侵食汚染
その夜、noteに異変が起きた。
最初に気づいたのは、ほんの数人だった。
「なんか、おかしくない?」
タイムラインに流れてくる記事。
タイトルは普通。
内容も普通。
なのに、すべての記事の最後に、見覚えのない一文が入っている。
『読んだら終わり。』
誰かが記事を編集したわけではない。
投稿者本人が確認しても、その文章は書いていない。
それなのに、読者の画面にだけ表示される。
午前零時を過ぎると、異変はさらに大きくなった。
スキを押した瞬間、画面が一秒だけ暗くなる。
そして、ハートの横に見たことのない数字が表示される。
感染者:1
もう一度押す。
感染者:2
誰かがスクリーンショットを投稿した。
「これ何?」
その投稿は、一分で数千回拡散された。
そして、その瞬間。
感染者:12,481
数字が増えた。
投稿を削除しても止まらない。
別の人が同じ画像を投稿する。
数字はさらに増える。
「怖い」
「誰か止めて」
「運営に報告した」
「絶対にスキを押さないで」
その言葉さえ、呪いを拡散する材料になった。
やがて、noteのトップページそのものがおかしくなった。
おすすめ記事。
ランキング。
検索結果。
すべてに同じ記事が混ざり始める。
投稿者名は――
匿名
プロフィールを開いても何もない。
フォローもできない。
ブロックもできない。
ただ、一つだけボタンがある。
スキ
誰も押さなかった。
押せなかった。
しかし午前二時。
突然、その数字が「1」になった。
誰かが押した。
続いて「2」。
「3」。
「10」。
「100」。
「1000」。
誰も押していないのに、数字だけが増えていく。
運営側でも異常を検知した。
サーバーには大量のアクセスが発生している。
しかし、アクセスしているユーザーは存在しない。
削除済みアカウント。
凍結済みアカウント。
存在しないID。
そして――
十年前に消えたアカウント。
運営スタッフの一人が、その中に見覚えのある名前を見つけた。
「あ……。」
画面を見つめたまま、動かなくなる。
「どうした?」
「この人……。」
震える指で名前を指す。
それは、十年前に消えたクリエイターだった。
呪いの始まりとなった、あの人物。
そのアカウントから、新しい記事が投稿されている。
タイトルは――
『ただいま』
本文は、たった一行。
『ずっと、あなたたちが育ててくれた。』
その瞬間、note全体の画面が一斉に暗転した。
そして中央に、赤い文字が浮かび上がる。
『スキをください。』
誰かが叫んだ。
「絶対に押すな!」
だが、もう遅かった。
世界中で、ハートが押され始める。
一つ。
十。
百。
一万。
百万。
そして、その数字の下に新しい表示が現れた。
『呪いが完成しました。』
その直後、noteのすべての記事に、一つの文章が追加された。
『次は、書く番です。』
読むだけでは終わらない。
今度は――
書いた人間が、呪いを広げる側になる。




