ネットの怨念
午前零時を過ぎると、noteの画面に奇妙な変化が起こる。
男はんが記事を投稿するたび、見慣れぬ通知がひとつだけ届くのどす。
――「怨念」が、あなたの記事を読みました。
最初は、誰かの悪戯やと思いました。
けれど、プロフィールを開いても、そんな名前のアカウントは存在しまへん。
アイコンは、真っ黒。
フォローは、ゼロ。
フォロワーも、ゼロ。
それやのに、記事だけは毎晩、必ず読まれている。
ある晩、男はんはとうとうコメントを残しました。
――「どなたさんどす?」
しばらくして、返信が届きました。
――「わしを忘れたんか。」
男はんの指が止まりました。
続いて、もう一つ。
――「菅原道真どす。」
「……そんな、馬鹿な。」
男はんが呟いた瞬間、部屋の電灯が消えました。
画面の中に、古びた文字が浮かび上がります。
怨念は、千年経っても消えまへん。
そして、次の瞬間。
男はんのnoteの記事が、勝手に書き換わっていきました。
自分が書いた覚えのない文章。
それは、道真公が大宰府へ流されるまでの記憶でした。
――信じていた者に裏切られたこと。
――都を追われたこと。
――誰にも理解されなかったこと。
――それでもなお、己の存在を忘れられなかったこと。
男はんは画面を閉じようとしました。
けれど、閉じられへん。
文字は次々と増えていきます。
そして最後に、一行だけが残りました。
「あんさんの怨念も、書いておくれやす。」
「わてには……怨念なんて……」
そこまで言うたところで、男はんは口をつぐみました。
思い出してしもうたのです。
自分を認めなかった人。
自分を見なかった人。
返事をくれなかった人。
そして、自分だけが取り残されたと思った夜。
胸の奥に、確かに何かがございました。
小さくて、黒くて、消したつもりでも消えへんもの。
男はんは震える指で、キーボードに手を置きました。
そして、一文字目を書きました。
――「わては、あの人を許せへん。」
その瞬間。
noteの「スキ」の数が、一気に増え始めました。
百。
千。
一万。
数字は止まりまへん。
けれど、男はんは気づいてしまいました。
増えているのは「スキ」の数やない。
画面の向こうで、誰かの怨念が増えているのどす。
そして画面の隅で、菅原道真が静かに笑っておりました。
「よう書けましたなぁ。」
雷鳴が京都の夜を震わせました。
「これで、あんさんの怨念も、もう消えまへんえ。」




