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Act.49 対外的パフォーマンスも重要

今回短めです。

 


 その時、右から黒い影が私の前に出てきた。

 私の方から表情はわからないが、その雰囲気から、明らかな怒気が発せられている。



「な、なんだ?!帝国人、貴様俺に楯突くつもりか?!」

「これ以上の口論は無駄かと思われたので。アリエスハイム国王は賢王と名高い思慮深い方だと思ってはいたが、どうやら王太子殿はその血を一切受け継がなかったようだ。」

「なんだと?!」

「このような公式の場で我が国を侮辱した事、正式に帝国より抗議させていただく。」

「なっ!」

「それに、自身の婚約者でもあり、アリエスハイム王国の代表として我がパートナーを務めていただいた黒薔薇姫をも侮辱されたのだ、自国の未来の国母をも侮辱する王太子など、聞いて呆れる。」



 私もディリアスも口を挟む隙もなく、矢継ぎ早に繰り広げられる口撃に、周囲で見ている人達も唖然としている。いや、これが本当にただの帝国からの留学生であったのならこの光景に対して私は驚きはしても違和感など抱かなかった。


 ただ、これを言っているのはザック様なのだ。


 留学生であっても、その正体は暗殺者であり、こんな風に注目を浴びる事など避けて当たり前。元よりこんな事をしてもザック様にとっての利など一つもない。

 仮に留学生コクヨウを演じているのだとしても、コクヨウのキャラであるならば、ここは温和な笑みで少し窘めて終わるはず。

 何故こんな真っ向から王太子に対立しているのか?全く意図がわからない。



「私はここで辞させていただく。」

「え、ちょっ!コクヨウ様?!」



 するりと固まるディリアスの横を抜けて、ザック様は玄関ホールへ向かう。最早訳がわからない。

 しかし、彼は私の今夜のパートナーであり、私は国の代表として、未来の国母としてこの場にいるのだ。このまま彼を一人で放置する訳にはいかない。

 慌てて彼の後を追おうと、ディリアスの横を抜けようとした時、急に腕を掴まれた。



「…離してくださいませ、殿下。」

「後を追うつもりか。」

「コクヨウ様は大切な国賓。このまま一人で帰す訳には参りません。」

「貴様は!……くそっ、勝手にしろ!」



 掴んでいた手を思っていたよりもすぐに解放し、ディリアスはそのまま会場の奥へ歩いていった。


 一体なんだというのか。


 どういう意味かわからず、それよりもザック様だと玄関ホールへ目を向ければ、その近くにいたリナリーが、後は任せろと言わんばかりに頷いて手を振ってくれた。

 小さく笑って頷き返し、自然と開いた人垣の道へ走り出した。



 玄関ホールを出てすぐの入口前ですぐにザック様を捕まえることに成功した。まあ、ザック様は優雅に歩いていった訳だから、そんな急がなくても確かに捕まえられはしたのだろうが。


 私がその手を掴むと、小さく溜め息を吐いて、ザック様はこちらへ振り向いた。その顔は、少し申し訳なさそうな、コクヨウの顔だった。



「コクヨウ様、先程は我が国の者が大変な失礼を…。」

「いえ、貴女からの謝罪を受け取る訳には参りません。貴女も同じく、侮辱された被害者のはずです。」

「しかし、それでは私の気が収まりませんわ。この謝罪は黒薔薇姫としてではなく、ルシル個人のものとして受け取っては下さいませんか?」

「…それならば、余計に謝罪を受け取る訳には参りませんよ。貴女個人から謝罪を受けるべき事柄が、私にはありません。」



 まだまだ来賓が続く夜会。今来た者達はなんだなんだと私達のやり取りを見守っている。そんな衆目監視の中、素顔など見せられるはずもなく、私は真意の見えないザック様へこれ幸いと追求するのだった。



「あのように夜会を辞されては、連れて来てしまった私にも非がありますわ。御気分を害してしまった事、改めてお詫びをさせて下さい。」

「……私は、本国では皇室に連なるものとして扱ってもらってはいますが、その実、皇帝の血筋ではありません。本来ならば、貴女のような方が私の隣に並ぶべきではないのです。」

「…そう、だったのですね。」



 危ない、危うく知ってましたと馬鹿正直に言うところだった。


 ザック様の立場は、とても曖昧なものであり、帝国独自のものとして、アリエスハイムとしてはその扱いは高位貴族と同等という事で落ち着いている。

 何せ、城に住まい、皇帝と親しく、しかし血縁関係ではなく、帝国には貴族という位が存在しない為に、あくまで平民の子供。そんな微妙な立ち位置、どう扱えと言うのだ。無理難題過ぎる。

 下手な事をして帝国と戦争が起こす訳にもいかず、国王陛下の出した答えは、皇帝と親しく、城に住んでいるのなら、我が国の王族や貴族と同等、帝国からの国賓として扱うように。という事であった。


 しかし、それは王族と私達公爵家の者しか知らない事で、その他の者は皆、彼を帝国の皇族の者だと言われている。



 そんな情報をこんな公衆の面前で暴露してもらいたくはなかったのだが…もうこの際それはどうでもいい。何故あんなにザック様は怒ったのか、それが私の知りたい事だ。

いつも読んでくださってありがとうございます。


もし良ければ感想や評価などいただけると嬉しいです。

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