第7話 鬼の狙い
「うわぁ!!」
行く手をふさがれた夏帆は慌てて飛び下がる。夏帆より二回り大きな鬼を筆頭に次々と滝の中から小さな鬼が出てきた。
「最後の最後に出てきたね!!私がぼこぼこにしちゃうからね!!」
《土甲!!》
ゴン!
最初は鬼の出現に面食らった夏帆だったが、すぐに我に返り両拳を合わせ腕に土の小手を作った!
「どりゃぁ!!」
勢いに任せて鬼に向かって行く夏帆と、その後ろで慌てている旅団一行。
「隊長!」
「出てきたか…。迎撃班は夏帆と共にあの鬼たちと戦え!倒すことではなく道を開けさせることを優先しろ!残りは周囲を警戒し、更なる襲撃に備えろ!道が開けたら旅団を前に行かせるのだ!!」
「「「はっ!!」」」
兵士たちは慌てることなく隊長の命令を受け行動を始める!半分は道をふさぐ鬼たちの迎撃を始め、残り半分は旅団一行を安心させながら周囲の警戒を強めた。
「何をしている!全員で鬼を倒した方がいいんじゃないか!!」
「鬼が待ち伏せを仕掛けてきたんです。本来ありえないことが起きている…。他に何が起きるかわかりません。」
馬車の中から焦った貴族の声が聞こえるが、隊長は冷静に返し警戒しながらも思考をめぐらせた。
(鬼が隠れて奇襲を?いや、それなら何故あの鬼たちは夏帆の前に現れた?俺たちはまったく警戒していなかったのだから、滝の中から奇襲をかけられたら瓦解し大混乱になっていたはずだ。…あの鬼たちの目的は俺たちの瓦解ではない?)
「グァ!!」
旅団の先で戦っていた大きな鬼の一撃が夏帆の体を捉えた!
「うわぁぁぁ!!」
大きく吹き飛ばされ、宙を舞う夏帆。放物線を描きながら、隊長の近くに勢いよく落ちてきた。
「夏帆!」
「痛たた…平気!硬いだけで全然効いてないよ!」
土の小手のおかげでダメージはなかったのか、すぐさま立ち上がる夏帆。隊長もほっと一息つく――が、その一瞬の隙を突くように。
ドドドドドッ!!
「な、なんだ!?」
横の森から、巨大な影が突進してきた。
「ブモォォォォ!!」
分厚い皮膚と巨大な角を持つ犀の魔物が、脇目もふらず貴族の乗る馬車めがけて突っ込んでくる!
「迎撃を!!」
隊長の叫びと共に、近くにいた岩城が咄嗟に馬車の前に立ちふさがった。
ドゴォォォン!!
「うわぁ!!」
激しい衝突音と共に、岩城は犀の角に巻き上げられるようにして、体を持ち上げられてしまう。そのまま彼は馬車ごと森の奥深くへと引きずり込まれていった!
「岩城さん!!」
夏帆が咄嗟にその後を追う。
「待て、夏帆!」
制止の声も聞かず、夏帆は森の中へと駆け込んでいく。
「くっ、追うぞ!」
隊長が仲間と共に後を追おうとするが
「グァァァァ!!」
「グルルル…。」
まるで狙い澄ましたかのように、複数の鬼と魔物が道をふさぐように現れた!
「な、また…!」
(まさか、狙いは…!)
隊長の脳裏に嫌な予感がよぎった。
(貴族の馬車が、最初から狙いだったのか…!だとしたら、遅かった!だがなぜ!?)
これまでにない鬼や魔物の行動に思考を巡らせる。しかし、考えている暇はない。夏帆を追うことも、旅団を守り切ることも、目の前の敵を排除しなければ叶わない。
「くそ、まずは目の前の敵を排除するぞ!」
「はい!!」
歯を食いしばりながら、隊長は剣を構え周囲の兵士も気合を入れなおした。
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森の奥深く。土煙が晴れると、そこには半壊した貴族の馬車があった。
「くっ…な、なんだ、これは…!」
馬車から這い出てきた貴族は、幸いにも大きな怪我はないようだった。震える手で辺りを見渡す。
「くっ…!」
少し離れた場所に、岩城が倒れていた。全身から血を流し、意識も朦朧としていた。それでも彼は、震える体を無理やり起こそうとしていた。
「おい…貴様!その怪我…!」
「私は、だいじょうぶ…です」
「ブモォォォォ!!」
犀が体勢を立て直し、再び突進の構えを取る。標的は、動けない貴族へと定められていた。
「なぁ…!」
「黒瀬様、逃げ、」
言い終える前に、犀が猛然と突進を開始する!
その瞬間。
「させない!」
森を割って飛び出してきたのは、夏帆だった。
「はぁっ!!」
《土衝!!》
両手に土の小手を纏い、犀の横っ腹を殴りつけ、その突進を食い止めた。
ザシュ!!
「ブルルル」
「くぅ!!かったい!!けど、あと一撃入れられれば!!」
攻撃を受けても少し怯んだだけでダメージは無く、魔物は攻撃対象を夏帆に変えた。前足で地面を引っ掻き、力をためているように見える。
「ブォォォォ!!」
勢いをつけ夏帆に突っ込む魔物!だが夏帆はその圧力に屈さずに、華麗なステップで側面に回り込み、無防備な首元に渾身の一撃を叩き込む!
「たぁっ!」
ドゴォッ!
その一撃で、犀は大きくよろめき、そのまま地面に崩れ落ちた。
「はぁ、はぁ…岩城さん!黒瀬さん!大丈夫ですか!?」
「無事なわけあるか!死ぬかと思ったわ!」
「夏帆、ちゃん…!」
「岩城さん!…っ!凄い怪我…。大丈夫!私が何とかするから!!」
叫ぶ黒瀬をよそに、倒れている岩城へ駆け寄り、必死に呼びかける夏帆。
「街道に、戻らないと…!」
そう言って、夏帆は岩城を助け起こそうとする。だが、元の場所へ戻ろうとした、その時、
「グァァァァ!!」
「グルル、グルル…。」
今度は行く手を、大量の鬼と魔物の群れが塞いだ。
「そんな、こんなにたくさん…!」
絶望的な数の敵を前に、夏帆は思わず息を呑んだ。そして鬼が次々と攻撃を仕掛けてきて、防戦一方となる夏帆。岩城も何とか体を起こし、自分や背に庇う黒瀬を狙う魔物を倒していく。だがダメージが足にきているのか、早く動けるようには見えない。
「くっ!」
「夏帆ちゃん!このままじゃじり貧だ!黒瀬様を連れて逃げて…!」
「駄目です、岩城さんを置いていけません!」
二人を庇いながら戦う夏帆に、次々と攻撃が襲い掛かる。
「うっ!」
避けきれない魔物の爪の一撃を肩に受け、夏帆の体が大きく揺らぐ。
「夏帆ちゃん!」
「くっ…!」
倒れそうになる夏帆に追撃が来るが、岩城が身を挺して庇う。
「ぐわぁ!!」
「岩城さん!!」
傷を負った岩城へ、鬼がさらに追撃を仕掛ける!
《水盾!》
そこへ、黒瀬の放った水の障壁が、迫る鬼の攻撃を防いだ。
「黒瀬さん…!」
「儂とて何もせずに死にたくはないわ!!」
肩で息をしながらも、黒瀬は何度も水魔法を展開し、鬼の群れを牽制していく。だが、その顔色はみるみるうちに悪くなっていった。
「くっ、はぁ、はぁ…おい!逃げるぞ!!」
《水霞!》
黒瀬の放った霞は周囲を包み込み、三人の姿を隠した。その霞にまぎれて三人は、なんとか敵の追跡を振り切り、木々の陰に身を隠すことができた。




