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遠雷のオーバーロード〜10歳の転生者は『雷魔法』と『神の蔵』で自由な自治都市を創る〜  作者: トール
第一章:大森林のサバイバルと雷霆の覚醒

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第039話:不可侵の領域と王の収穫

 


 街の地下を静かに駆け巡る上下水道の脈動。白亜の温浴施設から立ち昇る、大森林の薬草の香りを孕んだ湿り気のある湯気。俺が構築した巨大な搾取と癒やしのシステムは、今や城塞都市の隅々にまで根を張り、巨大な一つの生き物として、自律的な呼吸を始めていた。


 スラムから引き上げられた「先行市民」たちは、俺が敷いた兵站線でレッサーボアを機械的に狩り、窯で木炭を焼き、蒸留所の巨大な銅製タンクで魔酒を抽出する。日々の帝国を支える汎用物資の生産は、完全に属人化の鎖から解き放たれ、一つの巨大な歯車として完璧な律動を刻んでいた。


 だが、隠れ家の最上階。重厚なビロードのカーテンを揺らす夜風を背に受けながら、俺は執務机の上で『マジックバッグ Lv.2』の深淵を走査し、微かな舌打ちを漏らした。脳内の管理モニターには、無視できない「欠品」の警告が点滅している。


 汎用品の在庫は、氷の魔石が敷き詰められた蔵から溢れんばかりだ。しかし、権力者の首根っこを掴むための「極上品」――王都の貴族が金貨の山を積んででも欲しがる『銀の獣』の流動的な毛皮や、致命傷すら即座に繋ぎ止める高純度ポーションの触媒、あるいは俺自身の『蒼黒の鱗羽鎧スケイルメイル』を拡張するための『ギア・クロウ』の鉄羽や『アクア・サーペント』の青鱗。


 これら最上位の素材ばかりは、モヒカン男たちには到底任せられない。


 彼らはシステムの中で牙槍を振るい、ボアを相手に無双するまでには成長した。だが、空を黒雲のように覆う鉄羽の爆撃や、水底から音もなく忍び寄り、全身の骨を粉砕する大蛇の殺気を前にすれば、彼らは一瞬で理性を失い、単なる赤い肉塊へとすり潰されるだろう。


「結局のところ、ピラミッドの頂点に供える果実だけは、自らの手で摘み取るしかないか」


 前世。現場を離れた経営陣が描く、美辞麗句だけの事業計画がいかに容易く頓挫するかを、俺は嫌というほど見てきた。すべてを自動化することが経営の理想だ。だが、この暴力が理を支配する異世界において、絶対者として君臨するためには、誰にも手出しできない「王の力」を振るい、世界の頂にある果実をもぎ取り続ける必要がある。


 俺は鎧の冷たい感触を確かめ、右手に遠雷を宿す黒い金属棒を握りしめた。


 翌朝、大森林の入り口。

 俺が雷魔法の熱波で測量し、切り拓いた広大な兵站線では、今日も手下たちがモジュール式括り罠に掛かったボアの喉笛を、機械的な正確さで突いていた。


「ドシュッ」という鈍い音と共に鮮血が雨のように降り注ぎ、立ち昇る血の鉄錆の匂いが鼻腔を突く。命の熱を吸い込んで歓喜の声を上げる彼らの姿は、完全に統率された屠殺ラインそのものだ。


「トール様! 本日は視察でございますか!?」


 顔に返り血を浴びたモヒカン男が、誇らしげに牙槍を掲げる。


「作業を続けろ。俺は『禁猟区』へ向かう」


 俺の言葉に、彼らの顔からサッと血の気が引き、周囲の熱狂が物理的に凍りついた。そこは俺が上位魔物たちを意図的に囲い込み、有事の際の「天然の要塞」として温存している不可侵の魔域。立ち入れば生きては帰れぬ、文字通りの死地だ。


 俺は言葉を失う彼らを残し、兵站線を外れ、青や紫の燐光を放つ巨大な天蓋の下へと足を踏み入れた。足元の腐葉土からは、無数の命が朽ちていく甘ったるく濃厚な死の匂いが立ち昇る。


『気配察知 Lv.1』を脳髄に直結させる。かつては恐怖の連続でしかなかった深緑の迷宮も、今の俺にはすべての命の脈動が、克明な光の点として認識できていた。


「……見つけた。三時の方向、二キロ先。五つの鋭い殺気」


 木々を蹴り、質量を持たない風となって十歳の肉体が跳躍する。腐葉土を掻き分けた先に現れたのは、流麗な銀色の毛皮に身を包んだ、血のように赤い双眸を持つ『銀の獣』の群れだった。かつて死に物狂いで雷を撃ち込んだあの魔物が、統率された群れを成して俺を睨み据えている。


 だが、今の俺にとって、それは強敵ではなく、単なる「歩く資産」に過ぎない。


「……『雷霆のライトニング・ウェブ』、対個体収束」


 黒い棒の先端から放たれた青白い閃光が、空中で五つの蛇のように枝分かれし、逃げ場のない速度で銀の獣たちの眉間を正確に撃ち抜いた。


 ――バギィィィッ!


 鼓膜を打つ轟音。一切の無駄がない。最高級の毛皮に焦げ目を一つつけることなく、五頭の獣は同時に脳髄を焼かれ、泥の上に崩れ落ちた。直ちに『解体・加工 Lv.2』を起動する。銀色の牙ナイフが視界の光のガイドラインを滑り、ものの数分で流麗な毛皮と極上の赤身肉が『マジックバッグ』の絶対零度の深淵へと飲み込まれていく。


 俺は立ち止まらず、さらに森の深部へと侵攻する。


 やがて視界が開け、ダイヤモンドを撒き散らしたように煌めく広大な青い水面が姿を現した。かつて水底で泥臭い死闘を演じた場所だ。俺は水際に立ち、インベントリから引き出したボアの臓物を水面へと投げ込んだ。赤い血が清冽な水にどす黒く溶け出していく。


 数秒の静寂。やがて、水面が不自然に隆起し、巨大な青い鱗を持つアクア・サーペントが三体、猛然と浮上してきた。


「ギシャァァァァッ!」


 鼓膜を裂くような威嚇音。巨大なあぎとが俺を丸呑みにしようと迫る。


「……遅い」


 俺は水面を蹴って宙へ舞い上がった。眼下で交錯する三体の大蛇へ向け、金属棒を真っ直ぐに突き下ろす。かつてのような自傷覚悟の放電など、今の魔力制御の前には不要だ。


「『ショック』、最大出力」


 ――バギィィィィィィィィッッ!!!


 数十万ボルトの白夜のような閃光が水面を叩き、強烈な電磁波とプラズマの熱波が水を一瞬で沸騰させる。雷という大自然の暴力が、三体の覇者を一網打尽に焼き焦がした。


「ジュウウウ」という水蒸気の音と共に、狂乱は再び静寂へと塗り替えられる。浮かび上がった黒焦げの巨躯から、魔法干渉を弾く極上の青い鱗と、透き通る白身肉を淡々と刈り取っていく。


 その時だった。


『銀の獣』の群れ、それから三体の『アクア・サーペント』。上位魔物たちの命の奔流が、俺の肉体の深奥へと一気に流れ込み、魔力回路を激しく打った。


 ――ドクン、という巨大な鼓動。


 視界の端で、ステータス画面が強烈な光を放つ。


『レベル到達:10』


 二桁の大台。その境界線を越えた瞬間、全身の細胞が再構築されるような熱い痺れが駆け抜けた。知力、敏捷、そして魔力制御。すべてのスペックが一段上の次元へと押し上げられ、周囲の空気の質さえもが変わって見える。十歳の小さな肉体には不釣り合いなほどの、圧倒的な存在感プレッシャーが森の静寂を支配した。


【個人ステータス:レベル10】

 HP:320/320

 MP:650/650

 STR(筋力):46

 VIT(耐久):49

 AGI(敏捷):58

 INT(知力):75

【スキル】

 ・雷魔法 Lv.4(進化:天候操作への干渉開始)

 ・マジックバッグ Lv.2

 ・解体・加工 Lv.2

 ・気配察知 Lv.2

 ・【NEW】管理者権限:支配領域(アドミニストレーター:ドメイン)


「……管理者権限、か」


 新しく刻まれたスキルの説明を脳内で走査する。『支配領域』。それは俺が魔力網ネットワークを構築した場所において、範囲内のすべての電子――いや、魔力の流れを克明に把握し、わずかな干渉で「命令」を下すことができる権限。インフラを掌握し、都市そのものを肉体とした今の俺にとって、これ以上の「王の力」はない。


 手に残る確かな命の重みと、マジックバッグが再び底なしの富で満たされていく充足感。そして、レベル10へと至った己の進化。

 俺は鎧に付着した血を洗い流し、焦げたオゾンの匂いが漂う森の空気を深く、胸いっぱいに吸い込んだ。


 帝国の内政は、手下たちという歯車によって完璧に回っている。そして、既存の権力者たちを跪かせるための「王の切り札」と、それを振るうための「絶対の力」は、今、俺の手の中で完成された。


「さあ、帰ろう。俺の街へ」


 自動化の徹底と、自らの手による絶対的暴力。二つの両輪が揃い、俺の自治都市はいよいよ誰にも手出しできない不可侵の領域へと昇華する。

 不敵な笑みを深く刻み込み、レベル10の絶対者は夕陽が差し込む緑の迷宮を後にし、自らが君臨する巨大な盤面へと帰還していった。

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