Act.22 結論はいつも厄介事
「どうしたの?」
「いや…リナリーが原作通りに動くなら、私も原作通りに動いた方がいいのかなって…。」
私、ルシルの原作通りの動きと言えば、エリオットでは助けられたリナリーが攻略キャラと共にいる所に出会い、無言で睨んで去っていき、ダンスパーティーではリナリーに対してやれ品がないだの、やれお里が知れるだのと小姑のようなお小言を浴びせ、聖夜祭ではリナリーの相手を呼び付けて行かせないようにする。
…なんか、我ながらやってる事が小悪党みたいだけど。ただルシルにもそれぞれ言い分はあった。ファンブックによると、エリオットで睨んだのは聖属性の使い手がこの程度破れなくてどうするのです!って思いながら見ていたのが睨んだように見えて、ダンスパーティーでは身分も安全も保証されている、国が誇る聖属性の使い手が私如きに気品も威厳も負けてどうするのです!って思いながらお小言紛いに言ってしまい、聖夜祭ではリナリーとの約束がある事を知らず、攻略キャラに垢抜けないリナリーを国の誇りがあのままでどうするのです!って説教垂れていた。
本当にリナリーの事考えまくって動いてるんだよね、ルシルって…。
作中でも結構ツンデレっぽいムーブは見せるし、ラストで本当のルシルを出してくれるからもうなんか、某漫画のとある夫人かって言われてたくらいだしな…。
「うーん…それでもいいと思うけど…ルーシー忘れてない?」
「何が?」
「ザッカリーはルーシー側にずっといるんだよ。」
「あっ!そうだった…ザック様だけが例外なんだった…。」
そう、ザック様ルートでは登場したザック様はリナリーの傍にいる事はほぼない。
エリオットは正規の生徒ではないから、リナリーが自力で闇魔法を破り、次の課題へ向かってる最中に木の上から話しかけてくるだけ。
ダンスパーティーはザック様ルートではエスコート無しのまま登城し、暇を持て余したリナリーが庭園へ散策に出た所でザック様が現れる。
聖夜祭ではそのタイミングでザック様の禁呪に関するイベントが進み、そもそも聖夜祭に参加しない。
つまり?私はどうすれば?
「…私闇魔法掛けられても無効化出来るしな…。」
「いや心配するとこそこ?!そもそも私とルーシーじゃ立場が違うんだから全く同じルート辿れないのわかってるでしょ!」
「いやまあそうなんだけど…もう既にザック様が原作と違う動きし過ぎてて現実逃避したくなっちゃった…。」
「あー…まあ…奴隷香なんて原作に出なかったよね…。」
「なかったよ…!そもそもザック様が登場するタイミングで周りに人がいないのはただのご都合主義だと思ってたくらいなんだから!」
「そこは私も全力で同意しとく。」
なんであんな物騒なものをホイホイと使うんだ、ザック様は!いや暗殺者なんだから当たり前なんだけど!快楽主義者だから何の抵抗もなくそういうもの使ってる方がらしいんだけど!!
でも画面の向こうと現実では天と地よりも差があるじゃん!!
「うー…リナリー。」
「うん?」
「今思ったんだけどさ。」
「うん。」
「原作と完全に違う動きしてるのザック様だけじゃない?」
「何を今更。」
「ですよねー…。」
ディリアスにしても、フィリップにしても、多少原作と違うとは言っても誤差と言えば誤差の範疇。その誤差では誤魔化せない程の動きをしてるのがザック様だ。
まあそれを言えば私達もそうなんだろうけど、今はとりあえずその事は棚の上に置いておく。
「今日は会ってないの?」
「うん、まあ昨日の今日で来られても私の顔面がもたないからいいんだけどね。」
「本当ザッカリー推しって気持ち悪いね。」
「なら気持ち悪くないリナリーさんは今日フィリップと会ってどうだったのかな?」
「時折思い出したように顔を赤らめるフィル様が尊過ぎて憤死するかと思いました。」
「結局気持ち悪いじゃねーか。」
「恋する乙女はそんなもん。」
二人で顔を見合わせてくすくすと笑う。こんな事をしている間はここが日本であると錯覚しそうになる。でも目の前に座っているリナリーはどう見ても地球には有り得ない髪色と目の色をしている。ここは、どう足掻いても、ゲームの中の世界で、私達はそこを現実として生きている。
嫌になるほど痛感しながら、一つ息をついた。
「なんだっけ、そのキスマークが消えるまでに会いに来るって言ったんだっけ?」
「そうだね、まあこれ多分五日くらいはしっかり残るんじゃないかな?…ザック様無駄に付けるの上手いよね。」
「要らない情報寄越さないで。じゃあ少なくとも今日明日会いに来るって事はなさそう。」
「恐らくはね。ゲームじゃ結構さっさとエリオットまで行っちゃうから、ザック様と会うって事もなかったし、わかんないなー。」
「とりあえずは要警戒、てことしか無理じゃない?」
「ま、そうなるかな…。」
言いながら首を触る。今は制服で隠れてはいるものの、これを脱げばくっきりと残っている跡。今日家を出る時にまたゆっくりお話しましょうねと言っていたナンシーとリズを思い出す。
…なんとか逃げれないかな。
「それにしても…あと動向がわからないのはディリアスとザッカリーか…。」
トントンとノートを指で弾きながら、リナリーは思案顔をしている。
「ザック様の動向に関しては一旦保留するしかないんじゃない?」
「それはそうだねー、てことは…あとはディリアス?」
「…物凄く嫌だけど、その結論は私も昨日出てたよ…嫌過ぎて忘れてたけど。」
「ディリアスに話聞かなきゃいけないのかー!」
言いながらリナリーは机に突っ伏してしまった。
実際そこを確かめないとなんとも言えない事は多い。何故なら一応はメインヒーローであるが故に、ディリアスはほぼ全ルートで関係してくる。ディリアスの動き如何によっては発生しないイベントもあるので、奴の動きを探っておくべきではある。
ただただ私達の苦手意識が先行し過ぎているだけで…。
「ディリアスの話は私が聞くよ。」
「えっ?!なんでルーシー?!そこは私が行かないとじゃない?また罵詈雑言浴びせられて終わりそうな予感するけど?!」
「まあ結果はそうなるだろうけど、リナリーは今ディリアスに近付くのは得策じゃないでしょ。下手するとディリアスルート入っちゃうよ。」
「あ、そうか…それがあった…。初対面イベントやっちゃってるもんな…。」
「そこは私が我儘言ったんだし、ここは私が行く。」
「ルーシー……。ありがとう。」
「これでも十年耐えてきたんだから大丈夫だよ。」
にっこりと笑って、ぐっと胸を張った。そんな私を見ながらリナリーは眉尻を下げながらも、笑ってくれる。
そのままノートをしまい、手を叩いて気持ちを切り替えた後、一頻り談笑し、私達はそれぞれの帰路についた。




