612.アベル君と挟撃。
612.アベル君と挟撃。
俺たちはそのまま進む。
ムードメーカーだったマヤが黙りこくっているせいで、とても静かだ。
この場合の静かは悪い意味だけどね。
雰囲気が悪い。
ニックだって、簡単と言われたことに傷ついていたらしい。
魔法無しで頑張ってんのにな。
てなわけで、このパーティーはちょっと今現在、問題を孕んでいるわけだ。
そんなときは、トラブルが起きやすい。
斥候であるニックが前方へ探りに行って返って来た。
「大蜘蛛です。二匹。前と同じく、天井から来ます。」
そう手短に応え、戦闘の準備をする。
「後衛の三人も聞いたとおり、姉さんとアンネは、まず蜘蛛を落としてくれ。ニックと僕は落ちたそれを処分する。マヤは後方警戒。いいね?」
「はい!」
皆の返事は良かった。
一人だけ除いて。
マヤだけは、ちょっと上の空のようだ。
集中できないのも分かるが、危機感が足りない。
「マヤ…」
俺がマヤに声を掛けようとした時、「アベル様来ました!前方二匹!!」
ニックの鋭い声がダンジョンに響いた。
俺はマヤを放っておいて、大蜘蛛の迎撃に向かった。
ロッティーとアンネのファイアーボールが大蜘蛛たちを襲う。
が、敵もおいそれとは当たってくれない。
特にロッティーは単発でしか魔法を放てない。
いや、放てるが、魔素の節約をしなければならないから、そんなに連続しては打てないのだ。
そこを一匹の大蜘蛛が突いて来る。
ロッティーの狙いは正確だがまだ偏差射撃に慣れていない。
単発のファイアーボールを巧みによけながら、俺たちに迫ってくる。
アンネが一匹を落とし、それにニックが対応に行った。
もう一匹をアンネが狙いファイアーボールを撃とうとした時、勢いをつけて大蜘蛛がジャンプし、悪いことにマヤの後ろに着地した。
「「キャー!!!!」」
急に目の前に現れた大蜘蛛にマヤは驚き、ロッティーは後ろに回り込まれたことにパニックに陥り、二人ともしゃがみ込んでしまった。
アンネがその二人をかばおうと、ファイアーボールを後方の大蜘蛛に放つが、
「アンネ!ニックのフォロー!こっちは構うな。」
と、俺はアンネに命令した。
ニック一人じゃ荷が重すぎる。
しゃがんだロッティーとマヤの二人に、蜘蛛は尻を見せる。
糸で縛るつもりだろう。
が、そうはいかない。
そこの二人だけじゃないんだよ、お前。
戦況はちゃんと把握しないと、真っ二つだよ。
俺は右手を伸ばし、水を放った。
最初はチョロッと出た水が、鋭い音と共に線となり、一気に蜘蛛の腹を穿つ。
腹から入った水が、蜘蛛の頭から出て来た。
そしてそのまま俺は腕を上にあげる。
大蜘蛛のやわらかい腹が裂け、胸と頭に細い線だけ残し、水の線は真っ直ぐダンジョンの天井に伸びて水の飛沫をあたりにばらまいた。
よし、一匹始末した。
ニックは!?
振り返りニックを探す。
アンネが連射のファイアーボールでうまくヘイトを稼いでいた。
細かく当て、大蜘蛛は近くにいるニックに集中できていない。
ニックはそのすきを突きながら、蜘蛛の八本の足をどうにかして切ろうとしていた。
これよ、コンビネーションって奴はさ。
ファイアーボールを受けて、大蜘蛛の体毛が燃えたのだろう、ケラチンの焦げる嫌なにおいがあたりに充満していた。
大蜘蛛が覚悟を決めたのか、ニックへの対応よりも、アンネの方に向かおうと向きを変えた瞬間、
「ザクッ!」
という音と共に、スピードとニックの膂力の乗った剣が、大蜘蛛の首と胴の隙間に入り込み、ニックはさらに力を込める。
「ハアッ!」
短い気合と共に、大蜘蛛の首の位置が下がった。
すると、大蜘蛛は首をダランと下げ、しばらく足を痙攣させた後、動かなくなった。
「お疲れ!いいコンビだったね!」
俺は声を出し、二人を労った。
「ありがとうございます。流石に疲れました。」
そう言って、ニックはそこに座り込んだ。
「ニックさんの立ち回りは、もう冒険者そのものですね。」
アンネがニックをそう評した。
「戦闘の才能だろうねぇ。」
俺がそう言うと、ニックは苦笑いしながら首を振った。
その姿を見て、俺とアンネはクスクス笑った。
しかし、また後ろで体育座りになっちゃった二人を、どうしようかねぇ。
そう、俺は頭を痛めるのだった。
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本作は長編となっています。
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