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20《三度目の正直と為るのかは不明》

 セラスが倉庫で自分の考えを示したあの日から一ヶ月が経った。

 ようやくこの家での生活にも慣れた様で、毎朝起きるとシャワーを浴びてから身嗜みを整え、自分で豆を挽き、コーヒーを淹れて飲むのが日課らしい。当初は輪ゴム一つ見ても驚愕し騒いでいたが、今は落ち着いている。


「おはよう……早いな……」


「あぁ、おはよう。そう言うマサアキは遅いな。既にユウ……シトウとハルヒコは例の荷物の準備に向かったよ、私もこれから向かう」


「……無理に俺の真似をして獅冬と呼ば無くて良い。ユウジ、で良いと思うぞ。俺も獅冬もセラスの気持ちに気が付かないほど鈍くは無い」


「なッ! 何を言っているんだ!? わ、私は別にその様なつ、つもりではな、ないぞ! シ、シトウ殿はだな、賢者の一角であり……そ、そもそも! マサアキが鈍くない訳無いだろう!」


 と言い残して横を走り抜けていった。


 この一ヶ月でセラスは随分獅冬に懐いている。獅冬も不快に思うどころか表面には出さないものの嬉しがっている様で、様々な仕事を手伝わせている。その見た目はまさに『美女と野獣』だ。二人はただの師弟関係以上には進んではいない様だが、夏美と晴彦は野次馬根性丸出しで、何かとつけては二人きりにさせたりと応援している。五十を過ぎた大男の恥じらう顔はなかなか面白いが、二人共奥手なのか進展する様子は無く……先日には晴彦と夏美が暴走した。

 醸造蔵と化した大型倉庫の金属扉を手で溶接して二人を閉じ込めたのだ、扉をぶち破って出てきた獅冬に「これは吊り橋効果を……」と説明する晴彦は熊の様な腕で絞め落とされていた。そして恐らくこの計画の首謀者であろう夏美も安全な距離から顔色を青くしていたのが記憶に新しい。此処へ来た当初は俺に懐いていたがそれこそ吊り橋効果だったようだ。


 無論遊んでばかりいた訳ではない。セラスの演説の後、兵士達一人ひとりから話を聞き取り、適性を見た上で農地の開拓や兵士達の宿舎となる兵舎の建設に割り振っている。手の空いた者には道具を貸し出して、夏美や晴彦から簡単な裁縫や調理、魔道具の取り扱い等を覚えて貰い反対に、この世界の文字や、魔法を使える者にはこの世界従来の魔法を教えて貰っている。


 結論から言えば、この世界の魔法と俺達の使う魔法は、個人の魔力量と質を別にすれば大差無いものだった。

 だが魔道具は明らかに異なっていたと言える。この世界の魔道具は、竜種の主食でもあり微弱ながらも天然の魔力を持つレグナイト石を加工して使っているらしい。当然出力は低い。その割に製法は一部に秘匿されており非常に高価で使用しているのは大金を湯水の如く使える人物だけの様だ。

 詳しい製造法などは分からないが、恐らく媒体に文字や術式を刻む点は俺達と同じだろう。出力の差が激しい理由として考えられるのは、俺達の使用しているのが晴彦が精製している金属であるミスリル、場合に依っては高純度のミスリニウムまで使用しているという事。魔力を封入しているのが、依然として底の見えない魔力を持つ夏美だと言う事。そしてこの世界の文字とは違い俺達が使用しているのが、文字そのものに多くの意味を持つ表意文字である、日本語だと言う事。

 セラスに訊くとこの世界にミスリルは純度の低い物が僅かに存在する程度で王宮にもセラスの知る限りミスリル製の短剣が王家の宝として納められていたのみだったと聞く。よって製法を知られた所で複製は不可能だろうが、余計な面倒を避ける為に、此方も厳重に情報を秘匿しておく必要があるだろう。




 何よりも決して忘れてはならないのは、セラス達が追われている身の上だと言う事だ。

 確定ではないが、死体が見つからず、近衛兵共々姿を消しているのであれば生存を疑われ捜索されている可能性は高いだろう。状況から考えても率直に命を狙われていると言って良い。

 ここに受け入れると表明し、兵士達の心も受け取った俺達にはできる限り彼らを守る義務がある。

 拠点防衛という難題に俺達は頭を悩ませた結果、防壁の建造という無難な結果に落ち着いた。夏美の気配察知は半径1kmが限界で、それも対象の魔力保持量と大まかな質でしか判別出来ない。今や仮想敵となったサイラークの手勢が来ても、接近されてからでは打てる手段は少なく、皆を守れるとは限らない。

 防壁は設計制作を獅冬と晴彦に任せているが、既に建築物の並ぶ中心区を囲う防壁は完成している。高さは5m程しかないがその分、壁は分厚く、内部にハニカム構造を持たせたミスリル壁は頑強だろう。

 農地や林道も含めて、土地に大きく余裕を持って取り囲む為、更に高さの在る防壁の建造にも着手しており、二人は時折コルベットで出かけている。確認の為、一度作業に同行したが、10mに届かんばかりの巨大な防壁がズゾゾゾッと地面から生える光景はなんとも圧巻だった。

 獅冬と晴彦の二人は作るからには形にも拘ったらしく、初期に見せられた防壁の設計図に描かれていたのは単純な円では無く、東西の二箇所に大きな門を設置した巨大な歯車の様な形状だった。晴彦の魔力量は夏美の様に無制限では無いため一日で建造出来る量は限られているが、二人は北東を起点にして時計回りに弧を描いて建設を進めており、昨日の晩飯時には既に南西まで完成していると聞いた。壁が完成すれば少しは安心できるだろう。




 そして、俺は今日、ある人物と面会する予定になっている。





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