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遠雷のオーバーロード〜10歳の転生者は『雷魔法』と『神の蔵』で自由な自治都市を創る〜  作者: トール
第一章:大森林のサバイバルと雷霆の覚醒

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第018話:雷鳴の介入と闇夜の追跡

 


 丘の上から見下ろす夜の平野は、醜悪な欲望と絶望が煮え滾る「るつぼ」と化していた。


 燃え盛る馬車の炎が、闇の帳を赤々と焼き、地面に長く不気味な影を投げかけている。十数人の盗賊たちは、獲物を追い詰める野犬のように下劣な哄笑を響かせ、防衛線を張る傭兵たちを蹂躙していた。

 夜風に乗って届くのは、耳を劈く鋭い金属音。そして、死を確信した商人たちが神に縋る、あの魂を削るような悲痛な絶叫。鼻腔を突くのは、燃える木材の煙と、隠しようのない鉄錆の匂い――血の香りだ。


「さて……収穫の時間だ」


 俺は低く、自分を鼓舞するように呟いた。右手に握る黒い金属棒を、獲物へと向けて静かに突き出す。

 狙うは、護衛の喉元へ最も深く食い込んでいる盗賊の前衛三人。

 レベル2へと昇華した『雷魔法』は、もはや暴発する暴力ではない。俺の冷徹な論理と、研ぎ澄まされた魔力制御に完全に服従する、精密な狙撃兵器だ。


 相手は魔物ではない。脆く、頼りない、ただの人間。

 全魔力を叩き込めば、彼らの肉体は瞬時に炭化し、塵となって消えるだろう。だが、俺の目的は殺戮そのものではない。必要なのは、圧倒的な「恐怖」による支配と、速やかな制圧だ。


 俺は意識を極限まで集中させ、出力を致死量の一歩手前――神経系統を完全に焼き切るレベルへと絞り込んだ。


「……穿て、『ライトニング・ボルト』」


 明確な殺意のトリガーが引かれた。黒い棒の先端に凝縮されていた青白いプラズマが、大気を引き裂き、音を置き去りにして弾け飛ぶ。


 ――バギィィィィィィッ!!!


 一瞬、平野が白夜のように白く塗り潰された。

 放たれた三筋の雷霆は、一切の誤差なく盗賊たちの胸板と足元に直撃した。


「ガァァァッ!?」

「ヒギェッ……!」


 悲鳴を上げる暇さえ与えない。直撃を受けた三人は、激しい痙攣と共に白目を剥き、糸の切れた木偶人形のように泥の中へ崩れ落ちた。黒焦げになった革鎧から、鼻を突くような鼻持ちならない異臭が立ち昇る。


「な、なんだぁ!?」「魔法だ! 魔法使いがいるぞ!!」


 略奪の狂気に酔っていた盗賊たちの顔から、血の気が一気に失せた。突然の神罰。仲間の瞬殺。

 彼らの動きが、物理的に凍りついたその「空白の瞬間」を、俺が見逃すはずがない。


 俺は丘の稜線を蹴り、重力すら無視した加速で戦場へと一気に駆け下りた。


 敏捷(AGI)40。レベル8。

 十歳の小さな肉体は、夜の闇に同化する『蒼黒の鱗羽鎧スケイルメイル』を纏い、一閃の影となって盗賊たちの懐へ滑り込んだ。


「ひぃっ!? 子供……!?」


 目の前にいた大柄な男が驚愕に目を見開く。錆びた大剣が、死に物狂いの速度で振り下ろされた。

 だが――遅い。あまりにも、欠伸が出るほどに遅すぎる。

 岩を砕く質量で突進してきたレッサーボアの殺気に比べれば、この男の剣撃は、水飴の中を沈んでいく羽毛のようだった。


 俺は最小限の動作で剣を躱し、無防備な腹部へ黒い金属棒の石突を叩き込んだ。同時に、微弱な『ショック』を神経へ直接流し込む。


「ゴハァッ……!!」


 内臓を揺らす衝撃と感電。男は泡を吹いて、そのまま意識を断絶させた。


「野郎ォ! 殺せッ!」「囲め、囲めええっ!」


 恐怖を怒りに変換しようとする醜い叫び。四方からの包囲。

 だが、俺の脳内には『気配察知 Lv.1』のレーダーが、周囲の筋肉の収縮すら捉える完璧なマップを展開していた。背後から迫る短剣。死角を狙う槍。すべてが「事前に」俺の意識へと書き込まれていく。


 左からの斧を銀の牙ナイフで受け流し、相手の手首を鋭く裂く。右の剣士の懐へ潜り込み、その膝関節を容赦なく蹴り砕く。

 骨の折れる鈍い音と、誇りのかけらもない悲鳴。

 鉄羽と青鱗で編み上げた俺の鎧には、彼らの鈍らな刃は傷一つ、汚れ一つ残すことさえできなかった。


「ひ、ひぃぃぃっ! バケモノだッ!」「逃げろ! 殺されるッ!」


 五人、六人と、仲間がゴミのように処理されていく様を見て、ついに盗賊たちの精神がへし折れた。彼らの瞳に映るのは、十歳の子供ではない。理不尽な暴力を具現化した、理解不能の災厄だ。


 残った数人の盗賊が、武器を捨てて夜の闇へと逃走を始める。

 俺は黒い棒を構えたが、あえて魔法の追撃は放たなかった。


(……行け。せいぜい最速で走れ。お前たちの巣まで、俺を案内してもらうぞ)


 恐怖に駆られた者は、必ず「安全」と信じ込む場所――「アジト」へと逃げ帰る。そこには略奪された財宝と、何よりこの世界の「生きた情報」が眠っている。野望の種銭として、これほど適した資金源はない。


 俺はわざと三人の盗賊を逃がし、ゆっくりと振り返った。

 戦場は静寂を取り戻していた。麻痺して痙攣する盗賊たちと、武器を構えたまま石像のように固まった護衛たち。そして、腰を抜かして俺を見上げる商人の姿。


「あ、あ、あなたは……」


 初老の商人の瞳は、困惑と畏怖で激しく揺れている。

 俺は黒い棒を肩に担ぎ、かつての部下に指示を飛ばした時のような、冷徹で落ち着いた聲音で口を開いた。


「怪我はないようだな、商人殿」


「は、はい……っ! 誠にありがとうございます! あなた様がいらっしゃらなければ、我々は……!」


 商人は泥に額を擦りつけんばかりに拝み倒した。

「感謝は受け取ろう。だが、俺は慈善事業で動いているわけではない。取引といこう」


 俺は足元の盗賊を軽く蹴り飛ばし、街での「身元保証」と「便宜」を要求した。商人は、十歳の子供が持ちかけてきたとは思えないあまりに合理的な損得勘定に戦慄しながらも、深く頭を下げた。


「商談成立だ。俺は少し『野暮用』がある。あんたたちは先に行け。街の門で合流しよう」


 俺は驚く彼らを置き去りにし、再び闇へと消えた。

 時間をかけすぎれば、逃がした獲物の気配が消えてしまう。

『気配察知 Lv.1』を脳髄に全開。

 逃げる三人の盗賊が発する、破裂しそうな心音と荒い足音が、闇の中から鮮明な「光の軌跡」となって俺のレーダーに浮かび上がる。


 数キロの追跡。

 逃げる盗賊たちが、丘陵地帯の隠された岩穴へ辿り着いた。蔦に覆われた巨大な洞窟。奥から漏れる松明の灯りと、密集する「人間」の不快な気配。


「ご案内ご苦労」


 闇の中で、声に出さずに笑う。

 戦国時代の堺を超える自治都市を築く。その果てしない野望の「初期投資」が、今、目の前にある。


「さあ、森の覇者たちの次は……人間の強欲を喰らわせてもらおうか」


 蒼黒の鎧を纏った狩人は、静かに青白い火花を散らしながら、盗賊の巣窟へと深く、深く足を踏み入れた。


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