605.アベル君とダンジョンと目的と。
605.アベル君とダンジョンと目的と。
俺はローチの首根っこの隙間に手を突っ込んで、魔石を探り、手触りのあった石を引っ張り出す。
「うん、普通。」
そう言って、小さい魔石を水魔法で流した後、手ぬぐいで拭いてポーチに納める。
「さて、もう一丁。」
もう一体のローチも手早く処理する。
足が無くてこっちはやり易いね。
これも小さな魔石のみだった。
これが普通だ。
ドロップなんて簡単に出てたまるか。
トレーサは自分自身にはバフ掛けてないように見えるが、アンネにバフをてんこ盛りで掛けた感じがする。
俺は手早く魔法で水を出し、手を洗ってタオルで拭いた。
「慣れているとはいえ、良く出来るわね。」
ロッティーが呆れたように俺に言う。
「仕事だったからね。やらないとフレイさんに叱られたし。今は冒険者なんでしょ!辺境伯嫡男なんてダンジョンに入ったら忘れちゃいなさい!!って。」
「似てる~。」
俺の声真似を聞いて、アンネが笑った。
「さて、先へ進もうか。」
俺はパーティメンバーに声を掛け、
「はい!」
と、皆も良い返事を返してくれた。
さて、これからの方針としては、基本ニックとマヤのサポートとして俺は動く。
後衛の二人にも、その話はしておいた。
ロッティーは授業ではなく、私的興味としてダンジョンに入っている。
アンネは経験者で、ましてD級冒険者だから、魔法大学校の生徒の授業と言えど、単位なんて関係ないだろう。
純然たる授業としてこのダンジョンを経験しなければならないのは、ニックとマヤだけなのである。
「ニック!魔素呼吸も並行して行うように。そろそろ魔素も濃くなり始めたからね。」
俺がそう言うと、
「はい!」
と、気合の入った返事をニックはした。
魔素の濃い環境での深呼吸で、魔素を感じられれば、幼少期に家庭教師から授業を受けなくても、騎士学校で魔法を覚えることが出来る。
これは国にとってのブレイクスルーだろうし、戦力増強にもなる。
しかし、家庭教師連中からは命を狙われるという諸刃の剣。
「アベル、大丈夫?家庭教師たちは黙ってないわよ。何回も言うようで悪いけど。」
ロッティーが心配そうに呟いた。
「うん、僕も前に言ったけど、彼らの客は主に金を持っている人達だ。それ以外の人間は眼中になかったんだし、大丈夫じゃないかなとは思ってるんだ。変な因縁は付けられるかもしれないけれど、それは個別で対処するよ。ああ、大事な人たちにまで手を出そうとしたら、その身体をもって知ってもらうよ。僕の地位と魔法と剣術でね。」
「アベル!?」
さらに心配そうな声が俺の耳に届く。
「基本は話し合いさ。それは崩さないし、僕からは手を出さない。手を出したら骨も残さないけど。」
「もう!そういうことじゃないの!そんなつまらない争いをアベルにしてほしくないのよ。」
「それは同感だね。」
「ホントに?」
ロッティーは並んで歩いていた俺の顔を覗き込む。
「ホントさ。」
「ならいいけど。」
そう言ってロッティーは覗き込むのを止めた。
「来たよ。」
「え!?」
俺の不意の一言に、ロッティーが足を止めた。
「向こうの天井。三匹いるね。」
大きな蜘蛛が天井に張り付き、こちらをうかがっていた。
「ニック、この状況をどうする?」
天井に張り付き剣が届かない敵に対し、どう対処するか。
それをニックに聞いてみる。
「投擲武器は一応あります。ただし数が限られています。ここは魔法使いの方々にお願いするのが盤石でしょうね。」
そう言って、ニックはロッティーたちを見た。
視線を受けたロッティーは、すぐに大蜘蛛を見て、
うえぇ、と舌を出した。
前に居たマヤも、
「あんな大きな蜘蛛、嫌ですよ。」
などと言い始める。
「お前ら、あれは蜘蛛じゃない、魔物だ。魔物は倒せば金になる。この前分かっただろう?」
「だけど~」
いつもの二人は、声を合わせ不満をあらわにするのだった。
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本作は長編となっています。
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