607.アベル君と説教。
607.アベル君と説教。
俺は左手に剣を持ち伏せた状態から身を起こした。
「ふう。」
剣を大蜘蛛から抜き、鞘に納めてから身体強化を解除した。
じゃないと、黒曜鋼の剣が何らかのひずみで割れてしまうかもしれないからね。
身体強化を発動しないと、その剣の真価も発揮できないって、やっぱ、この剣自体がデバフなんじゃ無かろうか。
そんなことはとりあえず置いておこう。
俺は大蜘蛛の糸でベタベタになっている右手に身体強化を掛け、炎を生成し、糸を焼いた。
火傷したくないからね。
ちゃんとやるべきことをやっておくと、鎧も焼けずに糸だけ焼けるんだ。
便利でしょ。
「アベル様!大丈夫ですか!?」
そう言ってアンネが駆け寄ってくる。
ん?ニックの方はいいの?
と、首を巡らすと、ニックは頭と胴が分かれた大蜘蛛に寄りかかり、一息ついているところだった。
やるなぁ、身体強化無しでたいしたもんだ。
そして、俺は駆け寄ってきたアンネに声をかけた。
「アンネ、ありがとう。大丈夫だよ。しかし、油断した。危なかったね。」
「アベル様が跳ね上げられたときは、心臓が縮み上がりました。でも、ご自分で何とかなさると思って、ニックさんのサポートを必死で。」
そう涙声で話すアンネ。
「ごめんね、心配かけて。あまり簡単に倒し過ぎると、皆のやる気をそぐような気がしてさ。今度からは気を付けるよ。」
そう言って、俺はアンネの頭を軽くなで、それをやめるとニックのそばへ行った。
「大丈夫か?ニック。」
俺の問いに、
「大丈夫です。アンネさんのサポートがなかったら厳しかったですね。ファイアーボールってあんな連続で発射できるものなんですか?」
「いや、普通の魔法使いはああはできない。いや、出来るんだが、あっという間に魔素がなくなる。アンネと僕がちょっと変わっているんだ。」
俺は苦笑いしながら、ニックの質問に答えた。
「アベル様も出来るんですね。」
ニックがどこか皮肉げに言う。
「まあ、あの連射は僕がアンネに教えたやり方だから。」
「本当に万能なんだな。凄すぎですよ。」
今度のニックの声は、あからさまに呆れた声だった。
万能なんだから仕方ないけどね。
「さて、向こうの二人はどうしてくれようかな。」
俺の背後から数メートル離れた場所で、体育座りしているロッティーとマヤを見た。
俺の視線に気が付いたロッティーが目を伏せた。
もう二十歳も過ぎたいい大人がなんなんだよ。
ロッティーは魔法のエキスパートだ。
魔力操作、一部の魔法に関しては俺なんかより群を抜いている。
ただし、それは戦闘以外の場所でのことだ。
彼女はこのダンジョンが初めての戦闘体験である。
頭でわかっていても、戦闘慣れしていなければ、どこでどの程度の魔法を使っていいかはわからない。
それらは座学では理解できない。
身体に染みついていくものだからだ。
「アベル様、あまりキツイ言い方は。」
アンネが心配そうに俺を見つめていた。
「それは向こうの態度によるかな。」
そう言って、ロッティーが居る方向へ俺は足を進めた。
二人が座り込む場所に到着すると、俺はロッティーに話しかけた。
「姉さん、止める?僕は止めないよ。」
俺の言葉に、ロッティーは歯を食いしばった。
「マヤは止められないからな。学校の授業だから。ただ、後方で見ているだけはできる。嫌ならそれでいい。僕はリーダーとして教官にはその現状を報告しなければならないけれど。もちろん分け前もない。働かない者に施せない。」
マヤは涙目で俺を見た。
マヤにはちょっと酷な話なんだけどね。
ロッティーの魔法に巻き込まれて、大蜘蛛の標的になってしまっただけだから。
ただ、そこから戦意も喪失してしまった。
戦えないなら後ろで見てもらうしかない。
「あんたたち、こんなところで何をやっていますの?」
話をする俺たちの後背から、いきなり声をかけられたのだった。
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本作は長編となっています。
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