613.アベル君と一旦ステイ。
613.アベル君と一旦ステイ。
俺は振り返り、マヤとロッティーに向かう。
二人とも顔を伏せていたが、俺を一回チラ見し、また顔を伏せた。
子供かよ。
一人は子供だが。
俺は歩いて二人に近付き、そして二人を華麗にスルー。
大蜘蛛の死骸へと向かった。
こっちの大蜘蛛は既に真っ二つだからね。
魔石を取り易い。
俺は大蜘蛛の割れた胸を両手で掴み、左右に開くため力を込めた。
「メリッ。」
真っ二つと言っても、水が切り裂いていない体の下の方は繋がったままだから、嫌な音を立てて蜘蛛の胸が開かれた。
すると、それだけで黒光りする物体が見つかった。
「お、あった、あった。水が避けていてよかったなぁ。」
俺はそう言うと、胸の隙間にあった魔石をつまみ上げ、水魔法で洗ってからポーチにしまった。
そして、ニックたちが待っている方へ向き直ると、俺をうかがっていたロッティーとマヤがまた前を向いて俯いた。
面倒臭い連中だ。
俺は歩いてその二人に近付き、
「そこに座ってないで、こっちおいで。」
とだけ二人に呼びかけ、ニックたちの方へと歩みを進めた。
俺はニックとアンネがいる場所に着いてから、
「ニックも疲れたようだから、休憩しよう。」
そう言って、ブランケットを背嚢から取り出し、その地面に敷いて腰を下ろした。
その様子をまだロッティーとマヤは近くで立って見ている。
「突っ立っていないで、座んなさいよ。休憩にならんだろう?」
俺は二人に声を掛ける。
「怒ってないんですか。」
マヤが俺に言った。
「怒んないよ。それより座れ。」
俺の言葉に、二人はおずおずと俺と同じ準備をしてから座った。
その二人を見て俺は口を開いた。
「今回は叱りようがないからなぁ。苦手な大蜘蛛が頭の上から降ってくれば、マヤだって驚くだろう。姉さんもまだ戦闘に慣れていないし。偏差射撃がちゃんとできないとね。」
「偏差射撃って?」
ロッティーは手短に聞いてきた。
「動いている標的を射撃するときに、その動きを予想してあらかじめ来る場所へ撃つ技術のことだよ。アンネはもう魔物の動きも知っているし連射が出来るから、ばら撒けば良いだけだけど、姉さんは単発だからその技術の必要性は段違いだ。」
「私も先読みしようとしていたのよ。」
ロッティーが悔しそうに反論する。
「うん、でもやはり魔物たちの動きを覚え、それに合わせてファイアーボールを放つ慣れが必要なんだよ。」
俺がそう言うと、
「アベルはどうしていたの?」
と、ロッティーが聞いてくる。
「僕も連射が出来るからね。一度に十発放つこともできるし。」
「ズルい…。」
そう言って膨れるロッティー。
その膨れっ面から一転、何かを思い出したのか、
「そうだ!聞きたいんだけど。」
「何?姉さん。」
と、俺は聞き返す。
「さっきの水は何?水なのに魔物が切れるの?」
ウォータージェットが不思議だったのか。
「あれ?まだ教えてなかったっけ?」
「聞いてない。」
そう言って、ロッティーはまた膨れる。
「水を勢いよく出すことは最初から出来ていたんだ。でも途中で曲がって地面に落ちちゃうでしょ?」
「うん。」
ロッティーは興味深げに聞いている。
他の皆も興味がありそうだ。
「それで、勢いがさらに増すにはどうすればいいかを考えた。」
「それで?」
ロッティーが急かす。
「はじめは量をたくさん出せばいいと考えた。でも違ったんだ。出す量はそのままに、水の出口を魔力操作で絞って細くして行ったら、遠くに飛ぶようになったんだ。さらに、魔力操作と魔力固定で空気に干渉しないようにしてみた。はじめはただの興味本位の実験でね。そして放たれたその水は見えなくなるくらい遠くまで飛んで、横に振ったら、立っていた木を切り倒しちゃったんだ。」
「え?木を切っちゃったの?」
ロッティーが驚く。
それは周りの皆も同じだったようだ。
「そう、そこの岩も斬れるよ。」
少し離れた岩に向かって俺はウォータージェットを放ち、切断して見せた。
それを見た皆は、ポカンと口を開ける。
「あの、空気の干渉って何ですか?」
ニックが何それ分からんという感じで聞いていた。
そりゃわかんないか。
「手袋外して、ブンブン手を振ると何もないのに何かが当たるだろ?それが空気だ。物をもの凄く速く飛ばそうとすると、空気って奴は滅茶苦茶邪魔なんだ。何も無くて軽さも感じないのに、不思議だよね。」
俺がそう説明すると、更にみんなはポカンとしていた。
科学が発達しないとは、こういうことなんだよね。
まあ、俺は実際に実験はしたけど、初めから魔力操作と魔力固定で水を絞りつつ放ってはいた。
前世の記憶で知っていたからね。
周りの人たちに分かり易く説明しただけだ。
「人に当たったら、どうなるんです?」
そう、アンネが聞いてきた。
「斬れるよ。実際にオスカーを襲った暴漢を斬ったからね。」
「アベル!そんなことしていたの?」
いきなりロッティーに詰められる。
いけね、余計なこと言っちゃった、と、反省するのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。
作者がんばれ!
面白いよ!
と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。
それでは、また続きでお会いしましょう。




