611.アベル君とまさかの。
611.アベル君とまさかの。
覚悟を決めた女は得てして強い。
マヤも、小さい身体をバッタの腹の中に潜らせて、内臓をかき分け胸まで到達、そこから結構大きな魔石と、まさかのドロップまで掘り当てた。
金剛石である。
大きさは女性の拳の半分程度。
俺が見てきた金剛石の大きさには到底及ばないが、それでも大金貨には届くんじゃないかな?
てな具合の大きさだった。
「だ、大金貨!!」
バッタの体液でベタベタなまま、マヤはその金額の大きさに、しばらく呆けていた。
「ほれ。」
俺は呆けているマヤに、水と炎を同時に出し、温水シャワーを掛けてやる。
「あ、あったかい。気持ちいい。あれ?あ、アベル様、ありがとうございます。」
シャワーに気が付いたマヤは、体液でベトベトの顔をゴシゴシ洗う。
十分綺麗になったマヤは、自分の背嚢からタオルを出して、顔と頭を拭いた。
俺とニックが居るんで、鎧を着たままのシャワーだが、やらないよりはましだからね。
「アベル様、このドロップって普通は出ないんでしょ。」
マヤは気が引けるように聞いてきた。
「まあね。ドロップ自体が珍しいのに、金剛石となると幸運の女神が付いているとしか思えないね。」
俺はそう言ってアンネを見るが、アンネは涼しい顔だ。
自覚ありなんだろう。
「やっぱり、アンネちゃんのお陰ですか?」
マヤがまた聞いてきた。
「確かになぁ。アンネがいるとドロップが出やすいのは確かだね。」
俺の言葉を聞くと、マヤはアンネに向き直り、
「アンネちゃん!一緒に冒険者やろう!!」
と、宣った。
「ゴメン。」
アンネは速攻で、マヤを振った。
「なんで!?」
「私は学校を辞められないもの。ご領主様たちの善意で入れて貰えているのに、それを裏切るようなことはできないわ。」
と、マヤと冒険者をやれない理由をアンネが話した。
「そっか。ごめんね、変なことを言って。」
そうアンネに謝るマヤに、
「お前騎士学校辞めるつもりだったの?」
と、俺が聞いた。
「え?そうですよ。」
何のためらいもなく答えるマヤ。
「冒険者になるなら、卒業してからでも遅くないんじゃない?」
ロッティーがマヤを嗜める。
「そうですね、でも、こんな簡単に大金が手に入るなら、はやく冒険者になった方がいいんじゃないかって思ったんです。家族もその方が喜んでくれんじゃないかなぁって。」
そんなことを言うマヤに俺が口を開く。
「簡単じゃ無かったろ。というか、マヤはバッタに一太刀も浴びせていないじゃないか。やったのは解体だけ。それは簡単だろうさ。」
「それは、そうですけど。でも、アベル様だって、慣れるまでって言って下さったじゃないですか。」
再編時の俺の言葉をマヤは引用する。
「そうだよ。でもさっきの戦闘を簡単なんて言葉で片付けられたら、ニックや僕が浮かばれないからさ。違うかい?」
確かに、比較的新しい敵に対して、楽に倒せた感はある。
でもいきなり寄生虫に襲われたり、内臓と体液をぶっ掛けられたり、散々だったという思いを俺も抱えていた。
「わかってます!でも私だって後方警戒していたじゃないですか!」
「そうだね。では今の解体で虫には慣れたかな?」
「あ、いえ、まだです。」
「そうか。ならば引き続き後衛を。みんな休めたかな?」
結局これだ。
ま、俺自身も今回のような状況は苦手。
それは分かるし、否定できない。
だからこそ簡単なんて言ってほしくなかった。
「ええ。」
俺とマヤの問答を聞いていたロッティーが控えめに応える。
俺はあたりを見回すと、ニックとアンネが頷いた。
マヤは顔を伏せている。
今の問答の問題点でも気が付いたかな?
それならいいんだけど。
自分の進路だ。
十分悩めばいいのさ。
俺には出来ないことだからな。
勢いで行動を起こすのも、若者の特権と俺は思いなおすのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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