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NOTE  作者: 諏訪貴信


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けんがい

廃データセンターには、電波がなかった。


スマートフォンを見る。


圏外。


Wi-Fiも切れている。


外部ネットワークとの接続もない。


黒田は、それを確認してからスマートフォンを机に置いた。


「……これでいい。」


ここには誰も来ない。


誰にも連絡できない。


誰からも連絡は来ない。


そう思った。


しかし――


スマートフォンが震えた。


黒田はゆっくり画面を見る。


通知が一件。


note


「……ありえない。」


圏外なのだ。


通知が届くはずがない。


黒田は機内モードを確認した。


オン。


それでも通知は表示されている。


タップする。


画面に、


一つの記事が表示された。


投稿者――


水城真琴


タイトル。


『圏外』


本文は、


たった一行だった。


『あなたは、外から切り離されたと思っている。』


黒田は画面を閉じた。


すると、


また震える。


二件目。


三件目。


四件目。


すべて同じ記事だった。


本文が少しずつ増えている。


『でも、呪いは電波では届かない。』


黒田の手が止まる。


さらに一行。


『あなた自身が、受信機だから。』


「……馬鹿な。」


黒田はスマートフォンを床に叩きつけた。


画面が割れる。


それでも、


文字は消えなかった。


割れた液晶の奥で、


一文字ずつ表示されていく。


『読んだ。』


黒田は後ずさる。


その瞬間。


データセンターの奥から、


カタッ。


という音がした。


誰かがキーボードを叩いたような音。


黒田は懐中電灯を向ける。


誰もいない。


だが、


古い端末の電源が入っていた。


電源ケーブルは抜かれている。


画面には、


『接続なし』


と表示されている。


それなのに、


ブラウザが開いていた。


表示されているのは、


真琴の記事。


黒田は近づけない。


記事の閲覧数が増えていく。


1


2


10


100


1000


「誰が読んでる……?」


その質問に答えるように、


画面に文字が出た。


『あなた。』


黒田は首を振る。


「俺は読んでない。」


すると、


別の文字。


『では、誰があなたの目を使って読んでいるの?』


黒田は、


反射的に目を閉じた。


その瞬間。


すべてのモニターが消えた。


暗闇。


静寂。


そして、


耳元で声がした。


「黒田さん。」


黒田は飛び退いた。


誰もいない。


声は、


スピーカーからではなかった。


自分のスマートフォンからでもない。


頭の中から聞こえた。


「……真琴?」


返事はない。


代わりに、


暗闇の中で一つだけ、


赤いランプが点灯した。


古いサーバー。


そのランプが、


一定の間隔で点滅している。


黒田は近づいた。


そこには、


十年前のデータが保存されていた。


ファイル名。


MAKOTO_0624


黒田は震える手で開く。


映像が再生される。


真琴だった。


失踪した日の映像。


しかし、


これまで見た記録とは違う。


真琴はカメラの前に座っている。


そして、


誰かに話しかけていた。


「この映像を見るのは、黒田さんです。」


黒田は息を呑んだ。


映像の真琴は、


まっすぐカメラを見つめる。


「あなたはきっと、私が消えたと思っている。」


少し間を置いて、


真琴は続けた。


「でも、違います。」


「私は消えたんじゃない。」


「隠れたんです。」


黒田は画面に顔を近づけた。


「どこに……?」


映像の真琴が答える。


「圏外です。」


黒田の背筋が凍る。


「誰にも届かない場所。」


「誰にも見つからない場所。」


「誰にも読まれない場所。」


真琴は、


少しだけ笑った。


「でも――」


映像が乱れる。


「あなたが作った呪いは、ネットワークを必要としない。」


画面が真っ黒になる。


そして、


白い文字。


『呪いは、読む人間の中に保存される。』


黒田は動けなかった。


そのとき、


背後からまた声がした。


「だから、圏外でも大丈夫。」


黒田が振り返る。


今度は、


人影があった。


廊下の先。


黒い服。


長い髪。


顔は見えない。


黒田は叫んだ。


「真琴!」


人影は動かない。


黒田が一歩近づく。


二歩。


三歩。


その瞬間、


すべての照明が点いた。


そこには、


誰もいなかった。


ただ床に、


一枚のスマートフォンが置かれていた。


電源は入っていない。


画面も真っ黒。


黒田は恐る恐る拾い上げる。


突然、


画面が点灯した。


圏外


その下に、


新しい表示。


『感染しています。』


黒田はスマートフォンを落とした。


そして気づいた。


自分の手のひらに、


赤い文字が浮かんでいる。


まるで、


皮膚の下から浮かび上がってきたように。


『次の読者を探してください。』


黒田は必死に手を擦った。


消えない。


何度擦っても、


消えない。


そして、


データセンターの外。


完全な圏外。


誰もいない山道で、


一人の男がスマートフォンを見ていた。


当然、


電波はない。


それなのに、


画面には通知が一件。


『あなたへのおすすめ』


男がタップする。


記事が開く。


タイトルは――


『絶対にスキを押さないでください』


男は眉をひそめる。


「……圏外なのに?」


その瞬間、


画面の中央に文字が浮かんだ。


『読んだね。』


そして、


世界のどこかで、


また一人。


呪いを知った。

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