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NOTE  作者: 諏訪貴信


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19/43

被害者が加害者に

最初に消えたのは、「読む」という行為だった。


ニュースは見られない。


DMは開けない。


コメント欄は閉じられた。


世界中で、人々は文章そのものを恐れ始めた。


「読んだら終わり。」


その噂は、どんな記事より速く広がった。


駅では、スマートフォンを伏せて歩く人が増えた。カフェでは通知音が鳴るたびに誰かが席を立つ。本屋では立ち読みをする客がいなくなった。


誰も、最初の一文字を見たくなかった。


運営には一日に何万件もの問い合わせが届く。


「タイトルだけ見てしまいました。」


「通知の一行だけ読みました。」


「広告に表示されたんです。」


担当者は同じ返答を繰り返すしかなかった。


「記事を開かないでください。」


だが、それはもう意味を失っていた。


記事は開くものではなくなっていた。


読者のほうへ来るようになったのだ。


ある被害者は、電車の窓に文字を見たと言った。


別の被害者は、レシートの裏に同じ文章が印字されていたと言った。


医師は「思い込みです」と説明した。


それでも被害者は増え続ける。


そして、調査で最も恐ろしい事実が判明する。


被害者たちは全員、同じ行動を始めていた。


「絶対に読まないで。」


その一言を、誰かに送り続ける。


家族へ。


友人へ。


同僚へ。


善意だった。


本当に助けたいだけだった。


しかし、その警告を受け取った人は必ず内容を確認してしまう。


「何を読んじゃいけないの?」


その瞬間、新しい被害者が生まれる。


主任はホワイトボードに一本の線を引いた。


「感染源は記事じゃない。」


もう一本線を引く。


「警告だ。」


部屋が静まり返る。


「恐怖は、人から人へ運ばれている。」


誰かが記事を読む。


恐ろしくなる。


誰かを守ろうとする。


警告を送る。


相手が読む。


また恐ろしくなる。


鎖は切れなかった。


被害者は、自分が加害者になったことに気づかない。


運営スタッフの一人が泣き崩れた。


「妹に送ってしまった。」


スマートフォンには送信履歴が残っている。


『お願い。絶対に読まないで。』


既読が一つ付いていた。


数分後、妹から返信が届く。


『何を?』


その返信を最後に、連絡は止まった。


主任はようやく理解する。


この「呪詛」は、人を傷つけたい者だけでは広がらない。


人を守りたい者ほど、広げてしまう。


悪意だけでなく、善意まで利用する。


それが、この仕組みの本当の恐ろしさだった。


その夜、運営の管理画面に新しい数字が表示された。


感染率 87%


数字はゆっくりと増えていく。


87.1。


87.2。


87.3。


誰も画面に触れていないのに。


そして、一番下に赤い文字が現れた。


被害者は終了しました。


数秒遅れて、その下にもう一行。


これより全員、拡散者です。

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