Act.28 友人は怒ると(大体)怖い
今回も少し長めです。
そうしてぼんやりと過去を思い返していたら、ベルの音で現実へ引き戻された。
どうやら授業が終わったらしい。
次は確か…一学年合同の実技練習だっけ。第二演習場へ行かないと。
「ルーシー、さっきぶりね。」
「あら、ドリー。早いのね。」
「魔法学好きだもの。ねえ、それより聞いてよ。この実技練習、グループ毎の練習じゃない?」
「ええ、それがどうしたの?」
「殿下ったら、今のグループは気に食わないから変えろってごねちゃって。お陰でさっきの授業はもうてんやわんやよ。」
「え?グループを変更したの?」
「うん、まあ殿下のとこのグループと何人か交換しただけだけどね。もう本当にあの我儘なんとかならないの?」
「…なんとも言えないわね。」
ちらりとBクラスの方を窺えば、なるほど確かにちらほらと不満げにディリアスを見ている人がいる。当の本人は至極満足そうにリーダー気取りをしているようだけど。
ふと目線を逸らせば、その先にザック様がいた。数人の女子に囲まれながらキラキラした安定の王子様スマイルを浮かべている。
相変わらずイケメンで本当に眼福です、ありがとうございました。
「ルーシー!ドリー!」
「リナリー!おはよう!」
「おはよう、リナリー。授業が一緒なのは初めてね。」
「もう、本当に一人の授業って気が滅入るわ。実技以外は一緒に学習しても良いと思わない?」
「私もそう思うけど…何か理由あるの?ルーシー。」
「もしも聖属性使いが平民だった場合、いきなり貴族と同じスタートではついていけないからよ。読み書きが出来ない方も多いんだもの、別の教室になってしまうのは仕方の無い事だわ。」
「ああ、なるほど。さすがの優等生ね。」
「私も、自分がそうなのに初めて知ったわ。」
「貴女達…少しはそういう事も知ろうとしなさい。」
少し呆れながら窘めると、二人で笑いながら努力するわ、なんておどけて見せる。わざと大きめな溜息をついた時、始業のベルが鳴り、私達は軽く挨拶を交わして、それぞれのクラスの場所へ戻った。
すぐに教師が入ってきて、ざわついていた演習場内が静まった。
「では、本日は合同練習という事で、A、Bクラス共に六つのグループで分かれて、更に同じ番号の別のクラスのグループと合同となり、魔力制御の練習をします。まずはグループに分かれ、別のクラスのグループと合流して下さい。」
その言葉を合図に、散らばっていた生徒達が集まり出す。
Aクラスでのグループなどほとんどあってないようなものなのだが、授業である以上全員従わざるを得ない。特に気にした事もなかった自身のグループの方へ歩き出すと、ドリーがにっこりと笑いながら手を振ってきた。
「ルーシー、同じグループのようよ。よろしくね。」
「よかったわ、ドリーがいて。他には?」
「今から集まると思うわ。一人ちょっと移動が遅くてね。それにこのグループ、一人少ないのよね。だから多分、リナリーも一緒になると思うわよ。」
「まあ、嬉しいわ。」
Aクラスの方は私を含めて四人揃っている。BクラスはAクラスより人数が多いので、本来は六人のはずだが、ドリー含め四人しかいない。一人少ないという事は、あと一人Bクラスの人間がいるはず。
と、そこへリナリーが小走りで近付いてきた。
「やっぱりルーシーとドリーの所だったのね!わたしもここだって!」
「そうじゃないかって今話してたのよ!」
「一緒に練習頑張りましょうね。」
三人できゃっきゃと楽しんでいると、置き去りにされていた残りの同グループの人間のひそひそと話す声が聞こえた。
「ロンガートなんて田舎者と一緒かよ…。」
「ローズシェット家とリングライト家はいつから田舎者にしっぽ振るようになったんだ?」
「愛称なんて呼ばせて…高位貴族の誇りはないのかしら。」
「田舎者が…身の程を知れっての。」
うーん…聞こえないとこで言うとか、すれ違いざまに囁く程度なら聞き流してあげたんだけどな。というか…私なら、だけど。
「あらあ??そこの方達は今何をお話されてたのかしら?」
にっこりと、なんかどす黒いオーラを背負いながら、ドリーがこそこそと話す奴らに問い掛ける。びくりと肩を震わせて、話していた四人はさっと顔色を変えた。
「い、いや別に…。」
「別に?なあに?田舎者がどうとか聞こえたのだけれど?私にも詳しく教えて下さらないかしら?」
「いや、それは、その…。」
「何?正当な理由があってそんな事を言っているんでしょう?ならはっきりと言いなさいな。なんなの?」
「…何でも御座いませんわ…。」
「何でもない訳ないでしょ?ねえ?聞いてるのかしら?」
「………。」
「あら、だんまりなの?さっきまであんなに軽やかに口を動かしてたのに?ねえ?」
ゆっくり詰め寄っていくドリーからさっと目線を逸らし、四人は黙り込んで気まずそうにするばかり。
甘いなあ、ドリー相手に黙秘なんて意味が無いのに。それならとっとと自分の非を認めて謝罪した方が得策だ。
まあ、彼らには謝罪なんて考えもつかないんだろうけど。
「一つ言っておきますわ。貴方達、自分達の家格をご存知?」
「?え、どういう…。」
「左から、子爵家、男爵家、伯爵家、伯爵家。間違ってますかしら。」
「い、いえ…。」
「そうでしょうね。じゃあ私の家格をご存知?」
「…リングライト侯爵家、です。」
「正解よ。ではルーシーは?」
「ローズシェット公爵家…。」
「そうね、じゃあリナリーは?」
「…ロンガート辺境伯家でしょう。何ですの?さっきから!」
痺れを切らした伯爵令嬢がドリーをキッと睨むと、楽しそうにドリーは微笑んで、その令嬢に詰め寄っていく。
「何ですの、ですって?貴女、今の話でわからないの?理解力が足りないのではなくて?」
「なっ…?!」
「私達は少なくとも貴方達よりも家格が上だと申し上げているのよ。おわかりかしら?」
「はっ?!リングライト様やローズシェット様はわかりますわ、でもロンガート辺境伯家なんて田舎者…!」
「無礼者!!」
演習場内に響き渡るほどの声でドリーは言う。
すっと笑みを消して、そこに並ぶ四人を一人一人睨めつけながら、言葉を続けるドリーを、私とリナリーは黙って見つめるしかない。
「田舎者ですって?貴方達の家は何を教えてきたの?辺境伯家は国境を警備する家だと言う事も知らないの?彼らの活躍がなければ、こうして平和な生活を送ることも出来ないのよ?」
「…し、しかし、ロンガート辺境伯家の領地はユースポールとの国境で、百年以上も辺境伯としての仕事なんて…!」
「平和な国境間に警備なんて必要ありませんもの、百年以上も昔の武勲に縋る、ただの田舎貴族ではありませんか!」
「お黙りなさい!それでも辺境伯家です。国境警備を元々担った事のある家ですのよ。その上、リナリーは聖属性使い。現時点では王家と同等の身分です。」
「そ、れは…。」
「その三人を侮辱しておいて、ただで済むと思わないことね。先程貴方達が言った事、全て家を通して正式に抗議させていただきますわ。」
「?!そんな、やめっ…それだけは!」
「ローズシェット公爵家と我がリングライト侯爵家、それに聖属性使いは学園にいる間は王家の所属となりますから、王家からもね。貴方達、とっとと謝罪の練習でもなさったらいかが?」
真っ青になって震えている四人を愉快そうに笑いながら見て、ドリーはこちらに歩いてくる。周りはどうすべきかオロオロしながら見ていて、教師達も同様、どう言えばいいのかという顔でお互いに顔を見合わせていた。
どうにもドリーが物凄く悪役令嬢っぽくなってしまっていて何とも言えない。陰口や悪口に対しては結構キツい物言いはする子だったけれど、ここまで悪役令嬢っぽかったかな…いや、あれか、今までは私も注意してたからドリー一人がここまで言うこともなかったのか。
「…ドリー…。」
「あら、私は真実を言ったまでだわ。あの方達の家の教育が良くなかっただけだと思ったから家に抗議すべきと判断したまでよ。」
「知らなかった、ドリーって結構言うのねー…。」
「ああいう手合いに遠慮なんて必要ないでしょう?」
こうなったドリーは自身が納得しないと動かない。彼女も正しく貴族であるが故、曲がった事をする貴族が許せないのだ。なにぶん、口は回るし頭も切れるから、屁理屈や言い訳なんてものは正論で全てへし折られてしまう。まるで兄様みたいに。
まあ、そういう曲がった事が大嫌いな性格は凄く好きなんだけどね…でも、聞き流してあげるのも高位貴族の務めだとも思うのよ…。
四人の方を見れば、一人の令嬢が、ぽろっと涙を零した所だった。
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