599.アベル君と帰れぬ放課後。
599.アベル君と帰れぬ放課後。
「私もこれで引き上げるが、近衛で貴様の能力を知るものが疑いを持つかもしれない。近衛自身がこの事件を取り扱うことはないが、そういう誹りを受けるかもしれないのは覚悟しておくことだ。私は貴様を信用しているがな。」
信用はしているが、フォローはしきれないとオスカーは言っているのだ。
「なぜアベル先輩が疑われるのです?」
こう聞いてきたのはミカ嬢。
この人、割と好奇心多めだね。
「秘密。」
俺はそう言って彼女にウインクをした。
「なんですかそれ!?気持ち悪い。」
あからさまな拒否反応を、ミカ嬢は見せた。
まあ、いいんだけど。
ちょっと悲しい。
「ちょっと!ミカ様!気持ち悪いとは何です!」
ミカ嬢の言葉に反応し、オリビィが憤った。
「それですよ、オリビア様。オリビア様がいらっしゃるのに、私にウインクなんてするから。」
めちゃくちゃ冷静に、ミカ嬢がオリビィを諭す。
「あら、それはそうですわね。旦那様!不用意ですよ!」
コロッと諭されて、オリビィが俺に文句を言ってきた。
「そうかな?気を付けるよ。己の配偶者しか見ないようにする。」
オリビィが期待を持った眼差しで俺に聞いてくる。
「私ですよね?」
上目使いで、長いまつ毛をフルフル震わせていた。
「ローズだよ。」
俺はにべもなく告げる。
だって本当だもん。
「知っているけれども!分かっているけれども!!」
そう言ってまた、さっきのように俺をポカポカとオリビィは叩き始めた。
「仲が良い事だ。だが、あまりいじめるなよ。未来の義弟殿。」
オスカーが皮肉気な顔で俺に言う。
「うちの籍に入れば、それはもうお姫様扱いしますよ、未来の義兄殿。」
俺がそう言うと、
「姫ですよ?姫なのに!」
そう言って俺を殴る力を籠めるオリビィ。
「僕も帰るよ。さすがにもう限界。オリビィ、また明日ね。」
俺は俺を必死に睨みながらポカポカ叩くオリビィの頭をポンポン軽く叩く。
すると、オリビィの叩く手も止まった。
「あ!逃げられるところだった!先輩!なんで疑われるのです!?」
チッ!
気付きやがった。
「秘密だよ。じゃあね、みんな。」
俺はそう言って椅子から立ち上がり、幹部会室をあとにした。
廊下に出てほどなく歩いていると、ライラ女史と出くわした。
「あら、アベル・ヴァレンタイン。幹部会室にいたの?」
「ええ、ライラ先生。ちょっとオスカーに呼ばれまして。」
俺がそう言うと、
「オスカーにね。私も会いに行かなきゃ。じゃなく、」
などとライラ女史は気を持たせたような言い方をした。
つか、勝手に会いに行けばよかろう。
「校長が探していたわよ。」
え゛!
「グスタフさん、学校に来ているんですか?」
俺はつい名前で校長を呼んでしまった。
「気安い呼び方してんのね。でも、あなたならそうか。不思議じゃないわね。来ているわよ。早く校長室に行きなさい。」
一瞬キツイ目をしたライラ女史は、すぐに呆れた顔になり、俺を校長室へ促した。
「はい、それでは。」
俺はそう言って軽く頭を下げ、校長室に向かった。
まじかよ。
今度は何だ?
教官の死についてかな?
そんなことを考えつつ、校長室に向かった。
そして、立派なドアの前に立ち、ノックを二回叩く。
「アベル・ヴァレンタイン!お呼びにより参上仕りました!」
俺がそうドアの前で叫ぶと、
「入れ。」
一言、野太い声が中から響いてきた。
「失礼します!」
そう言って俺はドアを開け、校長室に入る。
面倒ごとの予感しかしないが、俺に拒否権はない。
学校の校長室なんてそんなものだ。
「アベル、入る前の口上は何とかならんのか。」
グスタフさんが鬱陶しそうに聞いてきた。
「目上の方には敬意を払うものだと思いましたので。」
「払い過ぎだ。慇懃無礼というのだ。お前は知っていてやっているんだろうがな。」
俺の言葉に、グスタフさんは皮肉たっぷりに言うのだった。
俺の皮肉が届いていたようで良かったよ。
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本作は長編となっています。
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