600.アベル君と街の見え方。
お陰様で600話となりました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
これからもアベル君のゆるい活躍を書いていきますので、一層のご愛顧をよろしくお願いします。
600.アベル君と街の見え方。
「掛けろ。」
応接セットに手を向け、俺にソファへ座れとグスタフさんは促した。
「では、遠慮なく。今日は誰もいませんね。」
俺が首を巡らせて言うと、
「いつも他人がいるわけでもないわ。」
デスクの向こうの憮然とした顔が言った。
「そりゃそうですよね。それで?」
俺が用件を聞くと、
「慌てるな。いや、酷い顔だな。」
またこれか。
「昨日、朝から晩まで校長と内務大臣でお仕事したじゃないですか。帰れば帰ったで、いろいろありまして。」
ストレスなんだよ!
なんて、言いたいけど、言えないんよね。
「アベルと妾のことをとやかく言うわけではないが、若いからと言って、無茶をするなよ。」
そう言って、グスタフさんはカップを啜った。
自分だけ飲み物があるなんてズルい。
いや、すぐ終わらせればいいんだ。
「ご心配どうも。それで何用です?」
「聞いただろう?」
思わせぶりにグスタフさんは言った。
「件の教官の退職ですか?」
「しらばっくれるな。その次のことだ。」
「亡くなられたとか。」
「うむ。」
そう深く頷く、グスタフさん。
「鐘七つのころに、馬車を彼奴のところに向かわせた。到着早々、アベルが昨日言っていたことを含め、今までこちらで調べた彼奴の行いについて、彼奴から弁明を聞いたが容認できるようなものは一切なかった。」
そこまで言うと、グスタフさんは「ふう。」と、軽くため息を吐いた。
「だから退職させたと?」
「そうだ。」
俺の問いに、グスタフさんは簡潔に答えた。
「ここからが問題だ。御者の話では、酒が飲みたいから市街地に行ってくれと頼まれたそうだ。」
俺はそれを聞いて頷いた。
「いくらなんでも、鐘七つ半程度の時間でしょう?」
俺は先ほど幹部会室で行った推理がほぼ当たっていることを知り、さらに核心に触れるべく質問した。
「それが、あるんだと言って聞かなかったから、そのまま送ったとの証言であった。御者は我が家で長年勤めておる御者で、その身元ははっきりしておる。噓の証言など儂にするようなものではない。」
では、本当に繁華街に朝から飲める場所があるのだろう。
それは不思議ではないからね。
夜の商売で、朝に仕事が終わり、普通の人たちのように引っ掛けてから帰りたいという需要も勿論あるだろう。
ノヴァリス王国の首都であり、大都会のセイナリアだ。
そのような店が無いわけがない。
「われら貴族からは見えない街の見方があるのであろう。」
「そのようですね。僕らはどうしても表しか通りませんから。」
「うむ。」
そう言って、グスタフさんは深くまた頷き、
「死因に関してだが、死体からは強い酒精のにおいがしたそうだ。医者の話では強い酒精の摂り過ぎではないかとの診断で、現場近くに彼奴が飲みに行っていた酒場がやはりあり、そこでの聞き込みで、何かに腹を立てて、強い酒精の酒を一気に飲んでいたそうだ。」
アホか、急性アルコール中毒とか。
春先、大学の新入生がかかる病気として有名だが、俺が転生するころにはさすがに聞かなくなった。
が、大学も学生も隠しているんだろう?と俺は考えていた。
いや、前世の大学の新歓コンパなどどうでもいいのだ。
「他の者が接触したなどは?」
「酒場の店主の話では、荒れた教官は他人を寄せ付けるようなことはなかったとのことだ。」
「では?」
「ほぼ決まりだ。バルドセイナリア騎士団長指揮の下、この事件は終息した。アベル、お前に聞かせたかった話は以上だ。」
そう言って、グスタフさんは机の引き出しから葉巻を取り出した。
「僕に聞かせたかった?なぜです?」
「お前は自分が疑われることに気が付くだろう?その不安を取り除いてやりたかったのだ。」
俺の問いに、やけに優しい答えが返ってきて、俺は面食らってしまった。
「アベル、お前は何でもできて何でもわかる。だから頼られるし、頼られれば無理もする。だが無茶はするな。今日のようにお前にも限界があるのだからな。」
そう言ってグスタフさんは、甘い紫の煙を吐くのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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