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NOTE  作者: 諏訪貴信


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呪〈天Ⅰ〉

通知が届いてから、運営の誰一人として記事を開こうとはしなかった。


社内では緊急会議が開かれた。


「この記事を削除してください。」


一人のスタッフが言った。


「できません。」


システム担当者は青ざめた顔でモニターを見つめていた。


「どういうことです?」


「記事のURLが存在していないんです。」


「存在していない?」


「公式サイト内のどこを検索しても出てこない。データベースにもありません。なのに、全ユーザーに通知だけが送られているんです。」


運営は、これまでに呪いの記事にスキを押した二百三十七人の調査を開始した。


すると、ある共通点が見つかった。


彼らは皆、スキを押した直後から毎日午前三時三十三分にログインしていたのだ。


本人たちは口を揃えて言った。


「ログインした覚えはありません。」


さらに奇妙なことに、ログイン履歴のIPアドレスは全員同じだった。


発信元は存在しない。


住所も、国名も表示されていなかった。


そこに記載されていたのは、たった一つ。


『NOT FOUND』


その日から、被害者たちは少しずつ変わり始めた。


誰もが記事を書き始めるのだ。


「今日は空が綺麗でした。」


「私はずっと待っています。」


「もうすぐ、あなたに会えます。」


文章は違う。しかし、最後の一文だけは全員が同じだった。


『スキをください。』


ある被害者は、自分の両手の写真を投稿した。


そこには、油性ペンで無数の「スキ」の文字が書き殴られていた。


別の被害者は、自宅の壁一面にハートマークを描いていた。


医師の診断では異常なし。


ただ一つだけ共通していたのは、彼らが異常なほど「スキ」を欲していたことだった。


「スキをもらえないと苦しい。」


「誰かに認めてほしい。」


「一つでいい。たった一つだけ。」


運営はようやく気づく。


呪われているのは、スキを押した人間ではなかった。


記事のほうが、人間の「承認欲求」を喰らっていたのだ。


スキを押すという行為は契約だった。


記事は読者からほんの少しだけ、「認められたい」という感情を奪っていく。


そして、それを餌に成長する。


記事が成長すればするほど、より多くの人間を惹きつける。


二百三十七人分の承認欲求を喰らった記事は、すでに普通の記事ではなくなっていた。


そんな中、一人の古参スタッフが呟いた。


「もし、このまま誰もスキを押さなかったら?」


システム担当者は、震える声で答えた。


「おそらく、消滅します。」


会議室に安堵の空気が流れた。


だが、その瞬間、モニターに新たな通知が表示された。


『おめでとうございます。この記事は100万回閲覧されました。』


「なぜだ!? まだ公開していないはずだ!」


誰もが混乱する中、閲覧者の国別データが表示される。


そこに記載されていたのは、人間のものではなかった。


・退会済みアカウント 421,391人


・削除済みアカウント 376,812人


・存在しないアカウント 201,796人


運営の一人が、小さく呟いた。


「まさか……。」


そして最後の項目が表示された。


・スキを押した人 237人


記事は、生きていた。


いや、ずっと昔からサイトの中に存在していたのだ。


人がアカウントを消しても、記事を削除しても、「スキ」という感情だけは消えない。


それらが長い年月をかけて一つに集まり、呪いの記事を生み出した。


午前三時三十三分。


運営の公式アカウントに、新しい通知が届いた。


『あと一人です。』


そして、画面の一番下に小さな文字が表示されていた。


『最後のスキを押した人が、次の投稿者になります。』

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