Act.32 最推しの評価、詐欺師
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「それで?話ってなんなの?」
「…ルーシー。今日俺の魔力を、どう感じた?」
「え?どう…と言われましても…。」
「抑えろとお前は言っただろう?」
「あー…ザック様は、人より少し、魔力が多いようでしたので…。」
その話をした瞬間、隣から、おい聞いてねえぞという無言の重圧が伸し掛る。
そういえばザック様に呼ばれたと言う話をするのが精一杯で、魔力の事に関してはリナリーに言っていなかったような…?
あ、うん、言ってない、言ってねえなこれ。リナリーが凄い形相してる。チンピラみたいな睨み方してる。
「少し多い、ねえ。」
「…何が言いたいんでしょうか。」
「いや?まあそれは…いい。とりあえずな。それより…有益な情報を持ってきてやった。」
「有益な情報?ですか?」
「嫌な予感しかしないんだけど?その自称有益な情報とやら。」
話が逸れた事で少し安心した私とは裏腹に、リナリーはチンピラ状態のまま、腕を組んでザック様を睨んでいる。最早完全に令嬢というか、女としてもアウトな気もするのだが、その辺りはいいのだろうか…。
「本来なら対価を要求するが…それはこれを聞いた後のお前らの行動を対価とするとしよう。」
「その後の行動って、何をさせられるんでしょう、私達は。」
「俺からは何も?ただ俺は経過観察をするだけだ。その方が面白いものが見れそうだからな。」
「…つまり、その話を聞くと、私達が何か行動をするだろうって事よね?しかもあんたが楽しめるような。」
「そうとも言うかもな?」
「……ルーシーに任せるわ、どうする?聞く?」
「え、それ、私達に聞かない選択肢はあるんですか?」
「いや、ねえな。」
「いっぺん殴り飛ばしていいかな、この詐欺師。」
けらけらと笑うザック様とは対照的に、完全に目が据わっているリナリーが拳に魔力を込めたのをなんとか宥めて押し留める。
一頻り笑うと満足したのか、ザック様はジャケットから一枚のスクロールを取り出した。一度剥がしたであろう封蝋が見て取れるが、そこに刻まれた紋章には、アマテラス帝国の紋章である蛇のような龍が刻まれていた。
「それは…もしかして、アマテラス帝国からの?」
「ご名答。あのクソ皇帝からの有難い勅命だ。」
「…で、それが私達になんの関係が?」
「まあこれにはこの学園に潜入しろって回りくどく書いてあるだけなんだが…ルーシー、お前のクラスの中で、お前の次に魔力が多いのは誰だ?」
その勅命が書かれているというスクロールをぞんざいに振りながら、ザック様は視線だけをこちらに投げかける。問われた私は、自身のクラスのメンバーを思い浮かべながら、該当する人物の名前を挙げた。
「えっと…ノルテンス次期公爵…アルガス=フォン=ノルテンスですね。」
「そいつの魔力は多いのか?」
「一般と比べれば、多い方だと思います。」
「お前からしたら?」
「え?ええと…特には…私からしたら少ないと感じるかと…。」
「結局なんなの?何処に有益な情報とやらがあるのよ。」
痺れを切らしたリナリーがザック様に詰め寄る。すると、ザック様は口角をこれでもかと言う程上げ、けらけらと笑い出した。
「な、なに?!」
「ザック様?ど、どうしました?」
「ははっ、は…あー、お前ら、諜報にゃ向かねえなあ…。」
「諜報?え、どういう…?」
「ルーシー、お前を除いた学年全体で一番魔力が多い奴に対して、お前は魔力が少なく感じると言ったな?」
「はい、言いましたけど…?」
何が言いたいのかさっぱりわからず、困惑気味に頷いた瞬間、隣から「あ!!」と声が聞こえ、続いて机を叩く音が聞こえた。
「嵌めたな…。」
「嵌めたとは?人聞きが悪いぜロンガート。」
「え、ちょ、何?どういう事?」
「何が有益な情報よ。」
「誰にとって有益な情報かは言ってなかったはずだが?」
「くっ…悔しいいい!!嵌められた!気付けたはずなのに!!」
二人が何の話をしてるのか全くわからず、一人迷いの森に入っていたら、リナリーが一際大きな溜息を吐いてから説明役をかって出てくれた。
「つまり、ルーシーにとって魔力が多いと感じるレベルは何処なのか探ってただけって話。」
「……ああ!そういう!て、あれ、やばいじゃん、ザック様の魔力が多いのバレちゃったじゃん。」
「そうだよ、バレたの!あー、完全に話が流れたと思って油断したわー。詐欺師じゃん、やっぱ詐欺師じゃん!!」
慌てる私達をしばらく観察していたザック様だったが、徐に持っていたスクロールを開いてテーブルに広げた。私達も一旦その開かれたスクロールを見る。
「…これ…。」
「これが何か、わかるな?ルーシー。」
「誓約書…それも、アリエスハイムでは禁忌に指定されてる、行動を縛るものですね…。」
スクロールには、複雑な魔法陣が、闇属性の魔力を含んだインクで描かれ、更に血で書かれたのであろうサインが二人分書かれている。
この様式は、昔、家の地下書庫で読んだ禁忌魔法の本に載っていた、隷属契約の亜種で、書かれた名前の契約者の行動、または思考を制限するものである。
書かれた名前の片方は行動を縛る人、もう片方は、行動を縛られる人の名前のはず。
そう思って、縛る人の名前を見る。名前の欄はシン=ロウ。アマテラス帝国の、現皇帝その人だ。
「…これ、は…。」
「昔、これをあのクソ皇帝の寝所から取ったんだが、当時は意味がわからなくてな。この誓約は…誓約した本人が、誓約書に込められた魔力を超える魔力で破れば破棄出来る………そうだろう?」
「……。」
確かに、そうだ。
この誓約書は昔、奴隷契約に使われていたもので、奴隷は魔力を封印されるから、破棄出来るものではなかった。ただ、本人が奴隷であるという証明書のようなものだ。
アリエスハイムでは二百年以上前、奴隷制度を禁止した時に、禁忌魔法として指定され、破棄されたはずの魔法誓約書である。
さすがザック様…こんなの、アリエスハイムでも至高の闇属性使いを祖に持つうちの家の地下書庫か、王城の禁書庫くらいにしか情報がないはずなのに。よく調べたものだ。
これを、今のザック様が破棄するのは可能だろう。
だが、それを前に、私とリナリーは同じように固まってしまった。それもそのはずだ。
問題はそこじゃない。だって、この誓約書は、真名でなければ機能しない。
そこに書かれてある名前は確かに、ザッカリー=ティル=アリエスハイム…ザック様の、アリエスハイム王国の第一王子のその名だった。
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