Act.23 正直無視したい、このクズだけは
翌日の昼休み。
今日は朝から課題があったらしいリナリーとようやく食堂で合流し、席に着いた。周りはまだ人がまばらで、席に着いている人も少ない。
全校生徒が入っても余裕がある食堂はかなりの広さで、 食事の受け取りは片側にしかない為、受け取りテーブルから最も遠いテーブルは自然と皆が避けていく。その為に隅の方は食堂が人で溢れない限りは、そうそう座る人などいないのだ。
なので、私達は隅の方、人がいない席を隣同士で確保し、声をひそめながらリナリーは言った。
「それで、どうやって話すの?」
「朝から考えてたんだけど、私今までアイツと世間話ってした事がない事に気付いてしまってね。」
「え、婚約者どうした。」
「お互い必要最低限しか話さないから…て訳で、切っ掛けがわからないからまたエリオットを使おうと思います。」
「おおー、いいんじゃない?話題としては最適。」
「問題は取り巻きをどうするかってとこよ。」
「それに関しては私に考えがあるよ。」
「…信用していい考え?」
「信用していい考え。」
にんまりと笑いながらサムズアップするリナリーを見て、一抹の不安を覚えたが仕方がない。もう時間もないのだし、その提案に乗る他ないだろう。
と、そこでようやくお目当ての人物が食堂へ入ってくるのが見えた。今日も元気に頭が悪そう。
そして更に頭の悪そうな取り巻きが2人と、後ろに続いて兄様とフィリップが見えた。
「あれ、兄様達も一緒…?」
「これは僥倖。プラン変更してここでセオドア紹介イベントやっちゃおう。」
「え、ここで?!」
返答せずにリナリーは立ち上がり、私を引っ張る。私も共に行かなければ、兄様に言った手前、紹介イベントも進まないだろうし、その流れでどうせ話に入ってくるであろうディリアスに話を聞き出せという事なのだろう。
仕方なく黒薔薇姫の猫を被りきり、リナリーの前を歩く。真っ直ぐディリアス、もとい、兄様達に向かって。
「おはようございます、ディリアス王太子殿下。本日もご機嫌麗しいようで何よりでございます。」
完璧なカーテシーを見せ、そのまま返答を待たずに兄様達へ向き直る。ディリアスは何か文句を言おうとしながら、兄様がいる手前あまり言いづらいのか、一、二度口を開いたが引き結び、憎々しげな視線だけを寄越した。
「兄様、フィリップ。ごきげんよう。」
「ああ、ルーシー。来てたのか。」
「セオ、あ、いや、ル、ルシル嬢、おはよう…。」
「学園で話しかけてくるとは、どうした?」
「一昨日言った子を連れて参りましたの。丁度お見かけしたので、良い機会かと思いまして。」
「ああ、なるほど。」
普通に会話のやり取りをする私達をフィリップは至極驚いたように交互に見遣る。無理もない、つい一昨日までは冷戦をしていた二人が普通に会話をしているのだから。
ただ今はそれに構っている場合ではないので、申し訳ないが一旦それは無視し、後ろにいるリナリーを呼んだ。
「リナリー。」
「初めまして、ローズシェット次期公爵。リナリー=ロンガートと申します。」
多少拙いながらも、きっちりとカーテシーをし、リナリーはふわりと笑った。そんな姿はさすがヒロインと言わざるを得ない。これは愛されヒロインで間違いない。ちょっと原作のルシルの気持ちがわかる。
「ああ、ルーシーから話は聞いている。フィリップからも少しな。ルシルの兄のセオドアだ。」
「お会い出来て光栄です。」
「どうやらフィリップも妹も世話になっているようだな…二人共知らぬ仲でもないしな、俺の事もセオドアと呼んでくれて構わない。」
「ありがとうございます、セオドア様。では私の事はリナリーとお呼び下さい。」
「わかった。」
その辺りでようやく再起動したらしいフィリップも会話に入って行く。それを見届け、少し私は離れても大丈夫そうなのを確認した後、ディリアスへと向き直った。
「申し訳御座いません、ディリアス王太子殿下。お引き止めをしてしまって。」
「…ローズシェット公爵令嬢ともあろう者が、辺境伯令嬢の小間使いでもしてるのか?」
わざわざここまでリナリーを連れて来ておいて、私だけ話の輪に入れてない事を、暗にお前は邪魔者扱いされていると揶揄っているのだろうが、今日の用件はそうしておかないと面倒なのだから仕方ない。それにそうしたのもリナリーの気遣いであって。
本当に…悪口まで浅はかな男だ…。
「お戯れを。兄と約束をしていましたので。早い方が良いかと思っただけですわ。」
「ふん…仮にも公爵家の人間なんだ、いくらリナリーが辺境伯令嬢だからとて、珍獣扱いなどするなよ。虐げるなど以ての外だ。」
「まあ、殿下、私とリナリーは友人でございますわ。虐げるなど有り得ません。」
「どうだかな…同じグループになったハロルドもお前とリナリーは友人だと聞いたと言っていたが…。」
「リナリーの幼馴染の方ですわね。ローチェル次期伯爵。同じグループだとは…彼は社交界では中々に有名だと前に叔母が話しておりました。」
まあ、嘘だけど。そんな話する程叔母様と話す時間もなかったしね。
「令嬢方が話してるのを聞いた。相変わらず家名と次期当主を記憶しているのは凄まじいな。本当に権力が好きと見える。」
「あら、その程度…権力に興味など無くても当たり前ですわ。」
「…その様子ではエリオットの首尾は順調そうだな。」
「それこそおかしな問答ですわ、殿下。私これでもローズシェット公爵家の人間ですのよ?」
「チッ…エリオットの情報はこっちにも流せ、お前が取った情報は全部だ。」
「わざわざ私に言われなくとも、兄がおりますわ、殿下。兄に言えば早いでしょう。」
暗に、お前に渡す気はないから自分でどうにかしろと言えば、ディリアスは憎々しげに歯噛みした後、私の後方、恐らくは兄様達をしっかりと見てから、また私に向き直り、口を開いた。
「後で話がある。授業が終わったら来い。」
「…………………わかりましたわ、殿下。」
物凄く嫌過ぎて、暫し無言の抵抗をしてみたものの、どうやら向こうは諦めるつもりはないようで、もれそうになるため息を必死に押しやりながら、にっこりと微笑んで答えた。
話は終わったとばかりにさっさと消えていく背中を少し見遣ってから、私はリナリーに呼び掛ける。
「 リナリー、そろそろお昼にしませんこと?」
「あ、ごめんなさいルーシー。お話に夢中になってしまって…そうね、お昼にしましょう。」
「あ、それなら…ルシル嬢、リナリー、共に食事など如何だろうか?」
「え…嬉しい申し出ですが、ご迷惑では……。」
「俺なら気にするな、ルーシーと昼食を食べるのも久しいしな、一向に構わない。」
同意を求めるように向けられた視線に、微笑みで返し、リナリーにも頷く。こちらにしか見えないようにサムズアップするリナリーを見て、笑いを堪えつつ、歩き出したフィリップについて歩き出した。
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