19《二章:プロローグ》
空気は澄み、大気はひんやりと冷たいが、空からは穏やかな日差しが降り注いでいおり清々しい。
大きく豊かで深い森。その中に広がる土地の中、白い建築物の異彩が際立っている。特に上空から見ると四角く白い箱の様だ。その周囲を大小多くの建物が囲んでいるが中でも一際大きな二階建て木造建築が良く目立つ。ミスリニウムを骨材として丈夫な木材で建造されたそれは、普通の住居タイプの建物より多大な時間と手間が掛かっている。しかしそれ相応に真明達に取って大切な役目を担っている。
畑は以前と比較にならない程に広くなり、取り寄せた農学の専門書からの付け焼刃で開始した輪栽式農法も今のところは順調だ。そもそも肥料等の必要性を全く感じない程……素人目にも良く肥えた土壌を前にしてややこしい方式を採る必要があるのかと考えたが今は収穫量の増加に十分満足している。
以前、獅冬と二人で必死に掘り進めた農業用水路も水の使用量増加に伴い、溝幅を1.5mに取替え増幅している。水噴出地点と定めた場所に埋めていたミスリル塊も、現在はより高効率かつ高出力なミスリニウム塊に変更され、水路は常時豊富な水量を保っている。
そして、それら全ての土地を二重に囲む防壁は高く、陽光を受けほのかに青白い光を煌めかせている。
ここは、ティヴリス大森林西部、真明達の家が建つ土地だ。言ってみればこの周辺の土地は真明達が勝手に専有している様なものだが、この森林の先住である竜種からある程度森を開き開発、定住する許可をしっかり得ているし、そもそも開拓には彼ら自身の手を借りている。何よりこの土地は周辺各国が手を出せず不干渉を貫かれていた土地なのだ。今更ながらに利権を欲し、武力をちらつかせつつ交渉の場に望んでくる周辺の国家には、まともな交易以外に答えてやるつもりは無い。
俺達の自宅である堂々とした鉄筋コンクリート製の邸宅は今では、『賢竜の灰城』と言う呼称が浸透してしまっている。これまで人になんと呼ばれようがどうでも良いと笑い飛ばしてきたが、これは何となく笑えない。自らこの呼称を使うことは一生無いだろう。
この建物は俺達と共にこの世界に『引越し』て来た。既に二年以上が経つが、経年劣化どころかコンクリート建築特有の黒ずみすら一切見当たらない。近代建築を知る者としては少し不気味だとも思うが、大して気にはしていない。その特異性が在ればこそ、俺達は今まで生き延びてこれたのだから。
何故、これ程土地を拡大させる必要が有ったのか。それは単純に人が増えたからだ。
ここからは、今から約一年前、セレスティアが倉庫で所信表明を行ったあの朝から一月程後まで遡ることになる。
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それでは第二章開始です。




