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27《竜のトイレは宝の山》



 通信手段の確保を無事に終えた俺は今日だけは防壁内の魔物掃討を他の皆に任せ、晴彦を連れてカザードと竜の集落に向かっている。

 俺は土産に獅冬の作っている大量の蒸留酒を背負い、晴彦も色々と荷物が多い。




「おぉ、早かったの。二人共久しいのぉ、よく来たよく来た。ハルヒコよ、旨い猪を獲ってあるんじゃ、食うかの?儂が焼いてやろうかの?」


 巨大洞窟の入り口でゴルナートと数頭の竜が迎えてくれる。晴彦はゴルナートから頻繁に無線で魔法技術について教えを受けているらしく仲が良い……というよりあれは、久しく電話でしか話していない孫に久しぶりに会った爺さんの反応、としか思えない。仲が良いのは喜ばしい事だが。


「……ゴルナート。食事は後だ、先に要件を済ませたい……酒も持ってきているが、終わったら渡そう」


「まったくお主はせっかちじゃの……まぁ寝かせた肉も美味じゃてな。儂らはたまにしか食いとぅならんが……話というのは、例の国を興すと言う話じゃな?」


「そうだ。自治区域は勿論、西部方面の守りも任せたい。それと正式に防衛協定という物を結びたいと思ってな。まぁこれら全て形式的な物だと思ってくれて構わん。そんな物を結ばなくとも協力はするつもりだ。竜族と同盟を組み、その知名度を諸国への抑止力に利用しようと考えているだけだ。」


「変わらんのぅ……お主は。清々しい程に小賢しい正直者じゃ。」


「……何とでも言え…………で、構わないか」


「勿論じゃ。既に儂らはお主らと共にある。若い竜達には人族に興味を持ちだした者も多い。後ろを見てみぃ」


 後ろを振り返ると若いドレイク種達がこちらの様子を伺いつつ、カザードと話している。あれは晴彦が無線の使い方を教えた者達だろう。


「儂はの、良い事じゃと思うておるんじゃ。今まで儂らは外の事に興味を持たずじゃった。お主らとの関わりはこの集落に良い変化をもたらすじゃろう。じゃが、他の人族は分からん……もしこの地が人族に攻め入られた時は……」


「全力で力を貸す。その為の防衛協定だ」


「なら、これでお互い合意じゃの」


「晴彦、頼む」


 前回一枚ずつ持っていたプレートをお互い晴彦に渡し、内容に今回の協定を追加してもらう。


「これで、完了じゃの。では……」


「悪いがもう一件ある。竜族の排泄物が見たい」


「……は? お主そんな物見てどうするつもりじゃ?」


「正確には排泄している場所が見たい。ゴルナート、確か以前言っていたな。竜族は綺麗好きで排泄物は全て所定の場所に穴を掘って行う……と。偶にでも鉱石以外の有機物を食べているなら恐らく有る筈だ。」


「あぁああああ! なるほど!! それで真明兄、今日検査用試薬一式持って来いって言ったんスね!!」


 ここで晴彦は察したらしい。既にティヴリスとフェリアルを三日間隔で往復しているザッタールに、プリントアウトした写真を同封したトリトスへの手紙を託し、フェリアル経由での硫黄鉱石の入手をトリトスに依頼してある。先日返って来た返事には北の火山地帯で入手出来る事が記されていた。



「なんじゃ? どういう事なんじゃ?」


「俺達が探しに来たのは、硝石だ」





 この世界の発達に過剰に干渉せず、如何にして少数精鋭でこちらの防衛力を高めるか。


 線引の難しい問題に俺達が出した結論は、『さほど遠くない未来に開発されそうな物』と『高度過ぎてヒントにすら成り得ない物』だ。

 我ながら曖昧な定義だとは思うが、この二点のどちらかに当てはまるなら今後使用して行く方針だ。


 硝石とは火薬の主原料と為る物質だ。取り寄せた書籍で調べた所、古くは排泄物と微生物の分解作用によって意図的に作られていたそうで、雨の多い地域には少ないそうだが、この周辺には比較的乾燥した洞窟も多い、恐らく有る。


 それ程遠くない未来に考案されそうなレベルの技術であり、こちらの戦力強化に直結する物として火薬は実に手頃だった。



「着いたぞ。ここいらが儂ら竜族が用を足す使っておる地域じゃが……」


「ゴルナート、ここはいつ頃から使っているんだ?」


「分からぬな。儂が生まれた時には既に使うておったはずじゃ」


 少なくとも五百年以上という事か。


「……ここから一番近い地下洞窟は?」


「あぁ、こっちじゃよ」


 案内された洞窟に潜ると、有るわ有るわ、白いガラスのように結晶化した硝石の結晶と思しき物体がびっしりと分厚く壁に天井、床までもを覆い尽くしている。


「うひゃー、すげぇー……、真明兄大当たりッスね」


「……当たりかどうかはまだ分からん。調べれるか?」


「問題無いっす、一式持ってきてるんで」


「ゴルナート。ここと同じような物を見かけた事は?」


「そんな物いくらでもある。ここいらに近い洞窟は数十あるがの、中は全てこの様な感じになっておる。儂らは糞をこの森が浄化してくれた物だと思うておったんじゃが……珍しい物なのかの?」


「あぁ、恐らくだが、とても有用だ。俺達が貰っても構わないか?」


「好きなだけ持って行って構わぬが……」


 今は全くの無価値とは言え、その価値を説明をせずに持ちだして使うのはフェアでは無い。


「真明兄、結果出たっす、硝酸カリウムの成分とほぼ完全に一致したッスよ」


「そうか。良い仕事だ晴彦、助かった。ゴルナート、竜族とは対等な関係保ちたいと思うからこそ話す。これは強力な武器に為る、以前見せた銃と言う武器の力の源だと思ってくれて良い。そうだな、一度も撃つ所は見せた事は無かったか……実際に見せよう。音がするが騒がずに見てくれ」


 洞窟の外に上がると入り口から少し離れ、腰のホルスターからシグSP2022を取り出し、20m程先の木の枝を正確に狙って撃つ。

 軽快な発砲音と共に枝は根本から弾け、回転しながら地面に落ちる。


「驚いたの……あの礫は儂の目でも追うのがやっとじゃった。すごい力じゃ、確かに人族なら一発じゃの。マサアキはこれを作るつもりなのか?」


「その通りだ。何処まで通用するか分からんが、数に対抗するには強力な武器を持つしか無い。だが防衛以外に使用する予定は無いし、製法を公表するなど以ての外だと思っている。もっとも、予想が当たっていれば、近い将来何処かの誰かが考案するかも知れんがな」


「ふむ……なら良いかの。儂を信じて話してくれたのじゃ、儂もお主を信じよう」


「そうか、礼を言う。今後定期的に届けて貰っても良いか?礼はする」


「酒で構わぬぞ。急ぎなら今日ワイバーン達に届けさせる。今後はドレイク達で良いじゃろう、あ奴らもお主等の所を見たがっておるでの。早速手配しておこう」




 後日、硝石供給の礼として、ソーラーパネルと共に竜族に贈られた、「浮遊するカビ菌を除菌、繁殖を抑える効果がある!」という、『プラズマブラスター』搭載の空気清浄機は今も洞窟内で出力最大にて稼働していると聞く。





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