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遠雷のオーバーロード〜10歳の転生者は『雷魔法』と『神の蔵』で自由な自治都市を創る〜  作者: トール
第一章:大森林のサバイバルと雷霆の覚醒

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第019話:強奪の雷鳴と野望の礎

 


 岩肌を這う不自然な蔦の奥、松明の灯火が弱々しく、だが確かに闇を穿っていた。

 俺は新たなる異能『気配察知 Lv.1』の触手を、洞窟の最深部へと向けて静かに浸透させる。


 視界を閉じれば、脳内に描かれるのは無機質で冷徹な「命の地図」だ。

「……入り口に見張りが二人。奥の広場に十人。その深淵に……冷たい金属の気配が多数」

 三十代のサラリーマンとして、幾多のプロジェクトを完遂させてきた論理的思考が、瞬時に制圧の最短ルートを弾き出す。


 月光を完全に吸い込む『蒼黒の鱗羽鎧スケイルメイル』を纏い、俺は音もなく洞窟の胎内へと滑り込んだ。


 入り口で欠伸を噛み殺していた二人の見張り。彼らにとって、AGI(敏捷)40を誇る十歳の肉体は、物理法則を無視した死神の鎌にも等しい。

 背後から忍び寄り、黒い金属棒の石突を首筋へ――。


「……『ショック』」


 チリッ、という微かな放電音。

 悲鳴すら肺の中に閉じ込めたまま、二人は糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、湿った土を静かに叩いた。


 奥の広場からは、逃げ帰った盗賊たちの、震えの止まらない声が反響してくる。

「ほ、本当なんだお頭! 十歳くらいのガキが、雷を……!」

「ふざけるなッ! 魔法使いのガキ一人のために、積荷を捨てて逃げただと!?」

 中央で怒号を浴びせているのは、傷だらけの重厚な鉄鎧に身を包んだ、この盗賊団の頭目。


「……ふざけているつもりはないが?」


 俺は通路の影から、揺らめく火影が支配する広場へと静かに足を踏み出した。

 突如として現れた少年の姿に、十人の盗賊たちが一斉に呼吸を忘れたかのように静まり返る。


「てめえが……魔法使いのガキか。蜂の巣にしてやる! 殺せッ!!」


 頭目の号令と共に、弓とクロスボウが唸りを上げた。

 狭い閉鎖空間での一斉射。回避不能の「死の雨」。

 だが、俺の『気配察知』は、矢が放たれる以前の筋肉の収縮から、すべての弾道を予読していた。

 最小限の挙動で、致命の軌道を逸らす。


 カンッ! カキンッ!


 数本の矢が胸を、肩を叩いたが、火花を散らして無惨に弾き落とされる。

 鉄羽鴉の黒羽と大蛇の青鱗を編み上げたこの鎧には、彼らの殺意は微かな振動となって伝わるに過ぎない。


「な……矢を、弾いた……!?」


 絶望が、冷たい汗となって彼らの顔を伝い落ちる。

 空を覆い尽くしたギア・クロウの爆撃に比べれば、彼らの攻撃はあまりにも鈍重で、あまりにも脆い。

 俺という存在の「スペック」は、すでに人間という枠組みを遥かに超克していた。


「さて、俺の番だな」


 黒い金属棒を構え、出力をミリ単位で調整した『ライトニング・ボルト』を起動する。

 俺の冷徹な殺意に呼応し、棒の先端に青白いプラズマが渦を巻き、狂おしいほどの熱を帯びる。


「――散れ」


 ――バギィィィィィィッ!!!


 洞窟全体が激しく震動し、白夜のような閃光が空間を支配した。

 網の目のように分岐した数万ボルトの雷霆が、盗賊たちの武器を避雷針として次々と貫いていく。


「ガァァァァッ!?」「アギェェェ……ッ!」


 一瞬。ただの一瞬だった。

 頭目を含む十人の盗賊たちは、激しい痙攣と共に白目を剥き、肉とオゾンが焦げる鼻を突くような異臭を漂わせながら地面に伏した。


 俺はピクピクと震える敗残者たちを一瞥し、奥に鎮座する鉄格子の扉へと歩みを進める。

 腰の銀色ナイフを抜き放ち、その圧倒的な硬度で錠前を力任せに断ち切った。


 扉の向こう側に眠っていたのは、血塗られた「略奪の果実」だった。

 木箱から溢れ出す金貨と銀貨。宝石が放つ毒々しいまでの輝き。上質な織物の香りと、無機質な武具の冷気。

 そして何より、周辺の地理と情勢を刻んだ、羊皮紙の地図。


「これだけの初期資本と情報。……野望の第一歩としては、上出来だ」


 誰かの家畜として生きる日々は、あの大森林に置いてきた。

 戦国時代の堺の如く、圧倒的な富と武力を背景に、この世界の頂点と対等に渡り合う。その礎となる「重み」が、今、俺の手の届く場所にある。


「インベントリ」


 ヒュンッ。


 微かな風の鳴るような音と共に、金貨の詰まった木箱が、武器が、地図が、次々と空間から「消滅」していく。

 時間が完全に停止する神の蔵。マジックバッグの深淵は、奪い取った全てを永遠の鮮度で保存する。


 わずか数分。

 略奪者たちの宝物庫は、埃一つ残らない空虚な空洞へと成り果てた。


「ごちそうさまでした」


 俺は黒い金属棒を肩に担ぎ、意識を失った盗賊たちを置き去りにして、夜明けの風が吹き込む入り口へと引き返した。


 外に出れば、冷たい風が火照った顔を撫でる。

 地平線の彼方、夜明けの薄明かりの中に、巨大な城壁のシルエットが浮かび上がり始めていた。


 無力な迷い子としてではない。

 圧倒的な武力と、冷徹な計算高さを備えた「超越者」として。

 俺は不敵な笑みを深く刻み込み、ついに文明社会の入り口へと、力強い一歩を踏み出した。


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