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NOTE  作者: 諏訪貴信


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12/43

悪意が広まっている

廃データセンターは、山の中にあった。


十年以上前に閉鎖された施設。


電気も水道も止まっている。


それなのに、建物の中から微かに機械音が聞こえていた。


調査チームは慎重に内部へ入った。


長い廊下の先に、明かりの漏れている部屋がある。


扉を開ける。


そこには、数十台のモニターが並んでいた。


すべての画面に、人間の名前が表示されている。


住所。


勤務先。


家族構成。


SNSの投稿。


交友関係。


そして、その横には一つの評価があった。


「恐怖耐性」


「なんだ……これ。」


捜査員の一人が息をのむ。


画面をスクロールすると、見覚えのある名前が現れた。


呪いのアカウントにスキを押した人間たち。


全員が、この施設で監視されていた。


しかし、その下にさらに恐ろしい項目があった。


「次の標的」


そこには、まだスキを押していない人間の名前まで並んでいた。


「どういうことだ?」


主任が画面を見つめる。


「この人たちは……まだ何もしていない。」


その瞬間、奥のスピーカーから声が流れた。


「何もしていない?」


低い男の声だった。


「本当に、そう思いますか?」


全員が振り返る。


「人間は、自分が何もしていないと思っているときほど、面白い。」


モニターに、一人の男性の映像が映し出された。


普通の会社員だった。


その男が誰かの投稿を見ている。


しばらく迷ったあと、画面を閉じた。


すると、別の画面に文字が表示される。


『嫉妬』


別の女性。


誰かの成功を見て、笑顔のままスマートフォンを閉じる。


『嫉妬』


別の人物。


友人の失敗を知り、心の中で少しだけ喜ぶ。


『優越感』


別の人物。


炎上している人間を見て、何度も記事を読み返す。


『快楽』


男の声が続く。


「私たちは、誰にも悪意がないとは思っていません。」


「むしろ逆です。」


「誰もが少しずつ持っている。」


「嫉妬。」


「妬み。」


「優越感。」


「復讐心。」


「他人の不幸を喜ぶ気持ち。」


「それを刺激すれば、人間は自分から動き出す。」


モニターに、最初の「呪いの記事」が表示された。


タイトル。


『絶対にスキを押してはいけない。』


「私たちは呪いを作ったんじゃない。」


男は静かに笑った。


「人間の中にあるものを、少し刺激しただけです。」


捜査員が叫ぶ。


「何のためにこんなことをする!」


しばらく沈黙があった。


そして男は答えた。


「理由なんてありません。」


「それが、一番怖いでしょう?」


モニターが一斉に切り替わる。


そこには、この実験に参加した人間たちの顔が映し出されていた。


研究者。


会社員。


学生。


運営スタッフ。


そして――


警察関係者。


「我々だけじゃない。」


男が言う。


「あなたたちの組織にも協力者はいる。」


誰も声を出せなかった。


そのとき、一人の捜査員のスマートフォンが鳴った。


画面には通知が一件。


『あなたの記事にスキが付きました。』


捜査員は青ざめた。


「俺は記事なんて書いていない。」


主任がスマートフォンを覗き込む。


そこには、知らないアカウントから投稿された記事が表示されていた。


タイトルは――


『人間の悪意について』


本文は、たった一行。


『あなたが最初に疑う人間は、誰ですか?』


誰も答えなかった。


なぜなら、その瞬間。


部屋にいた全員が、同時に別の誰かを疑っていたからだ。

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