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Act.33 確かここは魔法学園

すみません、日付を間違えておりました…。

 



「る、ルーシー…。」

「…………。」

「言え。この誓約書の魔力は、俺より上か、下か。」

「………ザック、様。」

「言え。」



 この人は、気付いているのだろうか。いや、気付いていたのだろうか。

 そんな筈はないのに。ゲームの中で、彼が自分の名前を知る場面なんてほとんどなかった。それに、こんな誓約書、ゲームの中では言葉すらも出てこなかった。


 私を見るリナリーの目が、心配だと言っている。

 私の手も、微かに震えている。


 怖い。これを破棄出来てしまったら、ザック様は王太子だと言っている事と同義になってしまう。

 ザック様ルートで、名前を知るルートはどんなのだった?


 確かバッドエンドが二つ。

 一つは、ヒロインが呼ばれた王城に出向き、陛下が気付くもの。そのルートでは、急に息子だと言われたザック様が困惑し、陛下を殺して処刑される。

 もう一つは、アマテラス皇帝からバラされるもの。そのルートだと、彼は皇帝を殺して暗殺される。


 どちらにしろ、ザック様が死ぬ未来しかない。



「ルーシー。早く言え。」

「………ザック様、一つ、聞かせてください。」

「あ?なんだ。」



 なんとか振り絞った声は震えていた。

 だって、仕方ない。この答えを間違えたら、彼は、ザック様は…死んでしまうかもしれない。



「これを破棄して…どうするつもりですか。」



 真っ直ぐザック様を見つめる。何一つ、見逃さないように。僅かな違和感も、気付けるように。


 少し考えるようにスクロールに視線を落とし、そのままザック様は口を開いた。



「特に、何も考えてねえな。」

「……え?」

「この誓約書は、破棄した所で相手にはバレねえんだろ。なら別に何かする必要もないしな。」



 何も考えてない…だと…?


 予想外な答えに、私とリナリーは顔を見合わせて首を傾げた。多分、その言葉に嘘はない。それが余計に困惑した。


 いや、あまりにも予想外過ぎる。ザック様の事だから、さすがに王太子になるとか言うとは思ってなかったけど、皇帝殺してくるとかは言いそうだったから。



「なんだ、アホ面晒して。」

「予想外過ぎて呆気に取られただけだから。」

「俺は自分の損になるような事はしねえよ。」

「…これを破棄した後、何か行動を起こすことで、ザック様にとって損になる事がある、と?」



 真意を探るように言う私を、ザック様は考え込むように見た。

 その闇色の瞳に、僅かでも感情が塗られていないかを確かめるように、じっとその瞳を見つめ返す。しばしそうしていたが、ふとザック様が一瞬、優しげに目を細めた。

 驚く間もなく、すぐにいつものにやりとした顔になると、悪びれる風でもなく、飄々として言う。



「今あのクソ皇帝を殺せば、間違いなく追っ手がかけられるからな。」

「…それが、動かない理由ですか?」

「逃げながら生きるってのは疲れるもんだ。」



 微かに目にかかる前髪を鬱陶しげにかきあげて、静かに息を吐く。そんなザック様を見て、恐らくは本心だろうと当たりをつける。

 嘘をつくなら、ザック様ならばそんな理由にはしないだろうから。多分、もっとわかりにくく最もな理由を並べ立てるだろう。



「……はあ…わかりました、信じます。上ですよ。このスクロールに込められた魔力、ゴミみたいなものですから。」



 実際、この誓約書に込められた魔力はさして多くない。この誓約書を知ってる人も少ないし、闇属性の魔力持ちで、尚且つ犯罪にでも手を貸そうと言う人を探し当てるとなると、そりゃあ魔力の多い少ないなんて贅沢は言ってられないだろう。

 まあそれでも平均よりは結構多い方なんだけど。


 恐らくこれは、ザック様が誘拐された後、勝手に血を取られて強制的に交わされた誓約書。名前の字体が二つとも同じだったし、そういう事だろう。

 そして、多分この誓約書は、思考でなく行動を縛るものだから、皇帝を殺せないように、自害しないようにというものだと思う。細かい所はわからないけど。


 それにしても…なら、何故原作にこの誓約書が出てこなかったんだろう?

 誓約書の破棄なんてしてないのに、原作ではザック様は皇帝を殺せてしまっている。


 ぼんやりと考えていると、ザック様が乱暴にスクロールを剥ぎ取った音で現実に戻された。



「魔力を込めんのは普通に注ぎゃいいのか?」

「あ…いえ、攻撃魔法で、この描かれた魔法陣を攻撃して破壊して下さい。」

「……おい、そんなもん俺は知らねえぞ。」



 え?……私とリナリーが何を言ってるんだという顔でザック様を見るが、ザック様も同じ顔でこちらを見る。


 あー、そうか、ザック様が攻撃魔法なんて出来る訳ないわ。この前まで魔力がある事すら忘れてたんだから。


 とは言っても、この場にいるのは攻撃魔法を禁止されてる私と、そもそも攻撃という概念を持たない聖属性使いのリナリーのみ。



「……リナリー、攻撃魔法のやり方とか…。」

「わかる訳ないでしょ、聖属性は回復と援護、あっても浄化のみなんだから。」

「ですよね…私も攻撃魔法は学ばせて貰えなかったから、やり方わからないんだよね。」

「…ルーシー、そもそも、魔法は属性で扱い方が変わるんだから、同じ属性の人からじゃないと攻撃魔法なんて学べないよ?」

「……あ!!そうじゃん!ダメじゃん!!」



 完全に忘れてた…。そうだよ、この世界の魔法の扱いって特殊で、それぞれの属性で扱い方が変わるんだ。私もおじい様が闇属性使いだったから、魔法はおじい様から教わった。防御魔法のみだけど。

 聖属性だけは、なんか教わり方が特殊らしいけど、まあその辺は置いておくとして…ザック様、どうしよう?


 ザック様の属性は勿論光。そりゃ王太子だったんだからね!

 そしてそれを現状扱えるのは、国王陛下と、王弟殿下、ザック様、それから……。



「…ディリアスかー……。」

「そうだけど、それはちょっと色々問題あるんじゃない?」

「……やっぱりお前ら、わかってたんだな?」

「え?何がです?」

「俺の正体。」

「……まあ、そう、ですね。」



 明後日の方向を見ながら、私とリナリーは頷いた。

 そりゃ、知ってましたし…隠そうにも、リナリーがザック様の事、ザッカリーって言ってるの思いっきり聞かれてましたし…。



「お前らの話を聞いて……なんか違和感があったからな。」

「それで、その誓約書の事を?」

「まあ…色々とな。」



 何か含みを持たせてザック様は話す。

 私達の話とは、恐らくは初めて裏庭で会ったあの時、私とリナリーがしていた会話だろう。ザッカリーとリナリーが呼んでいたのを聞いたのもその時が初めてのはずだ。



「何故お前らが俺の事を知ってたのかは未だに疑問だがなあ…?」

「う、えっ?!あ、や…それは、色々…。」

いつも読んでくださってありがとうございます。


もし良ければ感想や評価などいただけると嬉しいです。

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