Act.27 その後の経過
今回説明回なので文字数多いです。
ディリアス暴走事件から二週間。
あの日そのままリナリーを訪ね、遭った事を報告すると、般若のような顔で「あのゴミに地獄を見せてくる」とか言い出したので、必死で止めた。さすがに聖属性使いとは言え、たった一人しかいない王太子を再起不能にしたとなれば大罪人だ。
やめとこう、リナリー。冷静になって。あと治癒魔法かけて。帰れなくなるから。さすがに殴られた顔面のまま帰ったらうちの兄様も使用人も発狂するから。
そして、あれからディリアスは本当に私に近付いて来なくなった。稀に学園内で遭遇しても、私に気付くと視線を逸らす。取り巻きも恐らくあの時周りを取り囲んでいた誰かだったのか、同じように視線を逸らし、さっさと私の視界外へ消えていくのだ。
私にはそれがとても愉快なので、しばらくはこの状態を楽しませてもらいたい。
ちなみにザック様はコクヨウとして普通に学園にいる。クラスはBなので、授業中に一緒という訳では無いが、たまに廊下や庭園ですれ違った時なんかは完璧な王子様スマイルを向けてくれる。その度に動悸息切れがやばい事になってるのは私とリナリーの秘密。
学園ではエリオット祭が近付いて来た事で、あちらこちらで色んな生徒が情報を交換している姿が見られた。私は兄様から七割程度は情報を貰っているし、残りの三割の内二割はリナリーからの情報(恐らくハリーやフィリップから入手した)も共有し、更に…
「ルーシー!おはよう!」
「ドリー!おはよう、今日も元気そうね。」
彼女、ドロシー=リングライトからの情報で、全ての課題は把握済みだ。
彼女はリングライト侯爵家の長女で、幼い頃から仲の良い私の幼馴染で親友だ。入学からしばらくは体調を崩していて会えなかったのだが、この間ようやく会えた。
くっきりとウェーブのかかった肩下までのオレンジの髪と、少し吊り上がった淡い緑の瞳。
家格的にも問題なく、性格もドリーは本当に竹を割ったような性格をしていて、好感が持てる。何より彼女は正直な肉食系女子である。
そんな彼女はねちねちと陰で悪口に勤しむそこらの令嬢なんかよりはよっぽど信頼出来るというもの。
ようやく登校して来たその日にリナリーにも会わせたのだが、すぐに打ち解けて仲良くなってくれた。
「ふふ、今日はリナリーはいないの?」
「リナリーと会うのはいつも昼食時よ?こんな短い休憩時間では、彼女の教室からは時間がなくなるもの。」
「あー、それもそうよね。聖属性使いってクラスが同じでもほとんど会う機会がないのね。」
「代々聖属性使いは身分に関係なく入学するんですもの、リナリーは貴族ではあるけれど、ほとんどの聖属性使いは平民だったって聞くわ。」
休憩時間になるとふらっと現れる彼女もBクラス。まあAクラスとBクラスの教室自体はそれほど離れている訳ではないし、友人知人もいるので、クラス間を行き来している人はそれなりにいる。
と、その時、始業開始のベルが鳴った。
「あら、気付かなかったわ。じゃあね、ルーシー。またあとで。」
「ええ、またあとで。」
お互いに軽く手をあげて挨拶をした。
次の授業は…確か王国史だったかな?ある程度は全て頭に入ってるからな…前回は国の興りまでだったし、今日は初代国王の所かな。
そう思いつつ教科書を取り出し、机に置く。
すぐに教師が入ってきて教壇の所で一礼し、授業が始まる。
「前回は建国までをやりましたね。では今日は初代国王陛下の名前から始めていきましょう。グレインさん、初代国王陛下のお名前を言ってください。」
「レイドリック=ティル=アリエスハイム初代国王陛下です。」
「そうですね。初代国王陛下はその類まれなる魔力と比類なき光魔法で、このアリエスハイムの国土を平定したと伝えられております。では初代国王陛下には優秀な腹心がいましたが、彼の元々の名前は?」
「マーベリック=ティル=アリエスハイム様です。」
「そう、マーベリック様です。彼は初代国王陛下の双子の弟であり、彼もまた類まれなる魔力を持ち、そして優れた闇魔法使いでもありました。」
後ろを向いて黒板にサラサラと相関図のようなものを書き出した教師。その体勢のまま、彼女はまた口を開いた。
「彼の名はアリエスハイム王国建国以来歴史書から消えます。その辺りの詳細を…せっかくですのでローズシェットさん、お願いします。」
「はい。マーベリック様はレイドリック様が初代国王として即位された後、御自身はローズシェットと姓を変え、公爵家としてアリエスハイム王国を支えると誓われました。」
「そうですね。ローズシェット一族は王家と同様、建国以来から続く公爵家であり、また、王家との取り決めの多い一族でもあります。その主な取り決めをお願いします。」
「はい。我がローズシェット一族は王家と同様の歴史ある一族であり、王家にも等しい権力を持つが故に、我が一族の男性は政に関わる重要職に就く事を禁じられていますわ。理由は王家にとって我が一族が政敵とならない為。我が一族に許されているのは王妃となる事のみですが、王妃に王位継承権は無く、また王妃となった者はローズシェット家との関わりを断つ事が決められています。」
「ルシルさんは現在ディリアス殿下の婚約者であり、王妃となる方ですからね。その他には?」
「王都に何かあれば、第二の王都として機能出来るよう、常に領地を栄えさせることですわ。その為に我がローズシェット領は王都と同じような広さがあり、緊急時の王族の邸となるよう、王家所有の邸宅がありますが、管理はローズシェットに任せられておりますわ。」
「はい、そうですね、主な取り決めはあと一つありますね。そちらもお願いします。」
「王家に問題があり、それが修復不可能と判断された場合、その代のローズシェット家当主が陛下に決闘を挑む事を決められてます。これは反逆罪にあたらず、常に王家が正しい王政をなす為の監視の役割を担うためですわ。我がローズシェット一族は生まれた時からアリエスハイム王国の為に生きる事を使命とし、常に正しく貴族である事を義務付けられております。」
この話は幼少の頃から教え込まれるローズシェット一族には脈々と受け継がれる信念であり、誇りでもある。
王家に受け継がれる光魔法は全ての王族のみが持つものではあるが、ローズシェットに受け継がれる闇魔法は全ての一族が持つ訳では無い。
その理由は明らかになってはいないものの、アリエスハイム王国には闇属性使いがいる理由は、単純にローズシェット一族との婚姻によるものだろう。
一説によると、王家はティルラーナ神より祝福を賜り、かの神より光を司る一族として認められたから、王家以外には光属性使いは現れないのだとか。あの王太子を知っていたら眉唾以外の何者でもない話なんだけど。
ちなみに原作ではほとんど登場せず、設定もほぼないままだった宗教だけど、実際はしっかりと国教がある。
それがティルラーナ神を最高神とする、ティルラーナ教。
国民の八割以上が教徒ではあるが、宗教に国境はないものとして、他国にも敬虔な信者はいるという。
王族のみが名乗ることを許される『ティル』というのは、このティルラーナ神より賜った名だという伝承が残っており、その名を名乗るという事は、ティルラーナ神の祝福を持つ事を意味する。つまり、自分には王位継承権があると言うことだ。
公爵家のみが名乗る『フォン』は、自身は王家に連なる者ではあるが、王位継承権は放棄しているという事を意味していて、ローズシェットより王妃となった者は婚姻後もこちらを名乗らなければならないのだ。
なんとも面倒くさいシステムなんだろうか。別に名前なんて苗字と名前があれば十分だと思うんだけど。
時代的には地球の中世に近い分、跡継ぎやらに関しては男女での差がはっきりとある。
まあ実際遺伝する属性は父親からの属性が強い為、女性は跡継ぎにはなれない家が多い。王家や、公爵家は特にそう。
うちも兄様は闇属性が使えないが、適性が全くない訳ではないし、父様なんて澄んだ碧い瞳をしているが、私が産まれたのだ。闇系の力も潜在的には持っているという事で、跡継ぎは魔力が桁外れの私ではなく、兄様に決まっている。
…正直この辺りの話に関してはこじつけ感が凄いけどね。
原作の時はここまで細かい設定なんて勿論なかったし、登場キャラの見た目を似通わないようにする為に色味を変えてたとしか思えないから、現実として矛盾が起きないようにこういう設定になってるんだろうなとしか思わない。
というか、ローズシェット家の初代が初代国王の弟とかも今世で初めて知ったし。そりゃ公爵家なんだから王家と繋がりはあるだろうな、程度だったけどさ。後出しみたいな設定やめてほしいわ。
「素晴らしい事ですね。ローズシェットさん、ありがとうございます。それでは、次は聖属性使いについて…リーンベルさん。」
「はい、聖属性使いとは建国して間もなくの頃、初代国王陛下が突如病魔に襲われ、それを癒す為にティルラーナ神が遣わしたとされる神使であると解釈されています。聖属性使いは血筋、家柄関係なく生まれ、その力で持ってアリエスハイム王国の繁栄を助ける役割を担っています。」
「そうです。今年入学したロンガートさんは聖属性使いですね。聖属性使いは二十年から三十年に一人生まれ、貴族平民問わず、その者は王家の庇護下に入るものとされます。今我が国にいる聖属性使いはロンガートさんを入れて二人。もう一人である、リストリア様はティルラーナ教総本山であるティルラーナ神殿にて聖女として奉仕活動をされておりますね。」
リストリア様はリナリーの前に産まれた聖属性使いで、今は聖女という称号を教会から賜っている。
彼女は元は平民で、誰でも分け隔てなくその力を使う事から、聖女と呼ばれるようになったのだとか。
私がディリアスに薔薇の生垣に突き飛ばされた時、傷跡が残らないように治療してくれたのはこのリストリア様だ。
濃いグレーのふわりとした髪と、澄んだ朝のような灰色の瞳を未だに覚えている。
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