Act.39 まさに理想の王子様?
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「ど、どうしました?」
「…一つ。条件を飲むなら。…使う香を人間には無害な物にしてやってもいい。嗅いでる間の記憶が曖昧になるだけで、その後後遺症も何も残らねえもんだ。」
「え?!そんなものがあるんですか?!ならっ!」
何故最初からそれを使おうとしなかったのか。
そう言おうとした時、ザック様の瞳に仄かな熱が灯っている事に気付き、はたと口を噤んだ。
条件を、飲むなら。そう、確かに言ったはずだ。目の前の男は。
なら、その香の存在を最初から知らせなかったのは。
「…その条件とやらが、本来飲ませたい本命のもの、て事ですか。」
「くっくっ…聡いな。さすがは黒薔薇姫。」
「…その、条件というのは?」
「前に見せた誓約書、お前なら…破棄出来るはずだ。」
「!!それ、は…。」
まさか、そんな事まで知れていたなんて。
この男に情報を与えたものはあの誓約書についての知識が豊富にあるようだ。さすがは裏社会に通じているだけはある。
結論から言えば、確かに私ならばあの誓約書は破棄出来る。というよりも、無効化出来る。
元より、あの誓約書は行動のみを縛るもので、作り手がザック様よりも魔力量が低いお陰でザック様の魔力を封印する事も出来なかった粗末なものだ。
本来あれはもっと魔力量の多い闇属性使いが作り、その闇属性使いがしっかりと魔力封印がされたか判断するまで誓約完了とは言えない。だが、何せ二百年以上前に禁忌とされた魔法を扱える者など限られているし、それを使うだけでアリエスハイムでは極刑となる。
そんなものをしたため、且つ完全な誓約完了まで付き添うなど、証拠を残し過ぎるような事は出来なかったのだろう。
その為に、あれは正式な解除方法を取らずとも、込められた魔力を上回る闇属性の魔力で書き換えが可能な筈だ。
しかし…。
「…出来なくはない、です。でも、それには危険が伴うと、知っていますか。」
じとりとザック様を見上げれば、喉の奥で笑いながら「ああ、勿論」と事も無げに言ってのけた。
私が言った危険。それは、無理矢理他者が誓約書をいじった場合魔力が暴走し、被契約者…つまり、ザック様に何か危険が及ぶかもしれないというもの。
正しく魔力を制御出来るなら、そんな危険はほとんど杞憂なのだが、如何せん二百年以上前に禁じられた誓約書の扱いなど、私が経験した事はない。
つまり、やるならばぶっつけ本番しかない事になる。
「知っていて…私に預けると?貴方の命運を?」
「俺は制限される事が何よりも嫌いでな。しかも一方的に支配されるような誓約なんぞ真っ平だ。」
「だけど…私が失敗すれば、最悪貴方は死ぬかもしれないんですよ?!」
縋るように声を荒げれば、ザック様は少し驚いたように目を丸くしたが、すぐにその目を細め、いつものように嘲る様に笑った。
「失敗?まさか。…お前は、そんな事しねえだろ?」
どくり、と。
心臓が跳ねた。
目の前の男の考えが、読めない。
だって、絶対に成功するだなんて、私にも言えないのに。
この男は、その成功を信じている。いや、確信しているのだ。私が失敗なんてするはずがないと。確実に成功出来るのだろうと、そう言っている。
そんな事を言われても、こちらは最推しの命を賭け金に賭け事なんて、したくないのに。
「…その言葉、呪いみたいです…。」
「呪いか…いいな。」
にたりと笑うと、ザック様は懐から小さな小瓶を取り出し、中身を一息に飲み干した。
それは何だと問う間もなく、芝居がかったような動きで、恭しく跪き、まるで繊細なガラス細工に触れるように、そっと私の左手を取った。
「ならば姫君よ。その麗しき御身に呪いを受けて下さいますか?…代わりに我が身に、その祝福を。」
すい、と口元に手を引き寄せられ、こちらを酷く愉しげに見つめながら、指先にキスをされた。
…控えめに言って、いけめんが過ぎる。
いや何これ?!こんなの原作でもなかったじゃん!!何この王子様みたいな振る舞いは!!いや元王子だけど!!!私の心臓ぶっ壊したいのかこの男は!!!!
恥ずかしいやら緊張するやら、とにかく顔が熱い。恐らく私の顔は茹でダコのようになっているに違いない。正直手だって震えてる。今すぐに左手を引っこ抜きたい。でも勿体なくて引けない。
あの、ザック様が、こんな事をしてくれているのだ。そんな状況、美味しすぎて私から止めさせるなんて出来る訳がない!
「…ザック、様、…あの…、でも…。」
「言葉は一言で良いのです。…ただ一言、はいと言っていただければ。」
無理だ。こんなの、勝てる訳がない。
了承以外は受け付けない、と、その瞳が悠然と語るから、私に残された言葉に、イエス以外の選択肢は残されてなかった。
「…っ……は、い。」
「嗚呼、我が麗しの姫君。貴女へ極上の呪いを。…その、証を…御身に。」
にんまりと吊り上げられた口角に、未だ私の手を捕らえるその手に、私を捕らえて離さないその瞳に、全てから歓喜の気持ちが流れ込んで来るようだった。
それが更に熱を上げるから、もう私はまともに動くことすら出来ずにいる。
と、急にザック様が薄く口を開く。
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