610.アベル君と臓物。
610.アベル君と臓物。
ニックはバッタに向かって左側に滑り込み、足を重点に攻撃を始め、俺は、ショウリョウバッタの触角一本を切り捨てた。
ショウリョウバッタは後ろ脚と胸を擦り合わせ、
「ギギイイイィィ!!」
と、背筋に怖気の走る音を出す。
こういう音の攻撃は地味に効く。
こちらの攻撃中は耳を塞げないしね。
触角を切られて怒ったのだろう、完全にバッタのヘイトを俺が取った。
あとは、ニックが足をどうにかしてくれれば、料理は簡単になるはずだ。
するとバッタは鋭く低く、俺に向かってジャンプをする。
俺も横っ飛びでそれをよけると、ファイアーボールが数個一気に飛んできた。
俺が射線から避けたのを見たのだろう。
連射だからアンネだろうけど、良いタイミングでバッタの複眼に当たり、バッタは前足で一生懸命炎を顔から擦るように消そうとしていた。
その隙を窺い、顔を擦っている前足の関節に、俺の黒曜鋼の剣の鋭い刃が滑り込んで切断した。
バッタは強靭な後ろ足を使って、身体を反らせ俺に乗り上げようとしてきた。
まだ前足一本では戦意は失っていないらしい。
持ち上がった胴体を俺に向かって降ろす前に、ガクンと左にバッタは倒れた。
ニックが左足を切り落としていた。
「やりました!!」
ニックの声が響く!
バッタは腹を俺の方に向け、後ろ足で俺を蹴ろうとまだ藻搔いていた。
「しぶとい野郎だ。」
俺はそう呟くと、とんできたギザギザの付いた右後ろ脚を避け、バッタのブヨブヨの腹に剣を差し込み、一気に切り裂いた。
「ブワッ!」
と、腹圧で抑えられたバッタの臓物が、俺に向かって降り注いだ。
「キャーーーー!!」
女性陣の黄色い声が上がる。
決して俺に好意を向けた声ではないが。
俺の身体はバッタの体液でベタベタだぁ。
解体は慣れたけど、こういうプレイは慣れていない。
「あああ」
なんて、声を上げていると、剣を持つ手に何かが絡みついた。
白い紐みたいなものが、俺の右手を締め上げる。
なんだ!
ひょっとして、寄生虫か!?
その紐は、先端を鎌首の様に持ちあげる恰好をすると、俺の腕にその先端を押し付けてきた。
こいつ!俺の中に入るつもりかよ!!
グロッ!!
俺は、右手に炎を生成し、その紐を焼いた。
身体強化をしているから、俺の身体と鎧はまだ大丈夫。
紐だけが焼かれ、お好み焼きの上の鰹節の様にウネウネ動き、しまいには焦げてなくなった。
「はあ…」
俺は深いため息の後、その場にへたり込んだ。
線虫の類なのだろうか?
今までも虫の体内に手を突っ込んで来たが、こんなのは初めてだ。
グロかったよ~!
「アベル様、大丈夫ですか?」
アンネとロッティーとマヤが、恐る恐る俺に近付いてきた。
「ヴァ~~~!!」
俺はそう言って、彼女らに手を伸ばし追いかけ始める。
「キャー!!!」
「冗談だよ。」
俺はそう言って、頭の上から水を生成し、シャワーの様に浴び始める。
魔法って便利!素敵!!
「もう!アベル!!本気で心配したんだからね!!」
さっきまで逃げまどっていたロッティーが、俺に近づき文句をたれた。
「だから、冗談だって。でもキモかったなぁ。あ、僕はもうシャワー浴びちゃったから、解体カンベンね。」
「えー!ズルい!!」
と、声を上げたのはマヤだった。
「マヤ、お前、解体やったことがあったっけ?」
俺がそう言うと、急にマヤはモジモジして、
「いえ、そういうことじゃなくてですね。」
などと言い始める。
「今日の解体はマヤで。よろしく。」
「えー!!嘘―!またさっきみたいのウネウネが出てきたらどうするんですか!!」
盛大に不満を俺にぶつけるマヤ。
俺は水で髪をすすぎながら、
「そんときゃ燃やしてやるよ。」
とだけ言って、突き放した。
「たぶん腹をかき分けて、胸の内部にアプローチした方が今回は早いんじゃないかな?」
俺はそうアドバイスを与え、呆然とするマヤを見送るのであった。
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本作は長編となっています。
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