スキをキャンセルしても消えないよ
翌朝。
運営本部は異様な静けさに包まれていた。
昨夜、管理画面に表示された――
呪い 有効
その文字は、まだ消えていない。
システム担当者は徹夜で原因を調べていた。
「ソースコードには存在しません。」
「ログは?」
「残っていません。」
「バックアップは?」
「昨日までのデータに戻しました。」
「それで消えたのか?」
担当者は首を横に振った。
「バックアップのほうが書き換えられていました。」
会議室の空気が凍りつく。
「そんなことはあり得ない。」
「あり得ません。ですが、過去七年分のバックアップすべてに、この項目があります。」
まるで、最初から存在していたかのように。
そのとき、一人の若い社員が震える声を上げた。
「見てください……。」
大型モニターに映し出されたのは、呪いの記事だった。
スキの数は昨日と変わらず「1」。
だが、コメント欄だけが異様だった。
誰もコメントを書いていない。
それなのに、新しいコメントが一秒ごとに増え続けている。
お腹が空いた。
次は誰?
まだ押さないの?
待ってるよ。
投稿者名は、すべて同じだった。
退会済みユーザー
運営が慌ててコメントを削除する。
一件消える。
だが、その瞬間、十件増える。
百件削除すると、千件増える。
やがてコメント欄は、一つの言葉だけで埋め尽くされた。
スキ
スキ
スキ
スキ
スキ
画面が更新されるたび、その文字は画面の外へあふれ出すように増殖していく。
「サーバーを止めろ!」
責任者の怒鳴り声が響いた。
メインサーバーの電源が落とされる。
館内の照明が一瞬だけ消えた。
誰もが安堵した、その瞬間。
暗闇の中で、一台だけモニターが光った。
電源ケーブルは抜かれている。
ネットワークにも接続されていない。
それでも画面には、新しい記事が表示されていた。
タイトル。
『まだ止まらない。』
本文は、たった一行。
『肥え太った豚どもよ。次は運営の番だ。』
その直後、社員全員のスマートフォンが同時に震えた。
通知音は一つだけ。
『あなたの記事に、スキが付きました。』
誰も記事など投稿していない。
恐る恐る通知を開いた社員の一人が、小さく息をのんだ。
そこには、自分でも書いた覚えのない記事が公開されていた。
タイトルは――
『絶対にスキを押してはいけない。』
そして画面の右上には、ゆっくりと数字が増え始めていた。
スキ 1
その「1」が、誰のものなのかを知っている者は、もう誰もいなかった。




