか、お前達に自慢したくってな。」


 背中を押され、前に出たメニールに沢山の視線が突き刺さる。


 「…(やっぱり…認めてもらえない)?」


 「アメジスト・ルミナリエ・クォーツ・ルピナスだ。よろしくしてくれ。」


 シン……となり、ぎゅっとメニールが覚悟したその時だった。


 「っラナン副団長!おめでとうございます!!」

 「流石副団長の妹君です!お美しい…!」

 「は…っ!!て、ことは、お嫁さんになってくれたら、副団長はお兄様…?!!」

 「ばっか!!……って、それ良いな…。」

 「兄貴…。」


 沢山の拍手と、おめでとうという歓声。


 涙が、出そうだ。


 「…ありがとう、ございます…っ。」


 「「「「「「……(嫁にしたいっ)。」」」」」」

 「「「「「……(可愛いすぎるっ)。」」」」」


 和やかな空気が流れる中、一人だけ不穏な空気を流しながら腰にある剣を抜く者がいた。


 「お前らぁ?何、抜かしてんだぁ…。」


 「「「「ひぃ…!!!」」」」


 地を這うような低い声に、浮かれていた騎士団の者達が縮みあがる。


 「俺の妹に手ぇ出したらどうなるか…嫁に欲しければ、俺達5人のお兄様達を倒してから言いなぁ…?」


 メニール以外、全員の顔は真っ青だ。何故なら_


 「かかって来いやぁっ!!」


 憤怒の形相なのは、ラナンだからだった。


 「「「「ぜ、全員退避ー!!」」」」


 声を揃えて逃げ回る部下を容赦なく追い掛け回すラナンに、団長は青い顔をしながらメニールを仰ぎ見るが、メニールは首を横に振ってラナンを止めることは無理だと微笑んだ。


 「ひ、姫様ぁ~!」


 「無理です。」


 というのも、メニールは一部例外を除いて、男が大嫌いだ。

 ここはラナンに蹴散らしてもらった方が嬉しい。


 「ラナン兄ー。ほどほどにしてくださいねーっ。」


 「おうっ!!」


 「お昼はお弁当を作ってきたので一緒に食べませんかーっ。」


 「っ食べる!!!」


 まるで幼い子供のように返事をするラナンに、ランスは驚きとそして、喜びを隠せないのであった。


 ーーーーーーーーーーーー


 ラナンの追いかけっこも切り上げられ、メニールは温室にあったテラスの机に食事を並べていた。


 「…流石、俺の妹だな。」

 「?味の保証はいたしませんよ。」

 「どういうことだ?」


 試しに一口サンドイッチをかじってみる。


 「……っ?!」


 「…食べた皆様、全員そのような反応をするのです。美味しくないのでしょうか…。」


 眉を下げて悲しそうな表情をするメニールに、ラナンは慌てて口を開いた。


 「と、とても前衛的だったぞ!!」


 「…褒めているんですか?」


 じとっ…とメニールはラナンを睨んだが、ラナンが美味しそうに完食してしまう頃には、メニールも疑わなかった。


 「「ごちそうさまでした。」」




 このランチタイム以降は城に帰るまで何もなく、楽しい1日は終わった__。

レモンの花言葉 『誠実な愛』『思慮分別』『熱情』


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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