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26《陸の灯台》

 あれから数日が経過し、残っていた外周部防壁も全周が完成。カザードに乗り上空から見ると、やはり完全に歯車だった。


 高さは10mに達するのに対して壁厚は僅か50cm程しか無い、しかし一切揺らぐ事無く立っているのは流石はミスリル製と言う事なのだろう。


 南東の林道方面へ続く門を正門、西の竜の集落へ続く門は西門、北の鉱石の露出地帯へ続く門は北門。そのままだが直感的に覚えやすい方が良い。

 三箇所全ての門は同じ造りになっており、高さ5m横8m、引き戸型の一枚扉だ。軽く強固な門扉は滑らせるレールまでもミスリル製で、滅多な事では破られる心配は無いだろう。開閉機構には魔道具を組み込み、その起動部は錠を埋め込んだミスリル製の小箱で隠されている。鍵は偽造を考慮し、ICカード錠を用いた。

 門の真上には幅10m奥行き3mの四角い建物が載っており、門扉の両サイドの防壁は内側に向け分厚く、コの字を描くように壁面が伸び、建物を支えている。その内部には階段を内包し、地上と上部の室内を安全に行き来する為の階段室となっている。

 単純に警備室と名付けた十六畳程の室内には防災無線に水栓魔道具と食料を備蓄しているだけだが、将来的に守りの要に為るであろう事を考えると武器弾薬の保管も進めなければならないが……


 俺達の誰かが常駐する訳にもいかず、かと言って直属の傭兵となった元兵士達に近代火器を扱わせるのもまだ荷が重い。

 その線引きは非常に難しいが、出来るだけ過剰な介入は避けたいと言った手前、悩ましいが何か考えなければならない……が、今は置いておこう。今日は電波塔のテストに立ち会う予定だ。




 先日から何度か夕食時の議題になっていた、防壁周辺の電波の悪さ。


 俺達は数が少ない分、情報は命に直結する。この世界に通信用の魔法や魔道具などは存在しない。

 そこで防災無線の効率を上げる為、塔を建てようと言う話になったのだが、話の中で夏美の「携帯が使えれば良いのにねー」と言う言葉にヒントを得た。

 その後、晴彦にPHSの小型基地局機をこちらで使えるように改造し、通信システムを構築するのは可能か? と訊くと、機材が有れば難しくは無い、との事だった。

 携帯電話を検討しないのは、携帯の基地局機は大きい筈だと思い出しての判断だ。それに俺達四人以外では極少数にしか持たせるつもりは無い。それほど大きなエリアをカバーする必要は無いのだ。



 木村に、極力小さく、電力消費の少ないPHSの小型基地局とその他必要な物を調べて送ってくれるように頼むと、


「プールに本屋、次は電話会社か。三日で送る。」


 と、数分で返って来た。



 数日後、送られて来たのは、電柱の上に取り付けるタイプの小型基地局とシステムの中核を成す機材に予備電源用発電機等を数台ずつ、それとビニール袋に詰められた数十台のPHS本体だ。小型基地局は小さいが非常に重く、逆にその他の機材は俺の予想より遥かに大きいらしく、部材点数も多かった。


 自宅の西側に建てられた電波塔はソーラーパネルの面積を稼ぐ為、頭部分が大きく膨らんだ灯台の様な形で高さ15m程。立ち上がったカザードの二倍近い。


 空港の管制塔の様に全周に大きなガラスが嵌っているが、あれは自宅一階部分の大きな掃き出し窓のガラスを取り外して使った物だ。大きな一枚物のガラスは宅配ボックスに入らない。設計と制作を獅冬と晴彦に任せている俺は二人の設計プランに逆らえず……枚数が足りるまでの数日間は全員で凄まじく寒い食卓を囲む事となった。


 最上階の部屋は円に近い多角形、部屋の中心には天井から地表部まで塔の内部を貫く、太い柱が一本通っている。設置してあるのは防災無線と改良されたPHS通信システム機材。それと魔道具を組み合わせた非常用発電システムだ。

 もしここまで敵が迫った場合の避難場所としても使えるように一部の食料等も積まれているが、そんな事態になれば自宅地下の防災シェルターを利用するつもりで、電波塔はあくまでも二次避難場所としての位置付けだ。


 機材は部材状態で運び上げ、いつも通り木村が同封してくれた、手書きの、非常に解り難い手順書を読みながら晴彦と一緒に組み立てた。

 一緒にと言っても、晴彦は水を得た魚の様に手順書も殆ど見ずにすらすらと、俺はもはや手伝う価値が有るのかも怪しい速度だったが。

 例え体力が強化されていても、五階建てのマンションに相当する高さまで重い荷物持って螺旋階段を往復するのは相当に辛い、この作業は二度とゴメンだ。


 自宅を中心とする外周部防壁は直径にして凡そ3km、自宅に近い電波塔からも正門までは約1.5kmだ。

 小さな基地局の通信可能範囲は半径500m~600mと狭く一台では到底カバー出来ないが、今日はテストのみだ。既に正門警備室の外壁面に一台と、その中間地点にポールを立てて一台、計二台設置してある。現在、正門前でメガクルーザーに乗って待機している獅冬とセラス組が通話しながらこちらに向かい、途中一度も途切れなければ無事成功だ。


「もしもーし、聞こえるか? そろそろそっち行っても構わねぇかー?」


「あぁ、良好だ。いいぞ、セラスに通話状態を切るな、と伝えてくれ」


「あぁ大丈夫だろうよ、もう何度も絶対ボタンを押すなと言い聞かせてるしな。んじゃ運転するから代わるぞ」


「か、代わりました!せ、セレ、あ、いや、セラスです!」


「セラス……お前、無線なら何度か使った事が有るだろう。何故そんなに緊張するんだ。あぁ……そうか獅冬の隣だからか。すまん無粋な質問だった」


「ちょ!? えぅ? な、何を言っているんだ!? わ、私はこのピーエッチエスという物に慣れていないだけで有って……!」


「分かった分かった。悪かった。夏美にでも代わろう……」


 今の会話はハンズフリー状態で、室内に集まって居る全員にしっかり聞かれおり、皆笑いを押し堪えるのに必死だ。


 テストの結果は非常に良好。同時にチェックしていた防災無線も何の問題も無い。基地局の増設を行えば防壁内は問題無くカバー出来るだろう、晴彦の試算では後十一台程設置すれば良いそうだ。一度に受け取れる機材は少なく、木村から全て受け取るには早くとも四、五日は掛かるだろうが、随時設置をしていけば良い。


 その後、外周部防壁内部に取り残されている可能性のある魔物の掃討を行えば一段落出来る。

 頭の中では、俺と夏美、カザードで一組、傭兵達四人で三組の計四組で魔物の掃討を行う予定だ。居残り組とカシードに留守を頼めば家の守りも万全だろう。

 もし防壁内に傭兵達で対処出来ない魔物が居た場合は連絡を受けて俺達が行けば良い。その頃には無線もPHSも使えている筈だ。


 純粋な野生動物は危険性が無い限り残しておく。そもそも俺達が勝手に壁を建造、彼らの住む土地を分断したのだ。防壁内だからと言って無駄に殺す事は無いのだ。


 遠距離で通信する頻度がそれ程高いとは思わないが、備えるに越した事は無い。

 通信網の整備は着々と進む。





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