呪いの正体〈解体〉
千年の呪いが終わったはずの翌日。
僕は、もう一度だけ『夏の匂い』について調べることにした。
検索しても何も出てこない。
キャッシュにもない。
アーカイブにもない。
存在した痕跡すら消えている。
ところが、一つだけ奇妙なものが残っていた。
アクセス解析だった。
僕の投稿には、毎晩午前3時33分になると、必ず一人の閲覧者が現れていた。
ユーザー名は表示されない。
IPアドレスも存在しない。
ただ、「滞在時間」だけが記録されている。
1000年。
そんな数字はシステム上、表示できるはずがない。
僕は運営に問い合わせようとした。
その瞬間だった。
新しい記事が投稿された。
タイトルは、
『アルゴリズムについて』
作者名を見る。
知らない名前だった。
だが、プロフィールを開いた瞬間、背筋が凍った。
プロフィール画像は、僕が子どもの頃に撮った写真だった。
自己紹介には、たった一行。
「私は、あなたがスキを押す前から、あなたを知っている。」
記事を読む。
内容は、noteのアルゴリズムについての解説だった。
どの記事が表示されるのか。
どの記事が推薦されるのか。
誰の「スキ」が、次の誰かの画面に影響するのか。
しかし、途中から文章がおかしくなった。
アルゴリズムは、人間が記事を選んでいるのではない。
記事が、人間を選んでいる。
僕は画面を閉じようとした。
できない。
マウスは動く。
キーボードも反応する。
なのに、ブラウザだけが閉じない。
最後の段落が表示された。
「noteには、表向きのアルゴリズムと、もう一つのアルゴリズムがある。」
「後者は、読者の興味ではなく、読者の記憶を分析する。」
僕は息を呑んだ。
過去に読んだ記事。
スキを押した記事。
途中で閉じた記事。
検索した言葉。
書こうとして消した文章。
それらすべてが、巨大な「読者の記憶の地図」を作っている。
そして、その地図の中心にいる人物が一人だけいる。
記事の最後に、その名前が表示された。
――僕だった。
いや。
正確には、僕ではない。
僕とまったく同じ名前を使っている、ひとりのnoteクリエイター。
そのアカウントの登録日は、noteが始まるよりはるか昔だった。
投稿数はゼロ。
フォロワーもゼロ。
なのに、「スキ」だけが374件ついている。
しかも、その374件は、すべて僕が『夏の匂い』で見た数字と一致していた。
僕はプロフィール欄を下へスクロールした。
そこで、隠された秘密を見つけた。
「初回投稿:1026年8月21日」
千年前。
つまり、言霊師が呪いを残した日だ。
だが、本当の恐怖はそこではなかった。
プロフィールの下部に、小さな文字でこう書かれていた。
「このアカウントは現在も活動しています。」
その瞬間、通知が届いた。
「あなたのフォロー中クリエイターが新しい記事を投稿しました。」
僕はフォローした覚えがない。
通知を開く。
記事タイトルは――
『その記事にスキをしたら絶対にいけないんだって』
投稿者は、あの千年前のクリエイター。
そして投稿時間は、
2026年8月25日 21時21分。
今、この瞬間だった。
記事の一番下には、一つだけボタンがある。
「スキ」。
その横に、数字が表示されている。
375。
僕はようやく理解した。
千年の呪いを動かしていたのは、怨霊でも言霊師でもなかった。
誰かが作ったアルゴリズムだった。
そして、そのアルゴリズムを作った人物こそ――
千年間、姿を変えながらnoteに潜み続けていた、ひとりのクリエイターだった。
画面に最後の一文が浮かぶ。
「次の一人を選ぶまで、あと一つ。」
僕の指は、ゆっくりと「スキ」の上へ近づいていた。




