Act.25 白馬の王子様って実在します?
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「私は分相応の振る舞いをしていますわ。何が分不相応だと仰るのです?」
「その言動だ!貴様は俺に服従し、ただ俺に従えばいいだけだ!俺に歯向かうな、俺のやる事成す事全てを黙って肯定していればいい!!」
「……随分と浅慮な事ですわね。ただ従うだけの奴隷が欲しいと仰っているのですか。」
「奴隷になれと言ってるんだ!貴様が闇魔法の使い手でなければとっくに隷属魔法で思考なんぞ奪ってやるのに!」
「…その発言は聞き捨てなりませんわよ、殿下。王家の人間として、禁止されている魔法を使うなどと」
「黙れ!!そういう態度が気に食わないと…言ってるんだ!!」
ガンッという鈍い音がした。
次いで来たのは同じような鈍さの痛み。そして口の中に広がった鉄の味と、鼻腔に届いた同じにおい。
どうやら私はディリアスに殴られたらしい。
「っ…い、た…。」
「大人しく仕置きを受けろ。そして明日からは俺の奴隷となればいい。……お前ら、顔は止めておけよ。じゃあな。」
「…どちらに行かれるのかしら。」
「貴様のボロボロの姿など見て何になる?俺は忙しいんだ。適当に殴られていろ。……ああ、それと、お前が奴隷にしてくれと懇願したら止めるように言ってある。精々早めに止めてもらえるようにお願いする事だな。」
高笑いをしながら踵を返すディリアスと、木剣を構えてこちらに寄ってくる男達。
これはまずいな。私は基本的に人を攻撃する魔法を発動してはならないとされている。加減を少しでも間違えば、私の魔力は人を簡単に殺してしまえるからだ。
別に監視をされている訳ではないが…この人数相手でも魔法を使ったとすれば、私が殺人未遂で処刑対象となる。それに、殴られながら魔法を発動すれば間違いなく数人は殺す自信がある。魔力の調整なんて集中しなきゃいけない事を、そんな器用にこなせる程、私は痛みに慣れてないのだから。
さすがに、人を殺したくは、ないな。
「ああ、あと最後に。安心しろ、木剣以外で体に触れるのは禁止してあるから、殴られる以外に何かある訳ではない。そこは俺も紳士として、弁えているからなあ?…ははははは!!」
この、クズ野郎。
何が紳士だ。紳士の意味をググってみろ。そんなもんこの世界にないけどな!!
じりじりと寄ってくる男達。前後左右全方向にいるせいで、逃げ道がない。
これは、終わった、かもしれない。
そう、覚悟を決めて目を閉じた瞬間だった。
「あれ?こんな所で何をやってるんですか?」
「?!!」
まさか。
まさかまさかまさか。
この声、この話し方。
聞き間違える訳がない、私が、この、声を。
反射的に声の方向を見れば、ここのところの悩みの種が、にこやかな王子スマイルを浮かべてこちらに歩いて来るところだった。
「だ、誰だ!貴様は!」
「私ですか?私は、コクヨウと言います。以後お見知りおきを、ディリアス王太子殿下?」
ザ、ザック様(コクヨウver.)だああああああ!!!!
うわ、あ、あああ、めっちゃ完璧な王子スマイルしてるううう…声が普段より二トーンくらい高いいいい…えええもうなにこのイケメン…元々イケメンなのにタイミング良過ぎない…?完全に王子様じゃん…白馬の王子様じゃん…前世の某夢の国の作品でよく見た王子様じゃあん…。
「とても珍妙な格好をした方々ですね?それに…何故皆さん木剣など持たれているのです?ここは鍛錬場ではありませんよ?しかも囲んでらっしゃるのは、かの黒薔薇姫ではないですか。女性相手に何故こんな真似を?殿下。」
一息に言い切ったザック様(コクヨウver.)は、すたすたと私の方へ歩いて来る。そのまま私の腰を抱き寄せ、綺麗な弧を描いた口元をそのままに、瞳を光らせながらじっとりとディリアスを睨めつけた。
「黒薔薇姫は人に危害を加える魔法が禁じられていると記憶しております。それをわかっていながらこのような事をなさるとは…婚約者を嬲って何が楽しいのでしょう?」
「だ、黙れ!」
「黙っていられませんよ、こんな状況を見れば。それに、黒薔薇姫は既に血を流されている。これは完璧な暴力行為ですね?こんな事が許されるとでも?」
言いながら、ザック様(コクヨウver.)は、口の端から垂れる血をそっと指で拭ってくれた。
多少の痛みは走ったものの、あの王子スマイルを間近にしてるお陰で、五感はそこまで正常に機能せず、結果として少しピクリとしただけで済んだ。
そんな事よりもこの表情を目に焼き付けておかなければ。いつでも脳内再生可能なように…!!
「うるさい!それは俺のモノだ!俺がどう扱おうが文句を言われる筋合いはない!」
ピクリと、彼の瞳が翳った。
笑顔はそのままに、瞳だけを普段のザック様の様に翳らせて、ゆったりとした動作で彼はディリアスを見る。
私の位置からでは横顔ではあるが、それでも充分だった。まとわりつくような殺気と、射殺すような怒気が入り交じったような、見られていない私でさえ息がしづらいくらいなのだ、それを真正面から向けられているディリアスは指一本すら動かせないだろう。
「申し訳ありません、殿下…私、どうやら今日は耳が良くないようでしてね。今、なんと仰いました?」
「あ、…。」
「俺の、モノと…そう言いましたか?」
「っひ、…!」
「誰が、誰のモノと、仰っておいでで…?」
声から、言葉から、その一つ一つから、まるでナイフでも飛んでいるかのようだ。
ちらりと周りを伺い見れば、ディリアスは情けなくも腰を抜かしてへたり込み、真っ青な顔をして小刻みに震えている。その他の奴らも同じような状態のようだ。
……人間不思議なもので、自分よりパニックになっている人間を見ると途端に冷静になれてしまうものなんだな…。
一番間近に恐怖の対象がいるのは私ではあるけれど、その矛先は私ではないし、私は守られている立場。それに、ザック様がキレた原因は大体わかっているしね。
ここらで止めておかないと、このままじゃザック様はディリアスを殺してしまいそうな勢いだ。だから止めたいのは山々なんだけど……これって、私の言葉なんかで止まるもんなんだろうか…。
「コクヨウ様、と仰いましたね?」
「……黒薔薇姫、どうか黙っていてくれませんか。」
「いいえ、黙れませんし、見過ごせません。まずは、この手を離して下さいまし。」
「何故。」
「私に触れる事を、私は許した覚えはないからです。」
「…この状況でも?」
「どんな状況であろうと、私は黒薔薇姫、ルシル=フォン=ローズシェットですわ。この意味がわかりますね?早く、離しなさい。」
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