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Act.43 旧聖堂跡にて

今回少し長めです。


感想、評価、ブクマありがとうございます。


とても励みになっております。

 



 結果的に、すべて終えるのに十分もかからなかったお陰で、ザック様を探す余裕が出来た。

 問題はここから。さて、何処を探せばいいのか…。


 広大な学園内をくまなく探すのはさすがに時間的にも厳しい。それに、恐らくザック様は人目につかない場所にいるはずだ。

 あの服から着替えることが出来て、尚且つこのエリオットの最中は人目につかない場所…。

 そもそもエリオット開催中は学園内に人目につかない場所なんてそうそうないはず。そう思ってもう一度地図を広げ、自身の知るザック様の情報と掛け合わせて考えれば。


 …旧聖堂跡…確か、ザック様の隠れ家近くから伸びる地下道が、この聖堂跡にも繋がってるって、設定資料集に載ってたはず!


 すぐに行って確認しよう。いなければまた考えればいい。

 そう思い、私は即座に影移動で旧聖堂跡へ向かった。



 旧聖堂跡とは、この聖マリエント学園が創立された時に、置かれていた聖堂跡のこと。老朽化した為に、今は別の場所に建て替えられ、こちらは文化遺産として保持されているだけである。

 普段ならばこの旧聖堂跡は一般人にも立ち入りが許可されているが、エリオットの最中だけは立ち入り禁止となる。こんな都合のいい場所はそうそうないと思う。


 辿り着いた旧聖堂跡はひっそりとしていて、本当に誰か人がいるのか疑いたくなるほどだった。

 だけど外観だけで判断して次を探す訳にはいかない。


 そっと扉に近付きゆっくりと力を入れると、思った以上に大きな軋んだ音を響かせながら、扉は開いた。中は存外綺麗で、確か毎週修道女達が掃除に来ていたな、などとどうでもいい事を思い出した。


 開いた先は聖堂で、古ぼけたベンチチェアがずらりと並び、中央奥に祭壇と、その向こうの壁はステンドグラスで飾られている。普段は灯っている燭台も、今日はすべて消えているせいか、なんだか別の建物に来てしまった感覚に襲われ、少し急ぎ足で祭壇横の、告解室とは別の扉を開いた。

 そこは元々修道女達の控える部屋で、簡素な書き物机と椅子だけしか置いていない、とても質素な部屋。

 しかし、そこを開くと、見覚えのあるジャケットが置かれていた。


 当たり。ここがザック様が今日隠れている場所だ。肝心のザック様が見当たらないが…。



「先にこの辺に薬置いてないか探しとこうかな…。」



 ここにあれば僥倖。すぐ傷にかけてしまえばいい。

 ザック様が持っていれば難易度が上がる。だけどそれもなんとか奪ってかければいい。

 問題は、最悪の場合、ザック様が薬を持っていない事。

 いや、多分口振りからして持ってはいると思うけど、本来の隠れ家や、それこそ本国に置かれていたらどうしようもない。


 なんて半分祈りながら置かれたジャケットを広げた時だった。



「そんなに俺に繋がれたいならお望み通り繋いでやるが?」



 はっとして振り返れば、いつも通りの下卑た笑みを浮かべて、扉にもたれかかっているザック様がいた。着替えようとした最中だったのか、腰の紐が緩められていて、ゆったりとしたシャツとパンツが見えている。


 一体どこにいて、いつの間に現れたのだろうか。

 まあそんな事はどうでもいい。一流の暗殺者の気配を一介の貴族令嬢が読めるとも思ってはいないし。



「…お早いお仕事ありがとうございました。」

「魔物の処理は楽でいい。殺せば屍体は消えるからな。それで?まさかわざわざ礼を言う為に探し当てた訳じゃねえだろ?」

「…薬を。」

「…どうやらロンガートに何か吹き込まれたようだな。とことん聖魔使いは面倒だ。」



 眉根を寄せて怪訝そうに息をつくと、ザック様は両手を広げて見せた。

 どういう意味か図りかねて顔を見れば、厭らしく口角を吊り上げ、口を開く。



「探してみろ。正解を引けたら薬はやるよ。但し、不正解を引いたら…俺に堕ちて来るまで、その跡はそのままだ。」

「…正解を、持ってないことは、ないんですね?」

「俺はこういう賭け事は如何様はしない主義でな…どうする?お前が如何様を疑うんなら、賭けは終わりだ。」

「……失礼、します…。」



 こんな状況なのにどきどきと高鳴る胸に、やはり体は正直なのだと言い訳をすべきであろうか。

 おずおずとなるべくザック様の顔を見ないように近付けば、初めて会ったあの日に香った匂いが、ふわりと鼻に届いた。多分これは香ではなく、ザック様自身の匂いだと思う。

 なんて思っていたら、余計に心拍数が上昇してきた。不味い。さすがにここで正常な思考を出来なくなる訳にはいかないのだ。


 頭を振って、邪な考えを追いやりつつ、微動だにしないザック様の服に手を掛ける。なるべく肌から離して服を探っていく。謎の位置に何を入れるのかわかりたくもないポケットや、縫い付けられた何か硬くて平たいものを探り当ててしまった時は、とりあえず何もなかったのだと思う事にして放置していく。

 羽織は探り終わってしまったが、薬が入ってそうなものはなかった。次はシャツかパンツか靴か…とりあえず、一番顔から遠い靴でも見ようか。



「ザック様、靴も見せていただけますか?」

「そんなとこまで見るのか?まるで兵士の身体検査だな。」



 からからと笑いながら、靴を脱いで目の前に置いてくれたので、失礼して靴を調べる。



「ああ、その中の留め金外したら鍼が出るから気を付けろよ。」

「へっ?!こ、怖いこと言わないでください!」

「下手に触れば死ぬかもしれねえからな、ちゃんと警告してやってんだろ?」



 一頻り笑った後、そのままずっと微動だにせずに私を見つめ続けるこの状況に、段々と気まずさも覚えてきた。

 今はとりあえず目の前にしゃがみ込んでいるお陰で、視線を感じるだけで済んでいる。だがこれが終わればシャツかパンツを調べるしかない。

 …いや、まじでこれは逆に緊急事態なんじゃない?ねえリナリーさん。



「…ルーシー。」

「へあっ!?え、な、なんですか?!」



 あまりに唐突に話し掛けられたせいで、声が上擦る。なんとか平静を装おうと若干声を張りながら見上げれば、真っ直ぐこちらを見下すザック様と目が合った。


 ぞわりと肌が粟立つ。


 最初から、今でも、ザック様は頭以外動かしていないのに。なんでこんなに、角度を変えただけで息が詰まるのだろう。



「ああ…いいな。」

「は、何の話、ですか…?」

「今のこの光景、傍から見ればどう見える?…俺に跪くお前を眺められんのは、最高の気分だ。」

「なっ?!」



 かっと顔が熱くなり、私は急いで立った。その様子すらも可笑しそうに眺めるこの男は、本当に人を辱めるのが大好きなのだと思う。

 とにかく、もう靴は十二分に調べさせてもらった。あとはシャツとパンツのみだ。



「もう靴はいいのか?まだ調べていいぜ?」

「結構です!それより、シャツを調べたいので、上着を脱いでもらえますか。」

「俺が脱いでも?何か細工をしないとも限らねえのに?」

「さっきイカサマはしないって…!」

「如何様じゃねえ、職業病ってやつだ。ほら、脱がせたきゃお前が脱がせてみろ。」

「っ……失礼します!!」



 これ以上話せば割を食うのはこちらの方だ。そう判断してとにかく会話を打ち切った。

 それはいいのだが、上着に手を掛けようとしてはたと気付く。これは、このまま前からやってしまえば死ぬ程恥ずかしい。

 前世では恋愛経験だってそれなりにあったし、仕事柄男性とは関わりが多かった。だからこんな乙女みたいな反応、今更する程綺麗ではないのだ。だけどそういう事じゃない。


 すべてがどストライクの最推しが目の前にいて、普通に動ける人間などこの世に存在しない!!


 早々に前方から脱がせるのは諦め、後ろへ回ると、ザック様は至極愉しそうに「なんだ、顔を見せてくれねえのか?」などと言いながらけらけらと笑っている。

 冗談じゃない、そんな自ら死地に赴くような勇者ではないのだ、私は。


 羽織っていた上着の襟部分を掴み、ゆっくり引き下げる。広げた両手の肘辺りで止まった上着をそのままに、細心の注意を払ってシャツに手を掛けた。

 シャツとは言っても形はチャイナ服のような形で、詰襟に飾り紐のボタンが着いているもの。まあザック様は胸元辺りまで開けているわけだが。



「ほら、しっかり触って確かめねえと見落とすぞ?」

「わ、わかってます!ちょっと黙ってて下さい!」



 小さく笑いながらも、ザック様は口を噤んでくれた。


 本当に背中側でも恥ずかしい。これは確実に顔が真っ赤になってる自信がある。

 シャツの裾、肌に触れない位置から確かめていくが、この辺りにもなさそうだ。次は背中の辺りを確かめるしかない。

 しかしこのシャツ、結構生地も仕立てもしっかりしているせいで、ふわりと触るだけではわからない。ちゃんと裏表からしっかり触らないと、隠されているものはわからないと思う。


 つまり、私は、今から、素肌に触れる危険性を持って、確認作業をしなければならない…!!



「……しつれ、い…します、…。」



 言った通りにザック様が黙ってるせいで、自分の心臓の音が聞こえてしまいそうな静寂がある。僅かな衣擦れの音すら耳に届いて、その度にどんどん顔は熱を持つし、手はどんどん震えていくのだ。

 それを悟られまいと、急ぎながらも、肌に触れないように確かめていった。



いつも読んでくださってありがとうございます。


もし良ければ感想や評価などいただけると嬉しいです。

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