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Act.13 リナリーさんとの密談なう

 



「リナリー様。少しお加減が悪そうですわよ?医務室へ行きましょうか。」

「へ?ル、ルシル様?どうしました?私は全然元気」

「まあ!リナリー様無理はいけませんわ!さあ、医務室へ参りましょう!」



 翌朝、教室に入り、すぐにリナリーを見付けると、私は半ば強制的にリナリーを引きずり出した。

 わたわたとしながらも、リナリーはとりあえずついて来てはくれるらしい。


 まあ勿論リナリーは頗る元気そうだったし、医務室になんて行く訳もない。リナリーの手を掴んだまま、私はとりあえず人気の無い所という事で、裏庭へ連行した。



「もう!何!どうしたの!」

「一つ聞きたいんだけど、昨日フィリップとイベントは出来た?」

「へ?あ、ああ、うん、勿論出来たよ!もうほんとフィル様かっこよすぎ!ほら、あのイベントでフィル様が緊張のあまり躓いて押し倒されるのあるじゃん?!作中にはなかったんだけど、昨日勢い余ってそのまま事故チューしちゃったりなんかしちゃったりして…!!」

「…イベントが、変わったの?」

「大まかな流れは一緒だったよ?あ、でも細かい台詞とかはさすがに違ったかな?でも大した違いでもなかったし。」



 フィリップの初対面イベントは、本来ならリナリーが鍛錬場へ赴き、一人鍛錬していたフィリップに手伝ってくれと言う所から始まる。

 基礎の体力作りにプラスして、多少の稽古を見てもらい、休憩をしようとフィリップに近付いたリナリーだったが、フィリップがそれに慌ててすっ転ぶ。

 そしてリナリーはそれに巻き込まれて、結果押し倒される形となり、フィリップは大混乱の末に逃亡する…までが、彼の初対面イベントだ。


 勿論その流れに事故チューなんてものは組み込まれていない。

 というか、私が覚えている限り、事故チューはフィリップのルートには一度も登場しない。


 やはりこれは…まずい事になったのかもしれない。



「それより、どうしたのよ?完全にサボっちゃったじゃん、授業!」

「…会ったの。」

「会った?誰と?」

「…昨日。中庭で。…ザック様に。」

「ふーん、昨日中庭でね………え。は、え、ちょ…ええええええ?!」



 やっぱりそういう反応になるよね…!

 わかる、わかるよリナリー…!



「ちょ、ちょっとどういう事?!ザッカリーの初対面イベントは今日でしょ?!しかも中庭じゃなくて裏庭でしょ?!」

「そう、そのはずなのに…昨日ザック様があの後来たんだってば!」

「ちょっ…どういう事か詳しく!」

「昨日ね…。」



 私はリナリー達がいなくなってからの詳細を、出来る限り細かく話した。

 勿論、バッドエンドルートの事や、私の失態も含めて。


 話してる内に段々と曇ってきたリナリーの表情が、話終わるとそれはもう凡そ令嬢の顔つきではないものになっていた。



「……つまり、何故かバッドエンドルートに入ったものの、とりあえず回避には一旦成功したようで、だけどハッピーエンドでしか出なかった首筋ちゅーまで出ちゃって、余計展開がごちゃごちゃしてよくわからなくなってる、と…。」

「もう、どういう事なのかよくわかんないし、嬉しいんだけどこのままザック様の言いなりになったら十中八九バッドエンドになると思う…。」

「それは間違いないと思うよ…ザッカリーの性格上、その誘惑は確実に乗ったら終わるやつ。」



 ザック様は所謂快楽主義者のようなもので、自分が楽しければ、愉しめれば、あとはなんでもいい、という思考の元、生きている。

 まあそれはリナリーと出会って愛を知る事で段々変わってはいくんだけど。


 つまり、今のザック様は完全に変わる前、自分が面白いと思う事最優先、私の思いも安全も何も関係ない。


 そりゃあザック様推しからしたら俺のものにするとか言われたらきゅんきゅんしちゃうし?

 キスされたなんて思い出したらもう悶え過ぎてその辺ごろんごろん転げ回りたいくらいなんだけど!


 生身の当事者だからこそ、そんな悠長に萌えてられない。

 そりゃゲームやってた頃は萌えて萌えて萌えまくってたけどね?

 それはあくまで第三者だし、画面の向こうだから楽しめた訳であって、実際自分がそんな物騒なもんのターゲットになったなんて…。

 ましてや昨日のあの瞳。

 全身から一気に血の気が引いて、やばい、逃げろって本能が叫んでた。

 あれは、駄目だ。

 囚われたら、捕われたら最後、死ぬまで逃げられない。



「………これって、さ…?」

「何?」

「よくネット小説であった、シナリオが変わってるって事だと思うんだけど…。」

「…まあ…でしょうね……。」



 そう、私はその可能性に昨日気付いてしまったのだ。



「まず、私達、オープニングをやってない訳でしょ?」

「オープニングって……ああ、ルシルに怒られるあれね。」

「そう。まずその事で周りの目は変わるじゃん。その上、リナリーは寮に帰らなかった。」

「…そう、だね。」

「そして昨日、本来は教室でルシルに挨拶をして更に怒られ、そこから周りの貴族令嬢から苛められるはずだったリナリーは、そうならなかった。」

「…そこに、中庭でディリアスのイベント中に現れたフィル様とルシル…。」



 この時点で、SW本来のシナリオからはだいぶ変わってきてしまっている。

 いや、流れとしては変わってはない。リナリーが苛められるようになるのはもう少ししてからだし、リナリーに関してはちゃんとイベント自体は滞りなく進められたらしいし。


 ただ、こう、なんというか…。



「ザック様が出た事自体、正直バグみたいなものだよね。」

「本来はザッカリー以外の攻略キャラの全エンド回収後だもんね。あのルートに入るのは。」



 ザック様ルートは解放すれば問答無用でザック様ルート一択になってしまうラストのルート。

 オープニングは変わらないものの、初対面イベントは強制的にディリアスになるし、新しく増えた選択肢を選ばなかったらディリアスが暗殺されて即座にバッドエンドになる、完全ザック様オンリールート。

 知っているからこそその選択肢を選べるけれど、本来なら一周目のこの世界ではザック様ルートには入れない。


 だからこそ、バグみたいなものなのだ。



「でも、軌道修正は難しいと思うよ。」

「え、どうして?ザック様は置いておくとして、軌道修正しないとリナリーもフィリップルート攻略が難しくなるんじゃない?」

「いや、だって私苛められたくないし。」

「…あ、そうか。フィリップルートもそれがあるのか。」



 ディリアスルートにおいてはよく登場するルシルではあるが、フィリップの立場上、ディリアスともルシルとも兄様とも知り合いなので、フィリップルートでもルシルは登場回数が多い。

 そしてやはりリナリーはルシルに怒られ、周りのご令嬢方から苛められる。


 このイジメだが、攻略キャラ達はルシルが扇動していると思っている。勿論ルシルはそんな事はしていないが。

 ディリアスの婚約破棄イベントでは、お約束通り、婚約破棄を言い渡されたルシルにディリアスがそのことで糾弾する。

 そこでリナリーがルシルを庇い、それはルシルのせいではない、ルシルが私を叱ってくれたのは、私の為を思ってであって、決して私を陥れようとはしていなかったとディリアスに反論、その行為にディリアスもルシルも胸を打たれ円満に婚約解消、ハッピーエンド、となる。


 このイベントはフィリップルートではルシル糾弾イベントへと様変わりするが、流れはディリアスルートと変わらない。

 要するにこの通りにいくのなら、リナリーはイジメに遭わなければならない。



「でもそれ回避してどうやってフィリップルート完遂するつもりだったの?」

「そこなんだよねー、どうしよう?」

「えっ、まさかのノープラン?」

「イベントなぞればいっかって感じではあった。」

「それは無理でしょ。」

「うん、そんな気はしてた。反省はしてる。」

「このままだと、原作知識なんてあってないようなものになるよ…。」



 シナリオが多少改変されるくらいは覚悟していた。

 元より、本来はリナリーとしか恋に落ちないザック様を落とすと決めた時点で改変ばっちこい状態だったんだけど…あまりにも予想と違う事が起き過ぎて、私の処理能力も限界だ。


 とにかく、今日からどういう身の振り方をするのか、その方針を決めなければいけない。



「とりあえず、ザック様の次のイベントは校内再会がプチイベントであって、その後は春の大会だったよね?」

「うん、フィル様は次、謝罪があってからは春の大会までないかな。」

「ザック様に近付くべきかどうかが悩みの種…正直、しばらくは近付かない方がよくない?って思ってる…。」

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