Act.21 報告と相談を兼ねて
何事もなく過ぎた翌日の放課後。私は、日課であるフィリップとの鍛錬を早めに切り上げてもらい、リナリーと共に初めて会った日のあのカフェに来ている。
勿論、作戦会議の為に。
「さて、まずは私からでいい?兄様との話。」
「うん、お願い。」
そう言うリナリーの前にはノートが広げられている。それはリナリーが昨夜急遽作ったという考察ノート。これを元にこれからの方針を決めようと言う算段である。
リナリーはペンを取り出して私の話を待っていて、私はそれを横目に一呼吸置いた後、昨日の話を始めた。
「変わった事は特になし。フィリップの様子も聞いてみたけど、変な事を言った風でもなかったから、とりあえずフィリップルートである兄様を紹介されるイベント用にそっちは話をしておいた。」
「え、ルーシーさすがじゃん。セオドア紹介イベントにいきそうな雰囲気全くなかったからどうしようかと思ってたんだよね、ありがとう。」
「どういたしまして。リナリーの方は?」
「こっちも特に問題なし。ストーリー通りハリーはディリアスと同じグループになったって。」
話しながら、リナリーはノートに何かを書いていく。お互い調査が不発に終わって安心したような、不満のような、複雑な気持ちになる。
そしてふと何かを思い付いたように、あ、と声を上げてリナリーがペンをテーブルに叩き付ける。
驚きつつリナリーを見れば、不満爆発のような顔をしながらこちらへ向き直った。
「言い忘れるとこだったんだけど、昨日ハリーから凄い嫌な噂聞いた。」
「嫌な噂?」
「あの中庭で話した時の事。一部じゃあれは私とディリアスが浮気してるとこに嫉妬に駆られたルーシーが一言物申しに来たって話になってるみたい。信じらんなくない?」
「あー…それは、また…。」
なんとも好意的な解釈をしてくれたものだ。
あの時声が聞こえる範囲には誰もいなかったし、遠目から見たらそう見えたのだろうか。一方的にキレてたのは間違いなくディリアスだけだというのに。
私とディリアスが不仲だなんて周知の事実ではあるものの、それはディリアスが私を疎んでの事だと言われる事も少なくないせいで、そんな噂になったんだろう。向こうが疎んでいるのは事実だが、それはちゃんとお互い疎んでいると理解してほしいものだが…その話の発信源はディリアス本人のはずだから、どうにもならないというのが本音。
「ハリーに言われたの?」
「そう!だから私はあの暇してるクズに馴れ馴れしくされただけで、ルーシーは私に会う為にそこにいたって事実を告げといた。」
「……ちなみに聞くけど、それ何処で?」
「食堂。」
「…それでか。」
そういえば今朝からリナリーを見る周りの目が痛かった。さすがにその言葉ままに言った訳ではないだろうが、それでも取りようによっては不敬罪になりかねない発言はしたということ。
庇ってくれて嬉しい反面、王太子と言うだけで擦り寄る輩ばかりなのが貴族社会。そんな発言をしたリナリーを見逃してはくれないだろう。
「どしたの?」
「…リナリー、明日から気を付けた方がいいよ。ストーリー通りになるかもしれないから。」
「え。どういう意味?」
「そんな発言したんなら、今日でほぼ全校に知れ渡ったと思って間違いないと思うし、ディリアスシンパが集まるAクラスである以上は、何があってもおかしくはないと思うよ。」
「……あ。ほんとだ。」
「はあ……リナリー…。」
「あはは…ま、まあ、ストーリー通りになるならそれはそれで問題ないじゃん!」
「それはそうなんだけど…原因の違いがまたストーリーに問題が起きかねない。」
「うーん、ディリアスへの悪口からイジメに発展したとして…か…。」
言われて私も想像してみる。
ディリアスシンパの嫌がらせやらが続き、そのまま糾弾イベントになったとして…黒幕は………………いや、私になるな。これは。
不敬を働いたとかって理由でリナリーをイジめるように周りに吹聴したとか、そもそもリナリーの不敬な発言自体私の捏造だとか言われかねないかもしれない…。
「…ストーリーとあんまり変わらないかも?」
「…うん、私も今考えてそうかもしれないと思えてきた。」
「なら良いんじゃない?」
「まあゲームの内容思い返せば笑えるような幼稚な嫌がらせ程度だったし、それさえリナリーが耐えられるんなら…。」
「えーと、なんだっけ?すれ違いざまに嫌味言われる、偶に呼び出されて文句言われる、クラスでハブられる……他なんかあったっけ?」
「あー、ほらあれ、エリオットで妨害。」
「ああ、イベント毎に色々あったっけ。でもどれも怪我するようなのなかったよね?」
「んー…怪我させたら反逆罪になるからねえ…。曲がりなりにも聖属性の使い手な訳で。」
国にとって聖属性の使い手は重要なポジションであり、その者の身分に関わらず故意に怪我をさせた者は反逆罪となるって法がアリエスハイムにはある。
滅多に現れない聖属性の使い手は一生をこの国に縛り付けられる代わりに、その身分と安全が保証されるという訳だ。
つまり、どんな理由があるにせよ、リナリーを傷付けたら国家反逆罪と取られ、自身が処刑されてしまう。さすがにそれほどのリスクを背負ってリナリーに害をなそうとする輩は現れないと思う。
「じゃあいいや、授業は元々ぼっちで受けるし、それ以外はルーシーがいるし。ルーシーといてそんな事してくる奴、そうそういないと思うよ。」
「……そう考えたら確かに。でも心配なのは寮とイベント関係かなー。寮では一人になるし、イベント系は基本私はリナリーとは敵側にいるからね。」
「あー、確かに。んー、でも寮はまあ部屋に篭ればいいし、イベントは大体攻略キャラが皆いるからなんとかなるっしょ。」
「あ、そうか、基本全員そっちだもんね。」
ゲーム中、全ルート共通の大きなイベントは三つ。
一つ目がもうすぐ開催されるエリオット祭。二つ目は夏の終わりの王家のダンスパーティー。三つ目が地球で言うクリスマスに開催される聖夜祭。
攻略キャラの動きも基本は同じで、エリオットでは闇魔法で妨害されるリナリーを助け、ダンスパーティーではエスコートをし、聖夜祭では共に星を眺める。全て傍には攻略キャラが常駐している為、私の出番は無さそうだ。
「なら問題なさそうだね?」
「うん!むしろ原作通りに軌道修正出来てラッキーくらいかな。」
「…うーん…。」




