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39《眼鏡の男》




 最近出回っている、高性能な魔道具に煌々と照らされた豪奢な部屋。そこに立つのは二人の男。


「……どうやら駄目だったようですねぇ」


 度数の高そうな眼鏡を掛けて、白衣を着た男は言う。


「あぁ……穢らわしい魔人の血が流れた娘なら、目の前で亜人共を追い立ててやれば、隠れ潜む穴蔵から飛び出て喰らい付くと思うておったが……どうやら儂の考えを読んでおる者がおるようだ。じゃが、オーギュストの娘があそこに居るであろう事はもはや確実よ、傭兵共などいくらでも集めればよい。」


「生き残った兵はなんと言っていたんです?」


「……巨大な竜人の魔道具が唸りを上げた途端、仲間達が引き千切られたとな。ぬしの言っておった通り体には鉄の礫が残っておったわ。これだ……それと竜の森へ偵察に出した者が一人生きて戻った。そやつが持ち帰った物がある。見てみぃ」


 礫だと手渡された物を摘み上げて観察する。若干、形が潰れているが、知識が無い男にも高度な技術で作られた弾丸だと分かる。

 そしてもう一つ。大きな木製のトレイに置かれた数個の金属片。その中心にある物体は円盤の様なアルミ製。中心には『LANDROVER』と書かれていた。


「……やっぱり……やっぱり……私以外にも……クハッ! ハハハッ!」


 眼鏡の男はその太った体を揺すりながら笑う。完璧に規格化された電池式の様な魔道具。そしてそれらを販売するのが二者に依る合弁企業なのだと聞いた時から怪しいと思っていた。


「……間違いなかろう。傭兵共を監視させておった者も天からの礫で殆ど死んでおる。瀕死で戻って来おった数名を除いてな。ぬしの考案したあれも、もうじき完成する…………そちらの完成も近いと思って良いのじゃろうな」


「ええ、後数ヶ月も頂ければ面白い物をお見せ出来るでしょう。ただしまだまだ素体が足りません。ええ、ええ、もっともっと実験を重ねないと……正確な臨床データは取れませんからね、ええ。……その生き残りも使って構いませんかね?」


「よい。好きなだけ使って構わぬ…………オーギュストの娘、セレスティア……今のうちに余生を楽しむがよいわ」




――――――――――――――――――




「真明さん! おかえりなさい!!」


 夏美は自宅の扉を開けた俺に飛びついてきた。俺があまりベタベタとした感情表現を喜ばないと知っている夏美としては珍しい。今日は寒い中、長時間の無理をさせてしまったのだ。今回は良しとしよう。


「あぁ、ただいま。」


 そう言いながら軽く頭を撫でてやる。何かを頑張った時に夏美が求めてくるのは決まって、頭を撫でろ、が定番だ。

 髪を撫でた時に、ふと僅かな違和感の様な何かを感じるが……


「? 真明さん? どうかしたんですか?」


「いや……何でもない。夏美、この三人に交代で風呂に入らせる。夕食の準備をしてくれるか。エリアス、悪いがインラウスと、この……」


 気付けば、ぶかぶかフードの少女の名は、まだ聞いていない。


「リ、リアマーラでふ!!」


「……この、リアマーラに入り方を教えてやってくれ。」


「承知しました」


「インラウス、男は後だ。嫌ならシャワーを借りてきても良いが……」


「い、いや、風呂なんて滅多に入れるもんじゃないし……いつでも良い」


「そうか、なら待っている間に話を聞こう、女の風呂は長い。適当に座ってくれ」


「あ、あぁ……」



 インラウスが言うには、オーギュスト王が亡くなってから、亜人に対する風当たりはどんどん厳しくなったという。賃金の未払いや雇用解除に始まり、食料の販売拒否までも起こり始め、場末の酒場で僅かな賃金を得ていたインラウスも容赦無くクビとなったらしい。

 兵士達は些細な事で難癖を付けては、抵抗する亜人を容赦なく捕え、戻って来た者は一人もいないと言う。

 迫害はそれだけに留まらず、亜人の多く住む貧民街の貧しい人間までも当たりは強くなり、近頃では亜人、人を問わずに人知れず姿を消す者までが出てきたそうだ。


 逃げる宛も無く、生きる術も失った貧民街の住人達は、ひしひしと迫り来る身の危険を感じても、自分達ではどうする事も出来ず、ただ寄り添って歯を食い縛って耐えていたのだそうだ。そんな時にフェリアル出身の行商人達から、亜人でも差別なく受け入れてくれる国が有ると聞き、半信半疑ながらも、どうせ死ぬのならと希望者を募り、子供や老人を庇い、時には彼らを背負いながらひたすらに西を目指したのだと言う。……後は俺達の知る通りだ。


「なぁ……あんたはこの国の王なんだろ?」


「いや、違う。俺は王ではない。成り行きで此処の指揮を執っているだけだ。それも暫定的な物だが。」


「それでも良いんだ。妹を……リアマーラをここで守ってやってくれないか……頼む」


「……守れと言われてもな」


 数カ月前に何処かで聞いたような…………突然守れと言われても、はい分かりました。とは到底言えない。

 キッチンに目をやると夏美と目が合い、軽く頷かれる。


「救って貰った上、俺なんかが王に頼める立場じゃないって事も分かってるんだ……! でもあんたなら出来るだろ!?」


「……確かに助けた以上は難民となった君等を手助けするのは吝かでは無い。だがお前の妹一人を特別待遇というのも筋が通らないだろう」


「それは……だが!」


「はいはーい、取り敢えずお風呂開いたみたいなんで、インラウスさんは先に入っちゃってくださいねー?」


「あ……ありがとうございます。奥方様」


 脱衣室に向かうインラウスを見送りながら真後ろに立つ夏美を振り返る。


「夏美、すまんな……助かった」


「妻として当然の努めですよーうふふ」


「またお前はそういう事を……夏美。少し話がある。今日……は無理だな。明日で構わないから、少し時間を空けておいてくれ。」


「え? ま、まさか! 遂にこの日が来ましたか! うふふふふ……」


「いや、そうではないが……大事な事だ」


「はぁ……明日でいいんですか?」


「明日で良い。」


 今日時間を取るのは難しいだろう、話は明日に持ち越しだ。




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