Act.45 あくまで交換条件
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「ルーシー!リナリー!」
「ドリー、ゴールおめでとう。」
「ありがとう。どっちが先だったの?」
「勿論ルーシーよ。二位ですって。私はぎりぎり三位だったわ。」
あれからすぐに講堂へ向かい、原作通りに私は二位でゴールした。真っ直ぐゴールに向かえば一位にもなれたけど、私には一位なんかよりも重要な任務があった為、それは仕方ない。
それに、私はほぼ全ての課題を一度でクリアするくらい問題ないように教育されてきたけど、それは私の魔力量があるからで、他の人達はそこまで魔法の訓練を積んではいない。
まあ、危険だからと最優先で訓練させられたお陰でだいぶ余裕があったのは、感謝しておこうと思う。
ゴールをした私はすぐにリナリーを待った。指と唇をすぐに治してもらう為だ。
十数分後にリナリーがゴールして来てくれたお陰ですぐに治してもらう事が出来たが、夜叉を一人生み出してしまったのは不可抗力だと思う。私のせいではない。決して。
「まあ、予想通りね。一位はアルガス様?」
「ええ、それも予想通りでしょう?」
「そうね…何か祝いの言葉を述べるべきかしら?」
「曲がりなりにも婚約者なのだから、言うべきではなくて?」
そう、ドリーの婚約者はノルテンス次期公爵であるアルガス様だ。いつだったか私が私の次に魔力量が多いと言った相手。
彼は現宰相の息子で、次期宰相でもあり、幼い頃からドリーとも仲が良かった。
私は代々宰相を務める彼の家柄的にローズシェット家の者としてそこまで親しくする訳にはいかず、顔を合わせても挨拶くらいしかしないのだけど。彼もドリーもそれを理解してくれていて、彼が私に近寄ることはしない。
だから二位でゴールして、顔を合わせていなくても不審ガられたりしなかったのは幸いと言えるだろう。
「ああ、あそこにいるわね。少し話してくるわ。この後の事もあるし、次はそちらでね。」
「え、ええ、そうね。また後で。」
軽やかな足取りでノルテンス次期公爵の元へ歩いていくドリーを見送り、私とリナリーはなんとも言えない空気を醸し出す。
今ドリーが言った、この後の事。それこそが今回のザック様への依頼の交換条件だからだ。
「…ルーシー。」
声を顰めて、リナリーは剣呑な雰囲気を纏いながら私に声を掛けてくる。
「リナリー、抑えて…。」
「…あのド腐れ詐欺師…会場で会ったら覚えてろ…。」
「ダメだよ…一応聖女なんだから…。」
「どうせエリオットに参加させないなら後夜祭の夜会も出禁にしてればいいのに。」
後夜祭。それがザック様の提示した条件。
『後夜祭にディリアスではなく、自分と行くこと』
後夜祭とは、エリオットの後に毎回行われる夜会で、学園生は全員出席の義務があり、慰労と社交の場を一緒くたにしたものだ。
だが、後夜祭と言っても夜会は夜会。本来ならば連れ添うパートナーは婚約者か配偶者、又は肉親が当たり前だし、貴族の暗黙のルールとして、婚約者のいる男女が別のパートナーを選ぶという事は、現れた時点で不義の証拠となる。
私の場合、婚約者が王太子なのだから、それをすれば現れた時点で不義の動かぬ証拠となり、不敬罪で投獄、極刑も有り得るのだ。
そんな命を賭けた賭け事に何故挑戦するかと言われれば、ザック様が条件を譲らなかったからなのだけど。一応これでも譲歩はされた方だ。最初はドレスを贈るからそれを着て来い、だったし。
多分贈られるドレスはザック様とお揃いの部分が多い、本来ならば婚約者同士が着るようなものになるのだろう。そうなったら本当に言い訳のしようもない。
リナリーは最後まで反対してくれたけど、一応言い訳はちゃんと考えたのだ。
『アマテラス帝国からの留学生に、こちらの夜会を楽しんでもらう為、未来の国母である自分がリードさせてもらった』という立派な建て前は用意している。
他国からの客人の場合、夜会へ出席する時にこちらの常識が通用しない事があるので、その時だけは婚約者や配偶者の有無は問わないという暗黙のルールがある。
それを逆手に取ろうという算段。
お互いの服装がお揃いでなければ、その言い訳で押し通せるし、ザック様がアマテラス帝国からの客人である以上、文句を言われる事はない。多分あの馬鹿王子は言ってくると思ってはいるが。
「まあでも、後夜祭までに指の跡治せてよかったよ…危うく極刑になるとこだったわ…。」
さすがに指にそんな傷跡を付けて、尚且つ婚約者が知らないとなれば、動かぬ不義の証拠として、嬉嬉としてあの馬鹿王子が突いてくるに決まっている。
そうなれば私だって何も言えないし、王太子の顔に泥を塗れば、さすがに王家も、その他の貴族だって黙ってない。確実に極刑コースまっしぐらだったろう。
そんな公爵令嬢としては綱渡りな交換条件も、私としては最推しとともに堂々と夜会に出席出来るという意味で完全なご褒美なのだけど。
「一つ忠告しておくけど、絶対あの詐欺師まだ何か企んでるわよ。」
「…やっぱりそう思う?」
「夜会に出席して何事もなく終わりなんてあるわけないじゃん。」
そうリナリーに言われ、思い付くものを捻り出してみようとするものの、何も出て来ない。正直私もザック様がそれだけで終わるわけはないと思っている。
しかし現状、出席する事にはもう問題はない。それに、出席自体はもう揺るがしようのない決定事項だ。
とりあえず出席して、その後の展開でどうするかを決める他ない。
その時、最後の人がゴールをしたらしく、鐘が鳴り響いた。これをもって、エリオットは終了。今から全員帰宅し着飾って、講堂に併設されている大広間へ来なければならない。
「いい?ルーシー。絶対最後まで警戒解いちゃダメだからね。」
「わかってるよ…リナリーもちゃんと着飾りなよね、どうせフィリップにエスコート頼んでるんでしょ?」
「当たり前じゃん!後夜祭まで含めてエリオットイベントなんだから!」
言いながら、私達は講堂を後にする。うきうきした様子の彼女はしっかりと原作通りのイベントを満喫するに違いない。
このエリオットイベントは、原作ではエリオット中のトラブルを乗り越え、後夜祭にて二人でダンスを踊るのが締め括りである。
そして、もう一つ。原作ではさらっとワンシーンのみで流されていたが、現実的に考えると重要なイベント。
エリオット一位から三位までの入賞者の紹介と挨拶がある。しかもパートナー同伴で舞台に上がらなければならないものだ。
…つまり、私はこれにザック様と上がらなければならない。
王太子の婚約者が、他国の男と、にこやかに腕を組んで。
原作では確かルシルはディリアスルート以外ではディリアスを、ディリアスルートならば兄様と共に立っていたはずだ。それをぶち壊そうというのだから、本当に先の展開が読めなくなってきた。
それに、ハリーの件もある。
後夜祭ではゆっくり話を聞く暇もないだろうから、明日以降、どこかで時間をもらってゆっくり話さないと。
禁呪の解呪方法…わかるといいんだけど。
そんな事を考えながら、私は馬車に乗り込み、未だ高い陽を見ながら、溜め息を零した。
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