Act.30 最推しと授業
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「えっ…。」
「あるわよ!何言ってるのよ!!」
「そうですわ!どうして貴方がルーシーと組む事になるんですの!?」
すぐさま噛み付いて来た二人を笑いながらスルーして、もう片方の手も取られて、向かい合う形になる。
当の私はリナリーの声もドリーの声もほとんど右から左で、ただただ両手に全神経を集中させていた。
だってめっちゃ優しく触れてくれてる!ザック様が!いやコクヨウだけど!
「ほら、授業がどんどん遅れてしまう。黒薔薇姫、遅れてすみませんが、貴女に触れる許可を。」
「っ…え、ええ、わかりました。許可しますわ。」
「……あー、もう!わかったわよ!ドリー、私達も早くやりましょう。」
「ちょ、諦めるんですの?!」
「ほら、ドリー、魔力流すよー。」
ちらりとリナリーを窺えば、目線だけで「しっかりこなせよ!」と言われた気がした。
苦笑しながら目線だけで返せば、ぷいっとリナリーはドリーへ向き直ってしまった。ドリーもぶつぶつと言いながらもしっかりと練習はやるようだ。
この魔力制御練習だが、これは二人一組でお互いの両手を握り、繋いだ手からお互いが魔力を流し、同じ量の魔力をお互いの手、体、手へと循環させていくというもの。
円を描くように右手から出して左手で相手の魔力を受け止めるというものだ。
この練習がなかなか難しくて、お互いが全く同じ量の魔力量でなければ上手く循環しない。相手が多いと、すぐに魔力が詰まって相手が魔力切れを起こす。逆に上手く調節出来れば、お互いの魔力を交換し続けるようなものなので、何時間でもやり続けることが出来る。
受け取る魔力と同じ量を出す練習なので、これを繰り返していれば、魔力制御は自然と上手くなるのだ。
私はこの練習を幼い頃からひたすらさせられた。母様かドリー、または兄様が少しずつ私に魔力を流し、私は魔石という、魔力を込めると込めた魔力分だけ光る石に、同じだけ魔力を込める練習。私が大量に魔力を流してしまったら相手は魔力過多でぶっ倒れてしまうので、私の流す相手は魔石だった。
私が魔力を込めた魔石が、相手が魔力を込めた魔石と毎回同じ光り方になるまで、毎日毎日やっていた。
だから私は魔力制御練習なんて今更やらなくても体が覚えているのだが。
「では、魔力を流しますね。」
「え?コクヨウ様?」
そして、私の左手が、ザック様の魔力を受け取った…が。
多い。多過ぎる。なんだこれ。
いや、私の魔力量では全然余裕なんだけど、これ普通の人と組ませたら相手が魔力過多でぶっ倒れるわ!!
いや、確かにザック様は魔力量でいえば私と同等くらいは持ってるんだよ。本来は。でもそれは禁呪で封印されて……あれ?そうか、魔力は封じられてはないのか。記憶と見た目だもんね。
え、でも確か原作では魔力の使い方がわからないザック様にリナリーが魔力を渡して、魔力ってこういうものだよって教えるとこからスタート………あああああああそうか!!この前の誓約だ!!あの時ザック様が魔力がどういうものかわかったからもう使えるんだ!
しかも使われた魔力、つまり私の魔力が闇属性の強い魔力だったから光属性の魔力を持ってるザック様の閉じられてた魔力が反発してこじ開けられて調節が効かないんだ!
原作だとリナリーの聖属性の魔力だから反発しないし、ゆるく開いたとこから漏れ出した丁度いい量の魔力しか出せなかったんだ…。
確かゲームでリナリーも「あれ?コクヨウ様、もっと魔力あるのかな?私の魔力聖属性だから返しづらいはずなのに…凄い!」みたいに驚いてたもんね!やばい!こじ開けやばい!調節覚えて貰わないとこの魔力量、私以外と制御練習したらバレる!!
「コクヨウ様、少し宜しいかしら…。」
「どうしました?」
「…もう少し魔力を抑えた方が宜しいですわ。」
「…なるほど。ただ扱い慣れていませんからね。どうすればよいのでしょう?」
「魔力の巡りを感じて下さいませ。私が少しずつ流しますから、その量を覚えて下さい。」
そう言って、少しずつザック様に魔力を流す。ザック様も、私の言葉で、どうやら自分の魔力が平均より多いという事に気付いたらしい。
意識して、ザック様に流す魔力量を、平均的な魔力量より少なめに。一応学園ではアマテラス人とアリエスハイム人のハーフという設定だから、魔力量が多いとそれはそれで問題だろうからだ。
魔力量の最大値なんて、それこそ相手の魔力量を把握して魔法をかける聖属性使いくらいしか探れないし、平均値を教えれば 問題は無いはず。
「…これくらいですかね。」
「まだ多いですわ。もっとちゃんと感じて下さい。」
「うーん…では、これなら?」
「まだですわね。私の魔力、ちゃんと感じておられます?」
「勿論ですよ。ですが、なかなか難しいですね。」
「……あ、今が丁度ですわ。それくらいの魔力を覚えて下さいまし。」
「…これくらい、と。」
「さすが、飲み込みが早いですわね。」
十五分程やっていると、私の魔力量に合わせられるようになってきた。
それもそのはずで、元々禁呪がかけられる前はこれくらいザック様も軽く出来ていたはずなのだ。今日の練習は覚えるというより、思い出す作業に近い。
体が覚えているはずの魔力制御を、思い出して慣れさせる為の作業。
「……。」
「?どうされました?何か気になる事でもおありなのかしら?」
魔力制御練習をしながら、何か思案顔のザック様に問いかけると、ぐっと両手を強く握られる。驚いた瞬間には、もう少しで体が触れるんじゃないかというほどまで近付いてきたザック様。
手元に集中しているとは言え、この場には一学年全員、それに教師陣もいる。勿論ザック様に入れ込んでいる令嬢方もいる訳で。
相手が私だから何も言わないが、その令嬢方の現在の胸中は察して余りあるほど。ばしばしと猛烈に飛んでくる敵意の視線が物語っている。
「す、少し近過ぎませんか、もう少し離れて下さい。」
「失礼。」
するりと片手を離すと、私の頭を抱き込むように回し、顔を近付けてきた。
公衆の面前でのあまりの事態に、軽くパニックになりながら、急いで離れようとした瞬間、近付けてきていた顔が逸れて、ザック様が耳元で囁いた。
「後で話がある。灰色女もだ。」
言うだけ言って、すぐにザック様は離れた。返事をしようにも、はくはくと口は開くだけで、声が出ない。
向こう側に、羅刹のような顔をした友人二人の姿が見え、多少落ち着きを取り戻した私を見て、また王子様スマイルを貼り付けたザック様が離していた手を少し上げる。
「埃が付いておりましたよ。驚かせて申し訳ない。」
「………いえ、大丈夫ですわ。ありがとうございます。」
話とは、なんなのだろうか。
リナリーも連れてということは、連れ去るとかそういう事ではないだろうし。そう思いながらザック様を見上げても、王子スマイルにときめくだけで、何の感情も読み取れなかった。
考えてもわからなさそうだし、とりあえずこの授業が終わった後に、ザック様の背後に見えるあの羅刹が如き友人二人を鎮める為の祝詞でも準備しておこうかな。
いや本当に貴族令嬢のする顔じゃないよ二人とも。もっと猫被っててよ。
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