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Act.44 このゲーム年齢指定なかったはずなんだけど

今回も長めです。

 


 まあ、結果として背中にもなかった訳だが。

 袖は上着と同じく開いているから先程確認したし、あとは…前と、パンツのみ。


 無性に奇声を上げたくなる衝動と抑えつつ、ザック様の顔を見ないように俯きながら前に回る。シャツに手を掛け「失礼します」とぼそりと呟きながら、いくつかボタンを外させてもらった。

 しかし、この方が肌に触れないと思ってやったこの行為は完全に間違いだったとすぐに後悔する。


 開いたシャツから、素肌が丸見えなのだ。


 こればかりは俯いても視線を外しても、確認をしてる時に嫌でも視界に入ってくる。

 均整の取れた体と、決して付き過ぎていない筋肉。

 騎士はきっとこういう体付きではないだろうという、しなやかな肢体に、頭の中が沸騰するんじゃないかという気さえしてくる。



「…はい、ない!ないですね!閉めますよ!」

「くっくっ…随分と雑じゃねえのか?なんなら全部脱がせてくれても構わねえのに。」

「からかわないで下さい!」

「貴族令嬢には刺激が強過ぎたか?それよりも…どうすんだ?あとは下しか残ってねえが?」

「うっ…。」



 そうだ、ここまでなかったなら、あとはパンツしかない。だけどこっちはさすがに手を突っ込むのははばかられるので、表面を触ってくしかないのだけど…触るしか…ないということで…。

 本当に真っ当な貴族令嬢ならここまでも辿り着けなかっただろう。でも、それでもここから下は…。


 ………ええい、女は度胸だルシル!!!



「失礼します!」

「はっはっはっ!大胆な女は嫌いじゃないぜ?」



 足元から順に触っていく。手のひらから伝わる感触と体温に、最早目眩すら覚えてきたが、なんとか堪えて確認していく。

 太腿辺りまで来て、さすがにこれ以上はどうしても無理だと全ての理性が訴える。諦めるしかないのか。ここまでこんなに恥ずかしい思いをしてまで耐えたのに…。



「どうした?降参するのか?」

「ううう…ザック様、本当に持ってるんですか?!」

「嘘は言ってねえよ、ちゃんと探せば見つかるはずだがなあ?」



 色んな感情がごちゃごちゃとしてきて、嘲るように言われた言葉に反論しようと首を上げた時だった。

 笑うザック様の口の中、上顎の辺りで何かがきらりと煌めいた気がした。



「…ザック様…口を開けてください。」

「…何故?」



 にたりとまとわりつくような笑みを浮かべながら、ザック様は問い返してくる。


 もしも私の見間違いじゃないとしたら、あれは。


 ザック様の口元にしかもう目がいかず、私は立ち上がって掴みかかる。



「早く開けてください!」

「開けて欲しけりゃ自分で開けろ。」

「…っ…あー!もう!失礼しますよ!!」



 無理矢理口をこじ開け、顔を近付けて中を見る。

 上顎に、歯の裏に取り付けた小さなガラス瓶が迫り出していた。



「見付けた…!薬!」



 それが嬉しくて顔を上げれば、鼻同士が掠める程の距離に、ザック様の顔があった。

 身長の関係でぎりぎり当たりはしないけれど、ザック様が少し屈めば間違いなく触れる事が出来る距離だ。


 私は声にならない声で絶叫しながら即座に後ずさった。



「そんなに警戒されたらする気のねえ事までしそうだ。」

「い、いいから、見付けたんですから、薬をください!」

「まさか本当に見付けるとはな。掛けてやるからこっちに来い。」

「……変な事しませんか?」

「する気はねえが…望むのならやってやろうか?」

「望んでませんいりません必要ありません!早く薬掛けてください!」



 最早完全に遊ばれている。

 その証拠にザック様はさっきからずっとけらけらと笑っているのだから、憎たらしい限りだ。一体私がどれだけ心臓に負担を掛けたと思っているのか。

 少し近付いて左手を突き出せば、その手を取られ、口元へ持っていかれる。



「えっ、ちょっと、ザック様?!」

「すぐに済む。」



 このままでは、また同じ事を繰り返されるのではないのかと手を引くが、その手は戻ってこない。そうこうする間に、もうあと少しで傷跡に唇が触れてしまいそうな距離まで持っていかれてしまった。

 その時、小さくパキン、という音が聞こえ、次いで傷跡に生温かいものが這う。

 それが舐められているのだと理解出来た瞬間、今までたまりにたまっていた熱も含め、何かが私の中でぶつんと切れた。


 途端、かくんと私はその場にへたり込んでしまった。恥ずかしさが限界を越えると、本当に足腰立たなくなるなんて思わなかった。そんなもの、漫画の中だけの話だと思っていたのに。

 目の前の男は、へたり込む私に合わせて腰を屈め、それはそれは愉しそうに赤い舌を出して、こちらに見せつけるように傷跡をゆっくりと、丁寧に舐めていく。


 何故それを見ているこちらの羞恥心が限界突破しているというのか。理不尽だ。


 なんて心の中で悪態をついてみるものの、実際の私の口はと言えば、はくはくと空気を吐くだけの無駄な器官と成り果てていた。


 ザック様が満足して、私の手が解放される頃には、恐らく私は立派な茹でダコに仕上がっていたと思う。



「ほら、薬は掛けてやったぞ。」

「な、ん…そ…な…。」

「どうした?恥ずかしいのか?」



 目を細めながら、私を見下すこの男は、本当に一体何がしたいと言うのだ。原作にだってここまで恥ずかしくなるようなイベントなんてなかったというのに。

 解放された左手は、どうすればいいのかわからずに宙を彷徨う。


 と、突然にやりと笑ったザック様に、不味いと思い立ち上がろうとしたが、未だに足に力が入らず私はもう一度その場に座り込む形になった。

 動けこの足と思いながら睨めば、視界に入ってきたのは先程まで眺めていた足元。どうやらザック様が目の前にいるらしい。こうなれば私には顔を上げることなど出来なくなった。

 の、だが。伸びてきた手に無理矢理顎を掴まれて上げられれば、さすがに抵抗は出来ないわけで。


 目の前には、愉しそうに笑うザック様がいた。



「どうやら動けないようだな?」

「だ、れの…せいだと…。」

「そんな顔で睨むな。それともこの聖堂でその綺麗な体を穢されたいのか?」

「そんな訳ないでしょう!?」



 反射的に体を反らそうとしても、痛いくらいに掴むその手からは逃げられなかった。



「足腰立たなくなるほど頑張ったご褒美をやろう。」

「ご褒美…?!い、いりません!離してください!大体、堕ちるまで何もしないんでしょう?!」



 ご褒美と言われて一瞬ときめいた事は責めないでほしい。

 最推しから貰えるご褒美ってなんだって前のめりになるとこだった。危ない危ない。


 精一杯の抵抗というように、掴んだその手を外そうとしてみるが、押しても引いてもびくともしなかった。


 その様を可笑しそうに見ていたザック様が、急にまた顎を引くから、私はバランスを崩し、ザック様の手から手を離してしまった。

 その時だった。


 見開いた目の前には、ザック様の目のドアップ。

 噛み付くように奪われた唇に、初対面の時を思い出した。



「っ…や、やめっん!」



 力の限り暴れても、離れるのは一瞬で、また噛み付いてくる。

 最早何がなんだかわからなくて、引っ叩いてやろうかと手を振り上げた瞬間、ガリッという音ともに、刺すような痛みに襲われ、それと同時にようやく私は解放されたのだった。



「は、いた…何、え…?!」

「俺はあまり自分の言葉を覆す事はしたくねえが…。」

「何、を…。」

「何もしないと言ったからと男と二人になるなんざ、抱いてくれと言ってるようなもんだとわかってんだろうな?」



 ぎらつくその瞳は、獲物を定めた猛禽類のように鋭くて、噛み切られた唇よりもその瞳に対して、私の全神経が逃げろと警鐘を鳴らしていた。



「もう私行きますから!」

「そうしろ。…ああ、そうだ。条件、忘れてねえだろうな?」



 命の危険を感じたお陰か、なんとか感覚を取り戻した足を奮い立たせ、立ち上がった私に、ひらひらと手を振りながらザック様が問う。



「…覚えてます。」

「なら、口紅はその血のような紅いのを引いてこい。お前に一番…似合う色だ。」

「…知りません!失礼します!」



 乱暴に扉を閉めて、その場を後にした。

 急いでその場を離れたくて走り出した時、ふと気が付いた。どうして私は魔法を使わなかったのだろう。

 最初から、あれもこれも、魔法を使えば防げたはずなのに。


 そう思ってからすぐに答えに辿り着いた。

 あの人の前にいる時は、私は私のままだからだ。黒薔薇姫としていようとした時はすぐに魔法が発動出来たけど、私が私のままでいれば、魔法を使うという発想がなくなってしまう。

 当たり前だ。前世にそんなものなかったのだから。


 これは、由々しき問題かもしれない…。


 私が私のままであればあるほど、すぐに魔法を、とはなれない。そういう訓練は黒薔薇姫として受けているから。

 そうなると常に黒薔薇姫であればいい?それは現実的に考えて不可能だろう。

 昔から記憶のあったリナリーとは違って私は最近記憶が蘇ったばかり。私は私でも、黒薔薇姫としている私と、そうじゃない私がいるのは自覚している。


 別人格なんていうつもりはないが、現状だとそれと似ていると思う。その事実をどうにかしないと、私はこの先ずっとザック様に翻弄され続けるだろう。



「…最近はルシルとして慣れてきたつもりなんだけどな…。」



 当面の課題は公爵令嬢として生きてきた私も、前世の私も全て私とする事になりそうだ。


 痛む唇を荒く拭って、私はゴールとなる講堂へ向かう為、魔法を発動したのだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。


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