Act.37 エリオット当日
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そしてとうとうやってきたエリオット当日。
学園の講堂に集められた私達一年生は、エリオットの成り立ちを学園長から話されている最中だった。
この話が終わった後に、教師陣からそれぞれマップを受け取り、それぞれのスタート地点へ急ぐ。その後、九時の鐘の音と共にエリオットはスタートする。
ザック様からの報告はまだない。というより、どういう手段で報告するのかも私達は聞いていない。
直接来るのか、それとも何らかの方法で私達とコンタクトを取るのか…。
とりあえず私とリナリーは開始の合図と共に一旦ザック様からの報告があるまではエリオットを真面目にやるという話で合意している。何故かといえば、原作ではイベントが起こるのは、リナリーがエリオットの途中、森の中を通るルートの時だからだ。
真面目にやれば恐らくは原作通りにイベントが発生してくれるはず。何せ、リナリーが森を通る際、ルシルも森を通るのだから。
今回の標的が私であっても、時間は原作通りに起こるだろうという私達の予想だ。
「ではこれより、皆に地図を配ります。各自スタート地点を見て、三十分以内にスタート位置に着いてください。九時の鐘の音がスタートの合図です。」
そう学園長が言えば、一斉に生徒達が立ち上がる。私もそれに倣い、そのまま講堂を出る直前に、教師から一枚の地図を預かった。
私のスタート地点はどうやら中庭のようだ。なら直通通路を使わなくても歩いて十分行ける範囲である。
直通通路は学園の土属性使いが作るエスカレーターのようなもので、本来なら馬車で数十分はかかる距離を端から端まで五分もかからないようにして繋げた言わば動く歩道付き地下トンネルだ。
入口の教師に地図を見せれば、一番スタート地点に近い出口まで送ってくれるというもので、それのお陰でどんどん人が講堂から消えていっている。
さっと辺りを見回すと、ドリーが手を振って直通通路に入って行く所だった。笑顔で手を振り返せば、綺麗に笑って消えていく。
ドリーはエリオットの最中、ルシルと関わる事がなかったはずだから、今回は問題ない。そのまま視線をずらせば、通路待ちの列にリナリーもいた。難しそうな顔でマップを睨んでいる。
とりあえずリナリーとは森で合流予定だし、私も早くスタート地点に向かわないと。
講堂を出て庭園を抜け、校舎を回って中庭に出る。中庭には私以外にもちらほらと地図を持った生徒が待機しているようだった。
この辺りかと地図を見ながら中庭の一角に歩を進めた時だった。
「あの、無礼を承知で失礼します、ローズシェット様!」
「えっ?…あなたは…。」
急に掛けられた声の方へ振り向けば、蜂蜜色の髪の男が、意を決したように佇んでいた。
「は、…ローチェル、次期伯爵ではないですか。」
「声を掛ける無礼をお許し下さい。」
「え、ええ、構いませんわ。どうなさったのです?」
ハロルド=ローチェル。リナリーの幼馴染で、リナリーの事が好きなわんこ属性の男。
ハリーってこんな所からスタートだったっけ?ハリーのイベントって…いやそれより、なんで私に声を掛けてきたの?
ぐるぐると疑問が頭の中を駆け巡るが、あまりに唐突過ぎて、なんの答えも出てこない。
「ローズシェット様。リナリー…ロンガート辺境伯令嬢とは、御友人だと伺いました。」
「ええ、リナリーとは友人ですわ。それが何か?」
「…あの、僕…リナリーの友人を危険な目に遭わせたくなくてっ!そのっ…。」
…んん?これはまさか、ハリーってば何か自白紛いの事をしようとしてる?
確かディリアスと同じグループだったんだっけ?とても何かを言い淀んでるけど、危険な目に遭うかもしれない事がわかってるってことは、ハリーも少なからず何が起こるかを理解してるようだ。
でも、同時にとても面倒でもある。
私達はエリオットが始まれば課題をこなし、森で合流すると約束をしているし、その間のどこかで恐らくザック様からなんらかの手段で報告が入る。その報告次第で、リナリーと手分けしてその周辺の人を避難させようというのだ。
人手が増えれば楽だと思うかもしれないが、手伝いを頼むとしたなら、ザック様の事を話さなければならなくなる。私やリナリーの正体なんて誤魔化しても気付かないだろうけど、ザック様は誤魔化せばより怪しくなってしまう。ただでさえアマテラス帝国の留学生なんて怪しい立場を更に疑わせてどうする。
つまるところ、ハリーは邪魔である。
ならここは適当に話を流してしまうしかない!
「あら、危険だなんて。エリオットの課題はきちんと危険のない課題かどうかのテストを受けておりますわ。」
「いや、そうじゃな」
「攻撃魔法が使えなくてもクリア出来る課題になっておりますから、ご心配は無用ですのよ。」
「だから、そ」
「それに貴方のスタート地点はこの辺りですの?早くスタートにつかないと、エリオットが始まってしまいますわよ。」
「聞いてく」
「エリオットでは手助けは禁止ですわ。早く行って下さいまし。」
「ローズシェット様!」
口を挟む隙も、話を聞く素振りも見せずに畳み掛けたが、どうやら引かないらしい。
おかしいな、ハリーってここまで強情なキャラだったかな…もっと物腰柔らかい…あ、そうか、リナリーじゃないからか!リナリー相手ならもっと無理矢理でも丸め込まれるくせに!
「貴方は今すぐ、エリオットを棄権して下さい。」
………は?
え、ちょっと待って、今私に棄権しろって言った?
「このままエリオットが始まれば、貴女は危険な目に遭ってしまう…僕にはどうすることも出来ませんでした。だからせめて、今すぐに棄権を!」
いやいやいや、ハリー君よ。私に棄権しろって言うのはおかしくない?君が何を知ってるかは知らないけど、私が誰かくらいは知ってて言ってるのよね?
公爵令嬢で黒薔薇姫よ?私。
なんでディリアス如きから逃げなきゃいけないの?
「私がどうして、逃げなければならないのかしら。」
「逃げろとは言っていません!ただ、避けられる危険に、自ら飛び込むような事はっ…!」
「尚更ですわね。私はローズシェット公爵家の者です。その私が危険だと言われたからと退いては、公爵家の名に泥を塗る行為ですわ。」
当たり前じゃない。私は公爵令嬢で黒薔薇姫なんだから。
危険があろうとなかろうと、私は正々堂々と勝負をしなければならない。
というか、ディリアス相手に逃げるとか、私のプライドが許さないんだけど。
「私を誰だと思っておいでですの?ローズシェット公爵令嬢にして、アリエスハイム王国一番の魔力を持つ、黒薔薇姫ですのよ。」
「っ…それ、でも…。」
「誰にも手折れず、誰にも触れず、誰にも汚せない。それが、『黒薔薇姫』ですわ。」
いつか、ザック様が言った言葉。
私は、その言葉の通りに生きる。生きたい。生きなければ。
その姿を、ザック様が認めてくれたのだから。
はっきりと目を見てそう言えば、ハリーは暫く苦しそうな表情を浮かべ無言を貫いていたが、とうとう根負けしたのか「失礼致します」と言って去っていった。
ふう、と息をつきながら、再度地図を確認し、スタート地点にて鐘の音を待つ。辺りを見回せば、こちらを気にかけている生徒は一人もおらず、もう邪魔は入らないだろう事が窺えた。
恐らく、もう十分もしない内に鐘の音が鳴るだろう。そうしたら地図の通りのルートを通ればいい。私の四つ目の課題が森の中だし、そこに辿り着けば、後はどうにかなるはずだ。
怪我人や死人が出ないよう、私達は精一杯やるのみ。
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