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Act.17 誓約をしましょ

今回は少し長いです。

 



「ねえ、ルシル。魔法は、大丈夫よね?」

「え?そりゃ、曲がりなりにも公爵令嬢だもの。」

「ならいいや。ザッカリー、私達の秘密は言わないけど、私達はある目的の為に一緒にいるし、そうでなくとも、この世界でお互いを一番理解し合えるのは私とルシルなの。」

「理解し合える、ねえ。」

「だから、今日見た事や、話した事、聞いた事も全て、誰にも言わないと誓って。誓約をして。」

「…何故、俺がそれを了承しなきゃならない?」

「ザック様は了承するしかない筈です。私達は貴方の秘密を知っています。何処の誰で、誰に仕えてて、昨日の夜、何処にいたかも。」

「私達は貴方が誓約をしてくれるというなら、それを全て言わないと誓う。」

「…それが、どういう意味かわかって言ってんのか?」



 ザック様の全てを秘密にするという事は、つまり、アリエスハイム王国に対する反逆罪。王太子を暗殺しようというのだ、当たり前の事。

 でも私達は知っている。

 今日、こうしてザック様と会った以上、ザック様がディリアスを殺す時は来ない。


 勿論、現状本来のストーリーからは逸脱していて、何が起こるかわからないというのもあるが、ディリアスに関しては王太子である上、国王や王妃からの過度な寵愛も受けている。

 ましてや、今ザック様は昨日の夜という私の発言に反応しなかった、つまり、昨日ちゃんとストーリー通り王城に侵入し、暗殺を失敗している。

 ならば、護衛をこれでもかと増やしているに違いない。なら、そこまでの心配は必要ないだろう。


 だからこその、この取引。

 リナリーも同じ思いのようで、探るようなザック様に対し、あっけらかんと言い放った。



「わかってるから言ってるんでしょ。言ったでしょう、貴方が何処で何をしようが知ったこっちゃないって。」

「………お前達は、それを何に誓う?」

「…私は、リナリーに誓う。」

「なら、私はルシルに誓う。」

「…いいだろう。なら俺は、俺に誓ってやる。」



 それぞれ、手のひらを胸に当て、誓いのポーズを取った。

 それに合わせ、私は魔力を解放する。

 誓いを違えれば、その胸に黒い痣、通称咎人の刻印が現れるように、誓約の魔法を展開する。


 腐っても公爵令嬢、学園に入るまで、家庭教師を付けられて学園で学ぶべき事は殆どもう履修済み。

 それに誓約は闇魔法だから、私の得意分野でもある。



「…これが魔力ってもんか。誓いを違えれば咎人の刻印が現れると聞くが…そういう魔法か?」

「はい、その刻印は共に誓った者と連動してるので、もしも誓いを違えたら、即座に私達にバレます。」

「バレるとどうなる?心臓でも止められるのか?この誓約とやらは。」

「…ザック様、普通はそういう事はわからないなら誓約をする前に聞くべきです。」

「誓いを破らなければいいだけだろう?」

「そうですけど…私が今したのは、そこまでの重い枷はないです。咎人の刻印が現れたら、その人が何処にいてもわかるというだけのもの。」

「…何処にいてもわかる…へえ、面白いもんだな…。」



 じっとこちらを見ながらそう言い、にたりと笑うザック様に、リナリーが胡乱気な視線をやる。



「ルシルに変な事しようとしないでよ。」

「あん?これでも気使ってんだぜ?昨日も認識阻害の香を焚いて人払いをしたし、今この瞬間も同じもん使ってんだ。」

「…そう、だったんですか?昨日人が居なかったのは、時間とかではなく…。」

「奥まった場所とはいえ、あんな広い中庭に誰もいない訳はねえだろ?これでも、俺だってあまり人目に触れる事はしたくねえからな。」

「……それって、裏を返せば誰もいない、誰も来ないとこで何でも出来るって事じゃないの?」



 私が素直に感心していると、表情を更に険しくしたリナリーが至極嫌そうに訊ねた。

 ザック様は片側だけ口角を上げて答える。



「何でもは無理だな。香とは言っても、効き難い人間もいる、お前のように。」

「…本当でしょうね?」

「そうだな…ルーシーが堕ちてくるまでは、今日のような事はしないでおいてやるよ。まあ、満更でも無さそうだ…時間の問題だろうな?」



 言いながら、ザック様は私の髪を一房掬い上げ、そこにキスを落とした。



 さっきから本当になんなんだこの男は!人の心臓を壊したいのか!!

 推しに髪にキスなんてされてときめかない女子がいるとでも思ってんのか!!



「そんな、事、ない、…です…。」

「ほう?そんな顔をしておいて、よくそんな言葉が吐けるな?」

「はいはーい、ちょっと甘ったるい空気作るの止めてもらえるー。」

「チッ…邪魔をしていいとは言ってないが?」

「ルシルに手を出していいとも言ってないけど?」



 バチバチと音がしそうな程火花を散らしてる二人を見て苦笑し、何とか熱くなった顔を冷ました。


 丁度その時、ゴーンという鐘の音が学園から響く。

 授業の終わりの合図だ。



「あ、時間も丁度いい感じだし、ルシル、戻ろう。さっさと。」

「はは…うん、サボった言い訳考えないとね。」

「今日はここまでだな、じゃあな、ルーシー。その跡が消えるまでにまた会いに来る。」



 言いながら、ザック様は踵を返し、さっさと歩いて行ってしまった。

 ……ん?跡?何の話?



「跡…?」

「…気付いてなかったの?」

「え、何が?」

「……首と鎖骨辺り。」

「え………あっ!!」



 言われて肌蹴たままだった場所から言われた所を手で押さえる。


 完全に肌蹴てた事も忘れてた訳だけど、前世の仕事の時はこれくらい胸元見せてるのは当たり前だったし、今世でも胸元を見せるドレスはいくらでも着ている。

 お陰でさほど気にならなかった。


 そしてそれを思い出したと同時に、ザック様にされた事を思い返す。


 多分、首元のあの感覚は…舐められて、吸われた。

 あの感覚は知ってる、前世でも、付けられた事もあった。

 だから、跡っていうのは、恐らく…キスマーク…。



 思った瞬間にカッと熱がぶり返し、羞恥で蹲ってしまった。



「キスマーク…付いてる?」

「ばっちり、五個ほど。」

「ああああああああぁぁぁ……やだもう恥ずかしい…。」

「とか言いながらにやけんの止めて。ザッカリー推しって皆そんななの?」

「だって!ザック様が!付けてくれた!所有印!!こんな嬉しいものある?!!」

「うわ、鼻息荒っ…引くわ…。」

「そんなん言うけどリナリーだってフィリップに同じ事されたらどうすんのよ。」

「フィル様は婚前の女子に対してそんな軽薄な事はしませんー。紳士なんですー。」

「もしもよ!想像してみなさい!」

「………あ、いい。」

「ほら見ろ!人の事言えた義理か!」



 推しを持つ全ての女子は結局推しになら何されても萌えるって事が理解出来ました。はい。


 顔の火照りを冷ましながら、きっちりと制服を直し、リボンを結ぶ。


 変な所が無いかリナリーにチェックしてもらったら、顔と性癖以外はオールオッケーを貰えたので、顔を扇ぎながら、私達は校舎へと歩を進める。


 そこでふと思い出したようにリナリーが声を上げた。



「あ、そう言えばさ。」

「うん?」

「さっきザッカリーが一瞬、泣きそうに見えた瞬間があったんだけど、どう思う?」

「へ?ザック様が?泣きそう?なんで?」

「いや、こっちが聞きたいんだけど…。」

「いつ?」

「ほら、私達がルシル挟んで言い合いしてた時。」



 言われて思い出す。

 そういえばリナリーは私の後ろにいるザック様を見て何か信じられないものでも見たような顔をしていた。あの時にそんな表情をしていたのだろうか。


 …なんで?



「え、ごめん全然わかんない。」

「うーん、見間違いかなあ…。」

「あの流れでそんな顔になる事ある?」

「…だよね…なんか自信なくなってきたな、一瞬過ぎたし、気のせいか。」



 気にはなるものの、ザック様が泣くなんて信じられないし、そんな会話はしていない。

 恐らくはリナリーの勘違いだったんだろうとアタリをつけて、その話を終わらせた。



「リナリーは今日もフィリップと鍛錬だっけ?」

「昨日の謝罪がある筈だからね!私の方も何か変わってるならそれも確かめたいし、行くよ。」

「うーん、他の攻略キャラ、調べた方がいいかな?」

「…それはそうかも。なら、私はハリー調べるわ。」

「じゃあ私は兄様の方ね……やだなー、話すの。」

「なんで?結局セオドアってシスコンなんだからいいんじゃないの?」

 「結局シスコンでも現状の対応が氷河期過ぎるんだって…。」



 言いながら、情報収集の為に話し掛けるシュミレーションをしてみる。



 ………………駄目だ、どう言おうが取り付く島もない…。


 がくりと肩を落とすと、リナリーがまあまあと言いながら慰めてくれる。



 「私だってハリーと話すのやだよ、無駄に好感度上げるだけだから。」

 「…まあ、お互い様だね…。」

 「そゆこと。じゃあ、今日はここで解散ね!」



 校舎の扉が見えた辺りで、リナリーは立ち止まり、ぐっと握り締めた手を突き出した。



 「色々大変そうだけど、お互い最推しの為に頑張りましょ、ルーシー!」

 「!…そうね、頑張ろう、リナリー。」



 私も拳を作り、軽く合わせる。


 今世で愛称を呼んでくれる女友達なんて、生まれてこの方二人目である。

 扉へ向かいながら、そう言えば愛称を呼んでくれる一人目の友人は何をしているのだろうかと考える。


 入学前日に来た手紙には、体調を崩したから会えるのは少し後になる、風邪を移しても困るから、お見舞いも大丈夫、また学園で会いましょうと書いてあった。

 まだ体調が悪いのかな、なんて思いながら、私達は連れ立って校舎への扉を開いた。



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