Act.34 イベントが改悪された件
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「…今はそれ以上聞かないでおいてやるよ。それより、どうすりゃこれを破棄出来る?」
「あー……。」
もしも、もしもだけど、ディリアスにザック様が魔法を教われば、勿論簡単な話である。
だけどそれをしてしまえば、王族しか使えないはずの光属性を使えるアマテラス帝国の留学生とかいう、怪しさしかない人物の出来上がりとなる訳だ。
そうなれば確実にザック様は王城へ呼び出し。そしてバッドエンドへ…という図式にしかならない。いやまあ既に自分の本来の立場を理解してるザック様という原作にはない展開な訳ではあるけど、何処でどう原作と繋がるかわからない。
「ザック様、現状、それを破棄する方法は無いというのが正しいです。」
「は?どういう意味だ。」
「もう正体わかってるんならわかるでしょ?ザッカリーの属性は光。アリエスハイムでは光属性を持つのは王族のみ。」
「……チッ…面倒臭い事だ。」
不服そうな顔ではあるが、納得したようで、ザック様はスクロールを閉じてジャケットへ押し込んだ。
「結果としては無駄足だったが、情報はちゃんと貰ったからな。こっちからも情報をやるよ。」
「情報?」
「有益な情報ってのは別に嘘じゃないからな?…今度のエリオットだったか?あの王太子殿下が何か企んでるみたいだぜ?」
クッキーを一枚頬張り、咀嚼しながらザック様は事も無げに言う。
え、あのアホ殿下またなんかやらかすつもりなの?約束はどうした、約束は。
「何かって…どういう事?」
「あいつが勝手にグループを変えた事は?」
「ドリーから、今日聞きました。」
「その中に、闇魔使いがいてな。そいつが最近、あのアホに言われて、何やらせっせと作ってやがる。」
「作る…?って、何を?」
「さあ?俺には魔法の知識はほとんどないからな。魔法陣が書かれた紙を大量に用意してたのはわかるが?」
「魔法陣が書かれた紙?!」
思わず、私達は二人して立ち上がった。聞き捨てならない単語が出て来たせいだ。
いきなり立ち上がった私達を見て、ニヤニヤと笑いながら、ザック様はまたクッキーを口に放り込んだ。
私達がここまで過剰反応した理由、それはその闇属性使いが描いていた魔法陣を知っているから。勿論、原作のストーリー上でだ。
「リナリー、さすがにまずくない?」
「魔法陣ってあれだよね…それが大量ってどんだけ原作改悪する気よ…。」
「ザック様、それ何枚くらいあったかわかりますか?」
「あー…軽く二十枚はあったんじゃねえか?」
「二十枚?!!」
数字を聞いて私とリナリーの顔色が蒼白になる。
この魔法陣が書かれた紙。それはフィリップルートで出て来るものだ。
フィリップルートのエリオットにて、原作通りならば、リナリーは森の中で魔物に遭ってしまう。
アンデッドの魔物ならば聖属性の浄化魔法で倒せても、それ以外の魔物に対しては、攻撃魔法を持たない聖属性使いでは倒せない。
そこでリナリーが魔物に追い詰められた時、魔物の雄叫びを聞いて駆け付けたフィリップに、リナリーが助けられる。そこまでが原作のフィリップルートにおけるエリオットのイベント。
そしてこの魔物、誰かに召喚されたものだったのだ。
エリオットが終わり、魔物と遭遇した辺りを調べると、一枚の魔法陣が書かれた紙が見つかる。
その魔法陣を調べれば、それは召喚の魔法陣であり、魔力も残っていない事から、使用済みのものだろうとわかる。
つまり、この魔法陣が書かれた紙とは即ち、魔物の召喚陣のことだ。
原作ではこの魔法陣はリナリーをよく思っていない令嬢のイジメの一部だと言うことになっていたが、まさか今回、こんな形でそれが出てくるとは予想だにしていなかった。
しかも、それを用意するのがディリアスだとは。
「何やってんのあのクソ王太子、まじで頭何詰まってんの?肉?ピーマンの肉詰めなの?アイツは。」
「いやほんと何してくれてんの、まもののむれがあらわれた!とかやってる場合じゃねえわ、馬鹿かよ。」
「ルーシー、とりあえずどうする?そんなの倒せる人いる?」
「いる訳ないじゃん、それこそ騎士団一個小隊くらい駆り出さないと無理だよ!」
何せ、その召喚陣の数が二十を超えていたと言うことは、魔物も同数現れる。二十を超える魔物の群れなんて、王国騎士団の出番ではないか。
例え一体でも普通の学生じゃ勝率は三割を切るだろう。ゲームで倒せたのはフィリップだからであって、誰にでもそんな事が出来てしまえば、護衛や傭兵なんてしている人は商売上がったりだし、それにいきなり実戦をさせられて、普通に戦える者なんてごく一部の限られた人間だけだ。
勿論私やリナリーに騎士団を動かす権力などない。いや、正確に言えば私にはあるんだけど、問題は理由だ。召喚陣がエリオットの日に森にばら撒かれるから騎士団を動かすなんて、荒唐無稽過ぎて私の頭が疑われる。
「待って、そもそもその魔法陣を破棄すれば問題ないんじゃない?」
「そうだ!魔法陣自体をどうにかすれば!」
二人して名案だとばかりに喜んだ瞬間。
「あー、それは無理だろーな。」
テーブルに肘をつき、つまらなさそうに垂らした髪を弄りながら、ザック様は言う。
「え、ど、どうして…。」
「闇魔使いなら知ってると思うが、影に物を収納する魔法があるらしいな?」
「ああ、影収納…まさか!」
「奴はそこに入れてんぞ。」
「ああああああああああそんな…。」
影収納とは、闇属性使いのみが使える収納魔法で、魔力で自身の影の中に空間を作り、荷物をそこに入れるというもの。空間の扉の開閉には本人の魔力が必要だから、本人の合意無しではその空間に髪一本すら入れない。
そこに入れるのはどんな金庫に入れるよりもセキュリティがしっかりしており、闇属性が使える人間は皆この魔法は覚えているものだ。
まあ、つまり、この影収納を使われているということは。
他者には奪えない。その一点に尽きる。
「て、ことは…私達がどうにかするしかないって、こと?」
「え、魔物の群れを?攻撃魔法も使えない私とリナリーが?ハードモード過ぎない?」
「ハードモードとかじゃなくて無理ゲーって言うんだよそれは。」
「フィリップになんとか…。」
「フィル様殺す気か!二十体以上の群れなんてどうにかできるレベルのチートじゃねえわ!!ならセオドアは?!」
「兄様死ぬわ!いくら魔法の扱いが凄くてもせいぜい一、二体で終わるわ!!」
これは最早万事休すと言うやつではないだろうか。
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