598.アベル君と事件現場。
598.アベル君と事件現場。
「まだ自然死の線もあるだろう?」
この線がまだ残っているんだ。
「うむ、そうだ。そのとおりだな。」
オスカーもそう言って頷く。
「で、その死体は、何時、何処で見つかったんだ?」
俺はオスカーにまた問う。
「教官は校長に呼び出され、早朝学校に来たそうだ。そして、退職を言い渡され学校を去ったそうだ。そして、セイナリアの繁華街の路地で見つかった。なぜそこに行ったのかは分かっていない。早朝だったしな。酒を飲むような店も開いてないはずだ。」
オスカーは記憶を紐解くように、俺たちに話した。
「間違っても騎士学校の教官が剣で討たれるのも考え辛いよな。ま、実際、切創などは無かったんだろ?ちょっと整理しよう。」
俺がそう言うと、なぜかオスカーとお姫ズが輪になってズイッと前に頭を近づけた。
狭い。
まあ、いいけど。
「呼び出されたのは早朝。鐘八つ前だろう。八つ以降なら他の教師たちも登校してくるから、目撃者がグンと増えるがそのような話もない。鐘七つくらいに呼び出されたとみる方が妥当だろうな。そこから繁華街まで、歩きで鐘半分くらいか。」
俺がそう言うと、
「辻馬車を拾うということは無いですか?」
と、オリビィが聞いて来た。
「それは多分無い。街からここまで離れているし、この学校以外は主だった施設もない。しかも早朝ときている。辻馬車の御者だって誰もいないところに馬車を走らせないさ。」
俺がそう言うと、オリビィはハッとして、
「そうですわね。」
とだけ呟いた。
「校長はどうやって登校したのでしょう?」
ミカ嬢が聞いて来た。
「侯爵家に馬車がないはずもない。」
オスカーがにべもなく言った。
婚約者候補なんだから、もうちょっと優しく言ってやれよ。
「あら、校長は侯爵だったのですね。知りませんでしたわ。」
ミカ嬢はそう言って口をつぐんだ。
でもミカ嬢の考えは悪くない、と、俺は思った。
「グスタフさんが、情けで馬車を貸したってことも考えられるな。」
「うむ、先触れ兼迎えで教官の家へ馬車を差し向け、帰りも馬車を貸したとすれば自然か。」
オスカーが俺の意見の補足をした。
「面白くなってきましたね。」
ルシア嬢の目が輝き始めた。
「人一人が亡くなっているので、楽しまない様にね。」
俺は仕方なく突っ込んだ。
「ええ、私の頭の中で考えるだけにとどめておきます。先程のように、皆様に叱られることのないようにいたしますので、ご心配なく。」
すました顔でルシア嬢は言い切るが、その脳内が駄々洩れになるのが創作オタだって俺は知っている。
「それならばそれで良かろう。まあ、歩きなり馬車なりで繁華街まで行って、彼は何をしようとしたのか?」
オスカーが素早く切り上げ、話を進めてきた。
「そればかりは、本人に聞くしかないが、もう聞けないな。ただし、退職を言い渡されたことは、相当な心の負担になっただろう。急激な心の負担は、如実に体に現れる場合がある。緊張すると喉が渇いたりな。」
俺がそう言うと、
「確かにそうだが、その程度で命を落とすことがあるのか?」
と、若者代表のオスカーが疑問を口にした。
あるんだよ、ストレスによって急激に血圧が上がって、それ切っ掛けの脳溢血や心筋梗塞なんてね。
ただ、この場でそれを言うのは適当か。
俺は若干逡巡してしまった。
「あ!そう言えば私のお爺様がそうでした。叔父様が魔物に襲われて帰らぬ人となったことがあったのですが、その時のショックでお爺様もお亡くなりに。」
ルシア嬢が自らの実体験を示してくれた。
「うん、そういう精神的苦痛によって、人の身体は脆くあるようだ。ルシアさんの実体験があるようにね。ただ今回がそうだったかはわからない。外傷がないということなら毒の可能性もある。まあ、ここで僕たちが話をしていても無駄ってことだな。」
俺はそう言って話を切り上げるのだった。
「え?終わり?」
残念そうな声を漏らしたのはルシア嬢であった。




